9 骸骨の戦士 (ダンタリオンの視点)
マモン様に解雇された俺が、その後どうしたかと言うと。
「くーっ、油が染みるぜ!気持ち~!」
とりあえず帰宅し、そして…クロムの胴体である剣刀を、油を塗って磨いてやっていた。
これが世に言う現実逃避であることは、俺もクロムも承知の上だ。
「ありがとなあ、ダンタリオンの旦那ぁ!」
「いいんだ。ほんの礼だからな」
油代でまた数少ないエテルが減ったのだが…、クロムには世話になっているし、これくらいはしてやりたい。
「いやあ~サタンの宝物庫に居た時はさ、骸骨の戦士たちがメンテしてくれてたんだけどなあ」
「そうだったのか」
「あいつらなんせ、指先まで骨だし、感情ってものがないから、おいらの手入れも雑だったなー」
パンデモニウムには、サタンの手下として、大量の動く骸骨がいる。
パブロに襲い掛かったのもあいつらだったが、そういえば、主人のサタンを失った今、どうしているのだろうか。
「あの骸骨たちは、サタンの操り人形か何かか?」
純粋な疑問が浮かび、クロムに尋ねる。
「うん、そうとも言える。
あいつらは、悪魔と魂の契約をむすんだ人間たちの身体さ」
「え」
知らなかった。
だが言われてみれば、骸骨の戦士たちは、俺が顔につけている羊骨の様な動物の骨ではなく、人間の身体の骸骨である。
「魂の契約を結んだ人間の魂は、エテルとして契約した悪魔のものになる。けど、身体は、操り人形として魔王に捧げられるってわけさ」
「……そ、そうか」
俺は想像した。
パンデモニウムでは今も、「魔王」の復活を待つ無数の骸骨の戦士たちが控えているということを。
俺はなんだか恐ろしくなり、クロムを磨く手を止めてしまった。
「おいぃ~。まだ痒いとこ残りまくりだぜ!旦那!」
「あ!すまん、すまん」
俺は慌てて、作業を再開する。
クロムは俺の動揺に気が付いたようで、「おっかねーよなぁ」と話し始めた。
「つまりさ、パンデモニウムには魔王だけが動かせる骸骨の戦士がウン万…いやもっとか、とにかく沢山、潜んでるんだ。魔王が魔王たる所以だな~」
クロムのお陰で、俺はなんとなく腑に落ちた。
「だからマモン様は魔王になりたがっていたのか」
魔王の座に躍起になり、サタンが封印されたことを喜ぶマモン様の真意は、魔界の軍隊の主導権を握ることだったのかもしれない。
「マモンだけじゃねえ。サタン以外の7つの大罪はみんなそうさ」
クロムが付け足した通り、魔界のトップ7である7つの大罪は、サタンが封印された今、虎視眈々と魔王の座を狙っているのだろう。
……この恐ろしい戦いに、巻き込まれないと良いんだが。
そう願いながら、パンデモニウムでは満足に磨かれなかったというクロムのことを丁寧に磨いてやった。
するとクロムが、思いがけないことを口にした。
「7つの大罪は、きっと今頃、魔王の指輪を探してるんだ!」




