森のちび大魔王
僕は背が小さい。
だから父から大魔王の資格の継承を断った。
父は悲しそうな顔をして言った。
「お前は背が小さいが、魔王としての指揮能力はある。人間たち相手にも戦えるだけの戦闘能力もある。だから自信を持て」
僕が不安そうな顔をしていたからか、父は言葉を続けた。
「背が小さいから大魔王になれないと思っているのか?それなら問題はない。父さんもな、実は身長を盛っているんだ」
僕は俯いていた顔をふと上げた。
「え?」
父はかなり大柄で僕を肩に乗せるほど大きい。
肩幅も、胸板も身長も。全てが大きい。
「どういうこと…?父さんはこんなに大きいよ?どこを盛っているの?」
僕は声を震わせながら言った。
父はニッと牙を見せながら笑いかけた。
「お前は父さんと風呂に入ったことがなかったな。今から一緒に入るか」
「え、お風呂?」
「お前に見せてやろう。そうすればお前も自信を持てるだろう」
父は僕を連れて大浴場へ行った。
入り口には「大魔王貸切中」と張り紙をした。
父は僕に先に風呂に入っているように伝えた。
僕は父の言う通り、体を洗い、湯船に浸かって父を待った。
父はどこを盛っているのだろうか。靴か。でも靴でも限界はある。帽子を被っているわけでもない。一体どこをどう盛っているんだ。
しばらくして父の声がした。
「今からそっちに行くから驚くんじゃないぞ」
「わ、わかった!」
僕は反射的に「わかった」と言ってしまった。
ピタピタと足音がする。
僕は父の真実を受け止められるか怖くなり気づいたら目を閉じていた。
「ひゃあっ!」
肩を叩かれ変な声をあげてしまった。
「何目を閉じているんだ。開けてみろ」
僕は少しずつ視界を広げた。
「…え?」
僕の目の前にいたのは、すごくスリムなおじさん。
スリムと言うか最早原型がない。
僕を肩に乗せていた父の肩幅は3分の1くらいになり、胸板も半分くらいになっている。
ごつい顔もしゅっとして、なんというか、若返った。
「父さん…これは…」
「実は父さんな、本体は俺で、あと8人いるんだ」
僕の意識が遠のいたのはのぼせたせいか、訳のわからない父の言葉と見た目のせいか。
目が覚めたら自分のベッドに寝転び、手の甲には大魔王の紋章が刻まれていた。
「これからお前は自分を8人用意して大魔王になるんだ。いいな?」
何がいいのかまったくわからないよ、父さん。