32 アスモデウスの誘惑(パブロの視点)
「これでわかったでしょ?」
ふふっと軽やかな笑声をあげて、アスモデウスは微笑んだ。
「人間の世界には、こっそり悪魔と契約して。
イイ思いしてる輩が沢山いるってね」
「……どうしてアンタは俺にこんなこと話すんだ」
俺がそういえば、アスモデウスはふうと息を吐いた。
「初めにいったじゃん。君を助けたいって」
と、柔らかく口元を微笑ませる。
「君は勇者として頑張ったのに。お仲間に置き去りにされて、魔界にひとりきり。ついさっきまで、どうやって死のうか考えていた。あんまりじゃないか」
「……っ」
「勇者だとか騎士だとか、人間社会の規範に縛られた役割なんてね。
君を都合よく利用するための記号に過ぎないんだよ」
アスモデウスは、乾いた笑いをした。
「……」
(記号…か)
アスモデウスの言う事は極端だ。
だけどほんの少しだけ、彼の言葉は魅惑的にも聞こえる。
「僕は君を、そんなつまらない呪縛から解き放ちたい」
アスモデウスはそう言って、俺の前にひざまずいた。
「だから、僕と魂の契約を結ばないかい?」
(……はあ!?)
「どうしてそうなる…?」
俺はぽかんと口を開けた。
「君の魂は僕が頂く。その代わりに君は、僕の力でなんだってできる」
「……」
(なんだって……できる……)
アスモデウスの言葉は力強く、俺の腹をえぐるように響き渡った。
「それに君が生きてこの魔界をでる方法は一つ、悪魔と契約するしかない。
そうすれば、魔界と人間界を自由に行き来できるし、君を貶めた闇使いに対抗する力を得ることができる」
「……!」
(人間界に帰れる……!!)
もう魔界を出る手段などないと絶望していた俺にとって、少しの希望が差す。
このまま魔界に居ても、俺が生存できる可能性なんて無いに等しい。
なら、コイツの手を借りるのも一つの手かもしれない。
そんな考えがよぎった。
(けど、俺の魂をこの悪魔のジュースにされのは……なんか、嫌)
よく分からないけど、人間の魂があんなにどピンク色のジュースになるなんて。
この悪魔のお兄さんの堕落力は凄まじそうだ。
そんな俺の思考を遮るように、ガガガッ、ガガガッと鈍い音が頭上で響いた。
「……な、なんだ?」
と、上を見上げれば、このアスモデウスの館の天井が、大きな蜘蛛の足により突き破られているのが見えた。
「……!!」
俺は、あの蜘蛛の足に見覚えがあった。
一度戦ったことがある。
悪魔マモンの手下だ。




