45 ユリウスの事情①
勇者ユリウス・オッペンハイマーは、オズワルド王城の城下町を歩いていた。
魔界帰りの英雄である彼の姿を見かけるなり、
町の人々は手厚く歓迎した。
「勇者様、カッコイイーっ!!」
「ユリウス様!自慢のパンを召しあがっていってくださいな」
「うちの娘を、嫁にいかがですかな」
止まない声援に爽やかな笑顔で応じるユリウスが、
彼の眩しさとは対照的な〈ある一行〉とすれ違う。
「ほら、さっさと歩け」
罵声を浴びせる王立魔法騎士団の騎士たち。
その後に続くのは「枷」で手足を拘束されたミュルクの少年少女だ。
(ミュルク狩りか)
と、ユリウスは淡々と思った。
穏やかな街角に不釣り合いなこの行列は、
しかしこの王都ではよくある光景だからだ。
魔法が使えないミュルクという存在は、「精霊魔法が絶対」のオズワルド王国に居場所がない。
――王宮に仕える奴隷になる他には。
「待ってください!その子を連れて行かないで……」
ひとりの母親が、連れられて行くミュルクの少年を涙ながらに追いかけている。
しかし、魔法騎士団員の腕力で食い止められ、追いやられ、やがて力尽きて座り込んだ。
「精霊に愛されなかったミュルクは、人間として欠陥がある。
心を闇に染め、悪魔と契約する傾向がある」
魔法騎士団の男が母親の前に立ちふさがり、
「反逆罪」の罪状を読み上げ始める。
「よって、本来死罪にすべきところを、王国の善意で生かして奴隷にしてやっている。にもかかわらず、魔法が使えないことを隠してミュルクを市内に匿うことは、平和を脅かす反逆罪である」
この決まり文句に、母親はきっと牙をむく。
「魔法が使えないからと、我が子を奴隷に出す親がいるものですか…っ!」
震えながらに訴える彼女もまた、魔法騎士団員たちにより身柄を拘束される。
「連れていけ」
それは見せしめのように、仰々しくこの街角で行われている日常である。
(愚かな母親だ―)
ユリウスもまた、その青く冷たい瞳でこの光景を傍観していた。




