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ダンタリオンと勇者   作者: 小栗とま
魔界の章
46/84

44 7つの大罪


 やがてパンデモニウムの王座の間に、

 ルシファーが招集した7つの大罪たちが集う。

 

「魔王ルシファーの名のもとに、あなたたちに命じます」


 レヴィアタン、ベルゼブブ。

 アスモデウス、マモン、ベルフェゴール。


 彼らを見渡しながら、ルシファーはあでやかな薄紫色の髪をかき上げた。

 その指にはめた「魔王の指輪」がきらりと光る。


「我々はこれより、人間界に進軍します。

 まずは勇者を送り込んできたオズワルド王国から」


 ルシファーが合図をすれば、レヴィアタンが一匹の小ぶりな「蛇」を登場させた。

 次にベルゼブブが、彼の悪魔能力である「巨大化・矮小化」を使って、矮小化していた蛇を元の大きさに戻した。


 そしてそれは、パンデモニウムの空間を全て埋め尽くすかのごとく巨大な蛇――「ヨルムンガンド」へとその元の姿を露わにした


「――ヨルムンガンドをつかって精霊の丘を壊滅させる」


 そう告げるルシファーの冷静な声とは不釣り合いなほど、

 ヨルムンガンドは規格外の禍々しさを醸し出していた。


「ヨルムンガンドは危険すぎる……。

 私達でも、触れたら魔力を吸い取られちゃう……

 どうしてレヴィアタンは平気なの……」


 小柄なベルフェゴールは、ダボっとした服の中に彼女の小さな顔をうずめた。


「ヨルムンガンドを引っ張り出した問題児は君か」


 と、アスモデウスが肩をすくめる。


「僕だよ」

 

 誇らしげに胸を張ったのは、レヴィアタンだ。


「蛇使いの僕からしてみれば、ヨルムンガンドを手なずけることも不可能じゃないんだよ!へへへッ」


 調子にのってペラペラと話してしまうレヴィアタンを、王座からルシファーは冷たく見下ろしていた。


「なるほど。それじゃあ、ヨルムンガンドを勇者の剣に化けさせて、サタンを封印するなんてことも、君ならできちゃうのかな?」


 アスモデウスが閃いた、という感じで細い指をピンとたてた。


「もちろ…」

 

 レヴィアタンが堂々と口を開こうとすると、ルシファーがすかさず咳ばらいをした。


「アスモデウス。我々のやり方に文句があるのなら、

 ここに控える魔王軍があなたを襲いますよ?」


 ルシファーが冷笑を浮かべて指輪をかざせば、王座の間の地下から通路を昇り次々と骸骨の戦士たちが現れた。


「ちょっと。冗談、冗談」


 と、アスモデウスが肩をすくめれば、ルシファーは満足げに微笑を浮かべる。


「人間界へと、ヨルムンガンド、そして骸骨の戦士を送りこむには、

 莫大な魔力が必要です。あなたたちも協力しなさい?」


 と、一同を見渡すルシファーの眼光にやられて、

 悪魔たちは沈黙と言う賛同を示した。


「あの、気になることが」


 と、小さな声を上げたのはベルフェゴールだ。


「骨ちゃんたちが、地下に一杯いるのはわかったけど」

「骨ちゃん……?」


 と、ルシファーが怪訝な表情をする。


「そこに何体か倒れてる。ほっといていいの?」


 そう言ってベルフェゴールが指す方には、

 100体の骸骨の戦士たちが動かないままで倒れていた。 

 

 それはサタン封印の直後。

 勇者に襲い掛かり、ダンタリオンがクロムの力で倒した戦士たちである。


 すかさず声を上げたのはレヴィアタンだ。


「それはマモン!君の手下だったダンタリオンが持っていた剣!

 あれの仕業だろ!」


 と、マモンに告げる。


「ダンタリオンにそんな力があったんだー。

 惜しいことしちゃったかな」


 マモンが呑気な声を上げる。


「ダンタリオンは魂の契約ができない出来損ないだったし、私、クビにしちゃったんだよね。

 だからもう、とっくにエテルも稼げなくて、消えてるんじゃなーい?」

 

 マモンの言葉に、皆々は同意を示した。

 エテルを稼げない悪魔が消えることはよくあることだ。


 しかし疑り深い性格のレヴィアタンがそれで納得するわけではない。


「フン、僕のトンボにダンタリオンを尾行させてる。問題行動を報告するようにと…」


 噂をすれば、レヴィアタンの前にトンボが飛び降りる。


「ダンタリオンと剣は?……よしよし。

 へっ、やはりあいつ、やっぱり。エテルを稼げずに、砂と化したらしい」


 と、レヴィアタンが愉悦に浸る。


 しかしアスモデウスは、ダンタリオンを尾行していたらしいそのトンボが、どこか挙動不審にふらふらと宙を飛び回っていることに気がついた。


(あれはサタンの…)


 レヴィアタンは気付いていないようだが、彼の魔物のトンボはおそらくサタンの悪魔能力「服従」にかかっている。

 サタンはまだ何処かに存在し、レヴィアタンのトンボを服従させて操ることに成功しているのだ。


 しかしこのことを、アスモデウスは黙っておくことにした。

 新しい魔王の腹心たちになにも完全に従う義理はないと思ったからだ。


「計画に支障はないわ」


 ルシファーは、薄紫色のまつ毛で彩られた目をゆっくりと閉じて、そしてまた開いた。


「――人間の魂も奪えない?

 そんな悪魔に、できることなど何もありません」

 

 こうして、新たな魔王ルシファーの会合は幕を閉じた。


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