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ダンタリオンと勇者   作者: 小栗とま
魔界の章
34/84

32 アスモデウスの誘惑(パブロの視点)


「これでわかったでしょ?」


 ふふっと軽やかな笑声をあげて、アスモデウスは微笑んだ。


「人間の世界には、こっそり悪魔と契約して。

 イイ思いしてる輩が沢山いるってね」


「……どうしてアンタは俺にこんなこと話すんだ」


 俺がそういえば、アスモデウスはふうと息を吐いた。


「初めにいったじゃん。君を助けたいって」


 と、柔らかく口元を微笑ませる。


「君は勇者として頑張ったのに。お仲間に置き去りにされて、魔界にひとりきり。ついさっきまで、どうやって死のうか考えていた。あんまりじゃないか」


「……っ」


「勇者だとか騎士だとか、人間社会の規範に縛られた役割なんてね。

 君を都合よく利用するための記号に過ぎないんだよ」


 アスモデウスは、乾いた笑いをした。


「……」


(記号…か)


 アスモデウスの言う事は極端だ。

 だけどほんの少しだけ、彼の言葉は魅惑的にも聞こえる。


「僕は君を、そんなつまらない呪縛から解き放ちたい」


 アスモデウスはそう言って、俺の前にひざまずいた。


「だから、僕と魂の契約を結ばないかい?」


(……はあ!?)


「どうしてそうなる…?」


 俺はぽかんと口を開けた。


「君の魂は僕が頂く。その代わりに君は、僕の力でなんだってできる」

「……」


(なんだって……できる……)


 アスモデウスの言葉は力強く、俺の腹をえぐるように響き渡った。


「それに君が生きてこの魔界をでる方法は一つ、悪魔と契約するしかない。

 そうすれば、魔界と人間界を自由に行き来できるし、君を貶めた闇使いに対抗する力を得ることができる」


「……!」


(人間界に帰れる……!!)


 もう魔界を出る手段などないと絶望していた俺にとって、少しの希望が差す。


 このまま魔界に居ても、俺が生存できる可能性なんて無いに等しい。

 なら、コイツの手を借りるのも一つの手かもしれない。


 そんな考えがよぎった。


(けど、俺の魂をこの悪魔のジュースにされのは……なんか、嫌)


 よく分からないけど、人間の魂があんなにどピンク色のジュースになるなんて。

 この悪魔のお兄さんの堕落力は凄まじそうだ。


 そんな俺の思考を遮るように、ガガガッ、ガガガッと鈍い音が頭上で響いた。


「……な、なんだ?」


 と、上を見上げれば、このアスモデウスの館の天井が、大きな蜘蛛の足により突き破られているのが見えた。


「……!!」


 俺は、あの蜘蛛の足に見覚えがあった。


 一度戦ったことがある。

 悪魔マモンの手下だ。


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