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イベント発生です!
「おいコトハ、お前はいったい何をしている?」
何の前触れもなく、お姫さまがいきなりしがみついてきた。彼女の顔は湯気が出そうなくらい赤くなっている。
「べ、べつにこれはリズの真似をしてるだけでその、どんな感じなのかなーとか気になってそれで深い意味はないんだけどもし嫌だとか文句があるのならはっきり言いなさいよねわ、わたしは特に嫌だなんて思ってないからこのままでもべつに」
すげえ早口。そんで柄にもない上目遣い。なんだなんだ、彼女は何に焦っているんだ。
「おいフィイ、お前もいったい何をしている」
今度は金髪シスターが背中から抱き着いてきた。
「な、何とは愛想もないではないか。われはいつも通りほら、毎日抱擁をしているであろう。女神さまの加護を賜りますようにとだからこれはただの挨拶に過ぎなくてその」
ところどころ呂律が回っていない。確かに俺は一日に一度フィイから女神さまの加護なる抱擁を受けている。深い意味はないのだろう。ないのだろうが……
「くっ……う、動けん、おい離れろ、離れろと言っている、このままじゃ俺がますます美少女を侍らす変態だと言われるだろうが!」
周りの視線はより冷ややかさを増す一方。中には俺がロリコンだとか涼しい顔をした狂人だとか美少女トーテムを作り上げるド変態だとか、あることないこと呟いているやつらも。
だ、だれか……俺を助けてくれ!
「――そこの冒険者たち、話があるのだがちょっといいかね」
とその時、祈りが通じたのかとある中年男が俺たちの前に現れた。
黒の燕尾服にスーツ……あとでけえ帽子……これを何というのか分からんけどエセ公爵みたいな服装をしている。
プロフを見たところ彼も冒険者のようだ。けっこう腹出てんなおっさん。
「何でしょうか? 騒がしかったのなら謝りますけど」
「そんなことは些事に過ぎんよ。私が用があるのはそちらの白髪の子でね。いやはや、これらの特殊ポーションを生産する腕前を見て感心したのだ。まさかこれほど有用なスキルを備えているとはと」
中年男、ケベルはリズを指さしている。彼女のカタクラフトとしての能力を高く買っているようだ。
もっとも当の本人は俺の後ろで縮こまっており、拒絶の意志を見せていたが。
「そこで私から提案があるんだ。どうかその子をこちらのパーティーに譲っていただけないだろうか。もちろんタダでとは言わない、それなりの対価を支払うつもりだ」
「譲る……だと?」
「そう怖い顔をしないでくれないか。どうか安心してほしい、決して悪いようにはしないと約束しよう」
「……」
ひょうひょうと語るケベルは、それがどれだけの禁忌であるか自覚していないようだ。
冒険者同士における、他パーティーメンバーへの引き抜き。これは断じてあってはならない最悪の行為だ。
パーティーリーダーーへと賄賂を送ったり、あるいはメンバーに直接「こっちの方がいい装備が取れる」「IDをさくさく攻略できる」など甘い言葉で誘惑し、固定メンバーを引き抜き、元のパーティーを崩壊させる――悪魔の所業。
特にリーダーへと金銭をチラつかせて交渉する手段は下衆中の下衆だ。やっていることは人身売買と変わらない。本人の意思さえ無視して勝手に売られるんだ。それをこうも堂々とやってのけるとは……。
確認したところ、ケベルのパーティーメンバーは希少なジョブが多い。しかもどれも売買に特化したスキルを備えているジョブばかりだ。
さてはこいつ……リズを金目当てで声を掛けたのか。おそらく他に当てがなさそうなやつばかり誘っては肥やしにしているんだろう――マナー違反の常習犯だな。つくづくいけ好かねえ。
引き抜きはダメ絶対







