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ダンタリオンと勇者   作者: 小栗とま
オズワルド王国の章
48/84

45 ユリウスの事情①



 勇者ユリウス・オッペンハイマーは、オズワルド王城の城下町を歩いていた。


 魔界帰りの英雄である彼の姿を見かけるなり、

 町の人々は手厚く歓迎した。


「勇者様、カッコイイーっ!!」

「ユリウス様!自慢のパンを召しあがっていってくださいな」

「うちの娘を、嫁にいかがですかな」


 止まない声援に爽やかな笑顔で応じるユリウスが、

 彼の眩しさとは対照的な〈ある一行〉とすれ違う。


「ほら、さっさと歩け」


 罵声を浴びせる王立魔法騎士団の騎士たち。

 その後に続くのは「枷」で手足を拘束されたミュルクの少年少女だ。


(ミュルク狩りか)


 と、ユリウスは淡々と思った。


 穏やかな街角に不釣り合いなこの行列は、

 しかしこの王都ではよくある光景だからだ。


 魔法が使えないミュルクという存在は、「精霊魔法が絶対」のオズワルド王国に居場所がない。

 ――王宮に仕える奴隷になる他には。


「待ってください!その子を連れて行かないで……」


 ひとりの母親が、連れられて行くミュルクの少年を涙ながらに追いかけている。

 しかし、魔法騎士団員の腕力で食い止められ、追いやられ、やがて力尽きて座り込んだ。


「精霊に愛されなかったミュルクは、人間として欠陥がある。

 心を闇に染め、悪魔と契約する傾向がある」


 魔法騎士団の男が母親の前に立ちふさがり、 

 「反逆罪」の罪状を読み上げ始める。 


「よって、本来死罪にすべきところを、王国の善意で生かして奴隷にしてやっている。にもかかわらず、魔法が使えないことを隠してミュルクを市内に匿うことは、平和を脅かす反逆罪である」


 この決まり文句に、母親はきっと牙をむく。


「魔法が使えないからと、我が子を奴隷に出す親がいるものですか…っ!」


 震えながらに訴える彼女もまた、魔法騎士団員たちにより身柄を拘束される。


「連れていけ」


 それは見せしめのように、仰々しくこの街角で行われている日常である。


(愚かな母親だ―) 


 ユリウスもまた、その青く冷たい瞳でこの光景を傍観していた。



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