【短編】転生主人公が料理チートをしている世界で、猫科モブ獣人の少年二人が幸せになる話
僕とお兄ちゃんは、氷の魔法が使えるんだ。
氷の魔法は水や火の魔法に比べたら少し珍しいけど、使えない人がいないわけじゃない。
でも、僕とお兄ちゃんが使える氷の魔法はちょっと特別。
僕たちが使えるのは氷は氷でも、”雪”の魔法だから。
+ + +
「こんなことできたって、何の役にも立たねえよ!」
あの時、お兄ちゃんは吐き捨てるみたいにそう言った。
その日から、お兄ちゃんは僕たちだけの”雪”の魔法を使わなくなっちゃった。
こんなに綺麗なのに。
僕はたまにお兄ちゃんに隠れて”雪”の魔法を使う。
冷たくってふわふわ。
まるで寒い季節に冷たい空から降ってくるのと同じ”雪”。
僕の差し出した手のひらにふわりふわりと降り積もる。
お兄ちゃんにバレないように。
誰にもバレないように。
僕は月明かりに透かすみたいに手のひらに降り積もる”雪”を眺める。
+ + +
「またクビだってよッ」
帰ってきたお兄ちゃんはイラついていて、少しだけ怖い。
「あんなに割れやすい皿が悪いんだよ!」
勢い込んで自分の部屋へ入ろうとして、お兄ちゃんが部屋の扉を引っ張った時、扉が『ミシッ』と嫌な音を立てた。
思わずお兄ちゃんも僕も動きを止める。
二人で顔を見合わせ、音のしたあたりへ忍び寄ると、そろっと覗き込む。
お兄ちゃんが掴んだドアノブの付け根、このあいだ直したばかりのネジごと、ドアノブが木の扉から抜けかけていた。
「また壊したぁ」
「ッんなこと言ったってなぁ!……あー、あー……。いや、悪かった。すまん。悪いが、また直しておいて、もらえるか……?」
お兄ちゃんはさっきまでの勢いが嘘みたいに元気がなくなってしょんぼりと肩を落とす。
「ダメな兄ちゃんでごめんな……」
「力持ちなのはいいことだよ」
「そうは言ってもなあ、強いのは握力ばっかりで、物を持ち上げたり運んだりもすぐに疲れちまう。自分で使いこなせない力なんて、無いほうが良かったよ」
お兄ちゃんは一度落ち込み始めるとうじうじと長い。
僕はお兄ちゃんのその力のこと嫌いじゃないのに。
「お兄ちゃんはすごいよ。雪をぎゅって固めて作ってくれるウサギ、僕好きだよ」
「あの雪の力だってそうだ。あんなものどうやったって役に立たない。せめて火を起こす力だったら暖も取れるってぇのに。氷魔法なんて、冷たいばっかりだ」
僕とお兄ちゃんは獣憑きだ。
お父さんとお母さんは普通の人間だったけど、僕には獣の耳と目が、お兄ちゃんには耳と目の他にも爪としっぽがあった。
獣憑きは、一般的に獣の部位が多く発現するほど獣の力をより強く使える。
獣としての力が弱い兎や鼠なら日常生活になんの違いもなかっただろう。
実際、発現部位の少ない僕はそれほど獣の影響を受けず、見た目以外はほとんど普通の人間と同じだ。
だが、お兄ちゃんは違った。
お兄ちゃんは普通の人とは違う力を使える。
僕たちは二人とも豹憑きだ。
しかも、不思議なことに、他の豹憑きとは異なる黒混じりの白くて長い体毛をしていた。
普通の豹憑きは速く走れて、力が強い。
それなら冒険者になるなり、配達の仕事に就くなりと、重宝される力だっただろうが、僕たちはさほど足は速くなかった。
あったのは、瞬発力と握力の強さ、それから”雪”の魔法だけ。
特にお兄ちゃんの握力は驚くほど強く、ふとした瞬間に調整が効かなくなって持った物を壊してしまうほどだった。
「大人になれば力の使い方も分かってくるわ」
「お前がいくら壊したって、俺が全部直してやる」
そう笑ってくれていた両親はもういない。
四年前、僕が六歳、お兄ちゃんが十二歳の時に、旅行に行ったきり帰ってこなかった。
たった二日だけ、二人ではじめて留守番をしてみると張り切っていた僕たちは、それから本当に二人きりになってしまった。
家に警備隊の人たちが来て、両親が旅行の途中で事故に遭ったと聞かされて、たくさん泣いて、縋って、それでもお父さんもお母さんも帰ってこなくて。
日が暮れて、夜が明けて、小さい僕が泣きわめいている間にも、警備隊の人や大人たちが家を出入りして、お兄ちゃんはずっと気丈に振舞って受け答えをしていた。
「大丈夫だ。俺がいるから」
何度そう声をかけられたか分からない。
泣き暮らして何日かして、お兄ちゃんと二人、ダボダボの黒いローブを着せられて連れていかれた墓地で、「ご両親のお墓だ」と言われた石碑を眺めた。
今みたいに寒い日だった。
お兄ちゃんが隣でずっと唇を噛み締めて、その石碑を見ていたことだけをはっきりと覚えている。
お父さんにもお母さんにも身寄りはなく、僕たちは唯一の家族だった。
心配してくれた様子の大人に色んな話をされたけれど、お兄ちゃんは「俺達はたった二人だけ残った家族だから」と何度もそれを断っていた。
今なら分かる。
僕たち二人まとめて引き取ってくれるような場所はなく、僕たちは二人で生きていくか、バラバラに誰かの世話になるかを選ばなければいけなかったんだと。
そうして始まった二人暮らしは、お父さんとお母さんが残してくれた家、お金、それに近所の人に助けられて、小さな子ども二人が生きていくことは容易だった。
そのうちお兄ちゃんは「俺は働ける年だから」と街で仕事を探して働き始めた。
お兄ちゃんの仕事はすぐに見つかったけれど、見つかる度にお兄ちゃんは仕事をクビになり続けた。
せっかく次の仕事を見つけても、数日もすればクビになってしまう。
荷運びの仕事、品出しの仕事、食事処の給仕、調理補助や劇場の手伝いや書類整理の仕事。
何をやってもお兄ちゃんの馬鹿力は仕事の邪魔をし、時には壊した物の代金のために給料を帳消しにされた。
力がダメなのなら、氷魔法を使えばいいのではないか、と幼心に思った。
いつも戯れに、お兄ちゃんが手にこんもりと作ってくれる柔らかな氷が僕は好きだった。
僕がねだればお兄ちゃんはすぐ手にいっぱいの柔らかな氷、”雪”を出してくれた。
雪は、触れると柔らかい感触を返して、すぐ溶けてしまう。
冷たくて、シャリシャリふわふわの不思議な氷魔法。
お兄ちゃんの真似をして練習してみても、僕では雪を降らすようにゆっくりとしか出せなかった。
強すぎる力がダメなら氷魔法でお仕事をすればいいと言った僕へ、食品の保存や暑い季節に涼を取るための氷魔法は、僕たちの使うそれとは違うのだと教えられた。
たしかに、暑い日にお母さんが買ってくれた飲み物に入っていた氷は固く、四角いゴロリとしたものだった。
街で氷魔法を使った仕事をしようと思えば、固い氷が出せなければいけないんだと、お兄ちゃんは悔しそうに歯を食いしばる。
「こんな……」
お兄ちゃんはその手に出した雪を憎いもののように睨んだ。
「こんなことできたって、何の役にも立たねえよ!」
お兄ちゃんは豹の爪のついた大きな手を潰すように握り、そこにあったふわふわの雪ごと潰して捨ててしまうようにして吐き捨てた。
ぽたり、ぽたりと手の熱に溶かされた雪が雫になって床へ落ちる。
「そんな……」
「ダメなんだ。こんな力、何の役にも立たない。俺が、お前を。もう二人だけなのに」
両手を強く握りこんだまま、俯いてしまったお兄ちゃんはうわ言のように言葉を漏らしていたが、陰になった顔は僕には見えず、僕はずっと不安な気持ちになった。
それからずっとお兄ちゃんは”雪”の魔法を使ってくれていない。
それが僕にはとても残念だった。
お父さんたちの残してくれた財産はまだある。
あと二年経って、僕があの時のお兄ちゃんと同じ十二歳になったら仕事を見つけることもできるだろう。
二人一緒に働き始めれば、二人生きていくだけ金銭的な苦労はしないだろうと思えるだけの余裕があるのだ。
仕事に役に立たなくたって、僕が喜ぶのだからあの魔法を使ってくれればいいのに、と少しすねた気持ちになってしまう。
お兄ちゃんは何度も仕事に挫折し、クビになる度に暗く落ち込んでいっている。
最近では、取り乱すとさっきみたいに家の中でさえ力の調整ができないこともあった。
+ + +
ドアノブを壊して、その翌日になっても、お兄ちゃんは落ち込んでいた。
「いつか、お前を傷つけてしまうかもしれない……。俺はどうしたらいいんだ……」
まだぐずぐずとしている。
「お兄ちゃん、最近、街にとっても美味しいパンが食べられるお店があるらしいよ。僕食べてみたいなあ」
「あ、ああ。そうか。じゃあ、行ってみるか」
落ち込むお兄ちゃんを半ば無理やり連れ出して、街へ繰り出す。
お兄ちゃんが僕のお願いを断ることはほとんどない。
豹憑きの中には食べ物は肉じゃないと食べられないって人もいるらしいけど、僕もお兄ちゃんも幸いなんでも食べられた。
パンだって、こないだ食べたクリームだって好物の部類だ。
僕は、お兄ちゃんを引っ張るようにして、新作パンを食べられるというクリームの店に向かった。
「奇跡のヨウパンケーキ? なんだヨウパンケーキって」
「それが新しいパンなんだって。美味しいんだって、食べたことのある近所の人みんなが言っていたよ」
「すごい行列だな。前クリームを食べに来たときはここまですごい列になっていなかっただろ」
お店の前には人が連なって列をなしている。
みんなヨウパンケーキを食べるために順番を待っているのだろう。
最後尾についた僕は、店から香ってくる匂いによだれが出てきてしまう。
「なんだかすごくいい匂いがするね」
「そうだな」
お兄ちゃんが明るい顔になったのを見て、ほっとする。
お兄ちゃんはすぐ落ち込むし、落ち込み始めたらグダグダと長いけれど、美味しいものを食べるだけですぐに機嫌が良くなるくらい単純。
僕はそんなお兄ちゃんに内心で微笑ましい気持ちになってしまう。
さっきまで悩んでいたのはどうしたのって。
やっと僕たちの番になり、店員さんに席に案内される。
全体的に白くて小さい、エプロンドレスの店員さんだ。
なんとなくだけど小動物の獣憑きっぽい。
僕たち獣憑きは、獣憑きかどうかがなんとなく分かることがある。
この前クリームを食べに来た時も思ったが、相変わらずお店の中は可愛らしくて気持ちがフワフワする。
色や飾りで店内をこんなに可愛らしい雰囲気にできるなんて、ここの店長さんはセンスがあるな、と感心してしまう。
僕たちは”奇跡のヨウパンケーキ”を二人分と、飲み物を頼んで席につく。
「お兄ちゃん、このお店で働いてみるのはどう?」
「この手の店は何軒も働いたよ。給仕をすれば皿を割り、調理をすれば食材を握りつぶしちまう」
お兄ちゃんは苦い顔をして、「それにこの可愛らしさは俺には似合わないんじゃないか」と言う。
お兄ちゃんは自分の可愛さに無自覚だ。
僕もそうだが、豹の耳はふわふわで丸くて、豹の黄色の目はくりくり大きくてガラス玉のように透き通っていてとっても可愛いのに。
豹憑きの子どもは鼻は低めで童顔で、僕たちも年齢より幼く見られがちだ。
それに僕は、お兄ちゃんだけにあるしっぽも可愛いと思う。
長めの黒混じりの白い毛がふわふわで、触り心地もいいのだ。
嫌がってあんまり触らせてくれないけど。
「雪豹……?」
ふと、そんな声がした。
そちらを見ると、全身をローブで覆い、フードを被った人物がさきほどの店員と何かやり取りをしているところだった。
「ヨウさん?」と店員がその人に声をかけ、その視線の先を辿って同じように僕たちのほうを見る。
フードの人物は僕と目が合ったことに驚いたように慌てた様子になる。
「あ! ごめんなさい! 珍しくて、つい」
その声の調子から、ヨウと呼ばれた人物はどうやら女性のようだ。
悪気もなさそうだし、僕たちも隠していないから構わないのだが、気になる単語があった。
「”雪豹”ってなに?」
「え、違うんでしょうか。耳の色や体毛を見たらそうかなと思ったんですが」
僕たちも興味があったので聞いてみると、獣の種類に”雪豹”というものがいるらしい。
なんでも寒さに強く、雪が降るような場所でも平気なように体毛が長い種類の豹なのだとか。
「きっとそうだよ! だから僕らは雪みたいな氷が出せるんだ!」
「雪みたいな氷?」
興奮して大きな声を出してしまった。
今度はヨウさんに聞き返される。
店員さんも、好奇心が強そうな瞳で話のなりゆきを見守っている。
「僕たち、ちょっと特別な氷魔法が使えるんです。ずっと不思議だったけど、僕たちが”雪豹憑き”だったからだったんだって、今わかって嬉しくなっちゃって」
なんだか今までの疑問だったことがすっきりして嬉しくて、せっかくだから雪豹を教えてくれたこの人にお兄ちゃんの”雪”を見せてあげようと思った。
「ねえねえ、お兄ちゃん、雪出して見せてよ」
お兄ちゃんは少したじろぎ、「お前がやればいいだろ」と言うが、「お兄ちゃんの雪がいいんだもん!」とわがままを言う。
仕方ないな、と言いながらお兄ちゃんは両手を前に差し出し、もこもこもこっと雪を作って見せてくれた。
「これ……っ!」
お兄ちゃんが作った雪を見た瞬間、興奮したような声を出したのは興味津々で事の成り行きを見ていた店員さんだった。
「てんちょっ、店長ーっ! ロブロ店長! 早く来て! かき氷ぃ! かき氷出せる子がいますぅ!!」
「なんだとぉ!?」
調理場へ向かってぴょんぴょんと飛び跳ねながら、その小さな体のどこからと思える声量で叫び始めた店員さんに、僕とお兄ちゃんは驚いてしまう。
直後に野太い声が聞こえたと思ったら、二メートルはありそうなクマみたいな黒くてでかい人が出てきてもっと驚く。
僕らはそのあと彼に「頼むからこのあと話をさせてくれ」と言われ、ビクつくままに約束をさせられた。
ヨウパンケーキや飲み物の代金はタダにしてもらえた。
初めて食べたヨウパンケーキは口の中がとろけてこぼれてしまうかと思うほど美味しかった。
「まさに奇跡のヨウパンケーキ」と言ったら、ヨウさんに「パンケーキです」となぜか略称で呼ぶよう勧められた。
夕方になり、僕たちは呼ばれた通りに再度店を訪れた。
もうこの店は”クリームの店”じゃなくて”パンケーキの店”だなと思う。
それくらいパンケーキは衝撃的な美味しさだった。
営業を終えたらしく片付けの時間になっているのだろう、お客さんの姿はないのにまだそこに漂う匂いだけでよだれが出てしまう。
「美味しかったな」
お兄ちゃんは笑顔で、僕と同じことを考えていたみたいだ。
僕も「美味しかったね」と笑って返し、僕たちはお店のドアを開けて中へと入った。
「先ほど店で見せてくれていたという魔法を、もう一度見せてくれないかい」
クマのような黒くて大きい男性はロブロさんというらしい。
獣憑きではないらしいが、お兄ちゃんが獣の力を全部出しても勝てないと思うくらい強そうだ。
ロブロさんはこのお店の店長さんで、あの奇跡のヨウパンケーキを焼いているのも彼だそうだ。
こんなに強そうなのに、あんなにフワフワで可愛いものを作れるのかと思ったら、力が強いけど可愛くて、ふわふわの雪が出せるお兄ちゃんと少しだけ似ているなと思った。
白い店員さんはラビさんといい、やはり獣憑きで、兎憑きだそうだ。
今この店は二人でやっているそうだが、人気が出てきたために人を増やそうと思っているらしい。
なんでも、暑い季節に出したい”かき氷”という新メニューがあるそうで、それを作るために氷魔法の使い手を探しているのと同時に、出した氷を口当たりよく削る方法を模索していたとのことだ。
昼に食べたパンケーキもかき氷も先ほどのヨウさんが発案したものらしく、「商品名は驚異のヨウかき氷にしようと思っている」と言うロブロさんに、ラビさんが「また怒られますよ」と困った顔をしていた。
かき氷というのは氷を雪のように削って作る食べ物らしい。
たしかに、降ってきた雪を口を開けて受け止めて食べてみたことがある。
寒い季節に降る雪は冷たくて、冷えた体はもっと冷たくなってしまった。
でも、お兄ちゃんが出してくれた雪を暑い季節に食べるなんて考えたことがなかった。
冷たくて良さそうだな、と思っていると、説明をしながら明日の仕込みなのか、ロブロさんが小鍋で牛乳に何かを入れてぐつぐつと温めだした。
「俺の氷魔法は、飲み物に入れるような氷じゃありませんよ」
わざわざ呼ばれて来て、雇いたいという話で喜んでいたのに、期待されている氷魔法は使えないのだとしょんぼりとしてお兄ちゃんは言う。
「あなたの氷魔法なら、削りの工程がいらなくなるかもしれないんです!」
熱い視線を向け、嬉しそうに言ったのは兎憑きの店員ラビさんだ。
「一度、出してみてくれないか」
戻ってきたロブロさんにも言われ、お兄ちゃんは「期待を裏切るかもしれませんよ」となおもグチグチといじけたように言いながら両手を前へ差し出した。
両手の上、もこりもこりとたくさんの雪が現れる。
「こ、こちらにそれを」
ロブロさんにおずおずと涼しげな器を出されて、そこへお兄ちゃんが出した雪を乗せる。
彼が持つと小さく可愛らしい器はさらに小さく見える。
「この雪のような氷はもっと出せるのかい? どれくらいいける? いや、無理はしなくていいからね」
「たぶん、際限なく出せると思いますけど……」
まだお父さんたちが生きていたころ、お父さんたちを驚かせようと、お兄ちゃんと二人で雪も降らないような季節に庭を雪でいっぱいにしたことがある。
僕も手伝ったけど、僕の雪なんてすぐ溶けてしまうような量だったから、ほとんどお兄ちゃんがやったのだ。
あの時だって、お兄ちゃんはケロッとしていた。
その話をしたら、ロブロさんとラビさんは両手をハイタッチのように合わせて「やったー!」と大喜びした。
大きいロブロさんに合わせてラビさんは椅子の上へぴょんと飛び乗り、立ち上がって手を合わせている。
「すごいです! 最高の戦力ですよ!」
ラビさんが言えば、
「うおぉ! 素晴らしい! なんて素晴らしい力だ!」
感激したように目を潤ませたロブロさんが叫ぶ。
体の大きいロブロさんが興奮し、ずいっと身を乗り出してくるとその迫力がすごい。
二人の反応に僕たちが不思議そうにしていると、先ほど温めていた小鍋を持ってきたロブロさんはその中身をお兄ちゃんが出した雪にかけた。
「これもヨウの発案で、レンニューというソースだ」
そう言って、スプーンを添えるとレンニューのかかった”雪”をこちらへ差し出した。
「これを食べてみてくれ」
お兄ちゃんは突然褒めちぎられて困惑しているようだったので、僕が先に食べてみる。
パクリ。
「え……」
食べるなり動きを止めた僕を、お兄ちゃんが焦った様子で覗き込んだ。
その顔は心配げで、眉がしかめられている。
悪いものを食べさせたのではと心配しているような様子だ。
でも、僕はそれどころではない。
「美味しいっ!! なにこれ! 甘くて、冷たくて、溶ける!」
僕は大興奮だ。
お兄ちゃんの出した氷が、パンケーキよりも甘くて美味しい、冷たいお菓子になった。
これを暑い季節に!? 人気が出るに決まってる!
びっくりしているお兄ちゃんの口にも、無理やりスプーンで掬ったそれを突っ込んでやった。
「!!」
「ね! とっても甘くて冷たくて美味しい! やっぱりお兄ちゃんの”雪”はとってもすごい力だったんだよ!!」
僕が満面の笑顔でそう言うと、お兄ちゃんはしばらくびっくりしたままだったけど、やがてその口をほころばせた。
なんだか泣く直前みたいに口の端をわななかせたお兄ちゃんは、「そうかもな」と言ってにへらっと笑った。
+ + +
そうしてしばらく、今年も暑くてたまらない季節がやってきた。
今日もロブロさんのカフェは人だかりができるほどの大人気だ。
パンケーキで一世を風靡したこの店で、今絶え間なく注文されているのは、
「”雪豹のかき氷”くださーい!」
「こっちも”雪豹のかき氷”ちょうだい! レンニュー多めで!」
「は~い。ただいま~」
大人気の”雪豹のかき氷”は、まるで雪のような氷魔法で作られた、ここだけでしか食べられない特別なメニューだ。
作っているのは、可愛らしいピンクの制服で着飾った可愛らしい”雪豹憑き”の男の子。
そして、その隣ではもう一人の”雪豹憑き”の小さな男の子が、やはり可愛らしい制服を着てかき氷作りのお手伝いをしている。
可愛い雪豹の兄弟が作るこのかき氷を食べるために、国のあちこちからわざわざやってくる人もいるほどだ。
二人は可愛らしい店で可愛い耳を、可愛いしっぽを揺らして一生懸命働いている。
二人は今日も元気いっぱい。
仲良しの二人は今日も満面の笑顔だ。
<扉絵> 作 珠音ギスキ/Tamane 様から頂戴いたしました!
(Twitter ID : @tamane_g )
この作品は連載作品(神のペットの世話係 〜疲れ切った社畜OLは異世界で自由にご飯を振る舞います〜)の閑話を短編用に再編・加筆した話です。ページ下部にリンクがありますのでよろしければぜひ。