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「ちょっと君、大丈夫?」
「……っ!?」
声を掛けた瞬間、少女の身体がびくっと震える。
口から魂が出ているけど死んでない、よな?
「驚かせてごめん、俺は冒険者のアルト。見ていた感じ、生産が上手くいってなさそうだったから、もし何か手伝えたらと思って」
「……てつだってくれるの?」
「もちろん、君さえよければ」
「えっと……それじゃあ……」
少女は台の魔法陣に触れ〝生産可能アイテム一覧〟という画面を表示させた。その中のとあるアイテムに指先を向ける。
〝勇猛のポーション〟、それは飲んだプレイヤーの攻撃力を高める消費アイテムだ。普通の冒険者じゃあこれは作れないはずだが、となると彼女の職業は……。
「これはHPポーション、ミノタウロスの爪、ガーゴイルの瞳で生産できるよ。持ってる?」
「うん、たぶん……えと、ちょっとだけまってね」
少女はインベントリからそれぞれのアイテムを出せるだけ出した。この量なら全部で十セットは作れるな。
「あとはそれらを魔法陣の上に並べると、勝手に合成してくれる。――ほらできた。勇猛のポーションの出来上がりだ」
お目当ての代物を目にした瞬間、少女の顔色がぱあっと明るくなった。
「すごい!」と言って歓喜するさまは、見た目通りの反応である。フィイが大人ぶった子供だとすると、彼女は純粋な子供だといったところか。
「あのね、あのね……えと、その……」
少女は言いづらそうに口をもごもごさせている。
「どうしたんだ?」
「ううん、ちゃんとおれいしなきゃって思って、だからその……リズを助けてくれてありがとう、おにいちゃん」
リズと名乗った少女、リズベットは屈託のない笑みを浮かべた。
お礼することに慣れてないのか人見知りなのか、顔が真っ赤になっている。それでも頑張ってお礼して、いい子だな。
「このくらい別に大したことじゃ――いや、今なんて?」
「リズはおにいちゃんっていったんだよ? あと手伝ってくれてありがとうって。……リズどこかおかしいのかな」
「そんなわけで言ったんじゃない、気にしないでくれ」
「うん、ありがとうおにいちゃん」
「お、おぅ……」
その人称で呼ばれることに慣れていないため、受け答えに詰まってしまう。これまでにおにいちゃんなんて呼ばれたこと、あったようななかったような……。
「おにいちゃんはすごいんだね。リズも知らないレシピだったのに、かんたんに作っちゃうんだもん。もしかしておにいちゃんは天才なの?」
「知識があればだれだってできることだよ。――それにしてもリズは入り用だったのか? さっきは泣きそうな顔をしてたけど」
「リズはね、アイテムをうって生計をたててるから、これがないと生きていけないの。オークションでみたらけっこう高かったし、これでしばらくは食べていけるかなって」
……ちょっと、この子設定重たくね? かなり心配になってきたんだが。
「君も冒険者なんだよね? レベルもそこそこ高いみたいだし、クエストである程度の収入を見込めるんじゃ」
「ううん、だってリズは〝カタクラフト〟だもん。あんまり戦うのはとくいじゃなくて。あと子供だからってパーティーも組んでもらえなくて、それで……」
「そうか。色々辛かったんだな」
今にも泣きだしそうなリズの頭を撫でる。すると彼女は「えへへ」と言いながら抱き着いてきた。
周りが俺をロリコンみたいな目で見てくるけど知ったことではない。無下に拒んで少女を傷つけるよりかは、その笑顔を守る方が王道なのである。
オペレーター系列から転職できる職業、カタクラフト。
このジョブはパーティーメンバーの武器を強化したり、追加ダメージを与えるロボットを出したり、はたまた変わったアイテムを生産したりと、かなり特異な性質を持っている。
確かにソロで戦うにはかなり不利なマゾ職だけど、パーティープレイでは重宝する。とても足蹴にされるようなジョブじゃない。
戦えないにも関わらず、彼女のレベルが160と高いのはカタクラフトの特性だろう。
モンスターから得られる経験値が激減する代わりに、アイテムを生産することで経験値が入手できる。そしてレアリティの高いアイテムを作るほど得られる経験値量も増加する。
カタクラフトって味方に〝経験値増加バフ〟付与できるよな……放っておくのも心配だし、ちょっと声を掛けてみよう。







