005
「待てよ、そう言えば武器がまだだったな。流石に素手は舐めプすぎる、最低限の物だけ買っていこう」
狩りに出る手前、通りの武器屋に立ち寄る。店内には直剣や大剣、二刀に長槍、弩弓、大槌、長杖など、あらゆる武器がところ狭しと並んでいた。
「――ねえアルト、武器はどれがいいと思う?」
コトハは目をきらきらさせている。おもちゃを前にした子供みたいだな……。
「お前も俺と同じファイターなんだろ。ならロングソードでいいんじゃないか。Lv1でも扱えるし」
「いやよそんなの、わたしをそこいらの新米冒険者と一緒にしないでほしいわ。ほら、この鉄球とかどう? トゲトゲもついててすごく強そう!」
「あのなぁ……」
まるで遊園地に来たかのようなはしゃぎようの彼女には、もはや怒りを通り越して鼻白む。どうしてこう、お姫さまキャラってやつは気が抜けてるんだろうか。
「そんな高い武器なんて買う必要ないぞ、ていうかバフはそのためでもあるんだからな。俺たちは一時的にステータスが強化されてる、だから無駄金をはたくことなんて――」
「あ、これなんていいかも! 見て見てアルト、二刀よ!」
「少しは人の話を聞けな?」
我が物顔でショッピングを楽しんでいるコトハには眩暈すらもよおしてきた。こいつさてはお調子者キャラだな。
面倒なことになる前に、さっさとロンソでも買わせて出発させよう。
「――なんだこいつら、見ねえ顔だな」
ロングソードと盾を購入した後、やけにデカイ男が俺たちに話しかけてきた。
「えっと……だれ?」
「何だと坊主、まさか俺のことを知らねえって言うのか!?」
大男は驚いた面持ちで、わざとらしい大声を上げた。体格に比例して声もデカイやつだ、いやデカイというよりうるさい。ついでに傷だらけの顔もうるさい。
「いいか一度しか言わねえからよぉく聞け、俺の名はダグニア。職業ファイターLvは31、数々のクエストをこなしてきた実績ある冒険者さまよ!」
ダグニアと名乗った男は、初めの街に居る冒険者にしてはなかなかの手練れだ。
アウラではLv10未満の冒険者がほとんど。その中でLv31というと、恐らくこの街トップクラスのLvを誇っているに違いない。かなりデカイ態度をしているのもそういうことだろう。
「おぉ、すげえ!」
「Lv31!? かなりの大物じゃないか」
「ああ、確かあいつこの街じゃかなりの有名人だぜ!」
そんな大男の自慢につられて、周りが騒ぎ始めた。……正直Lv31ってそこまで驚くものでもないんだけど、どう反応していいのやら。
「まあまあ、そんなわけだ。わざわざ超強い俺さまが話しかけてやっているんだ敬意は払っておいた方が良いぞ。今後の冒険者生活のためにもな」
ねっとりと蔑むような口調でダグニアは言う。
まさかこいつは街のボスを気取っているつもりなのだろうか。
だがこんな見え透いた挑発に乗る馬鹿はいない。ここは無視してさっさと狩りに――
「随分と偉そうにしてるけど、あんたは何様のつもりなの? まったく身のほどを弁えなさいよね!」
武器屋に鳴り渡る、鈴のように甲高い声。
「あぁ? ……なんだてめえは?」
そして不機嫌そうに喉を鳴らすダグニア。
正直、今しがた聞こえた声が幻聴であると思いたかった。まさかLv1の彼女が、いくら何でも自分よりもベテラン冒険者にたてつくわけないだろうと。
「わたし? わたしは冒険者のコトハ、直ぐにあなたを追い越す期待の超新星よ。覚えておきなさい!」
だがそんな祈りも虚しく――振り向いた先には堂々と喧嘩をうっているコトハの姿があった。
「期待の超新星だって、笑わせてくれるぜ。Lv1の冒険者なんて、ゴミみてえなもんじゃねえか! ――おい聞いたかお前ら、どうやらこの冒険者さまが俺を追い越してくれるみてえだ、ははっ、まったく面白くて仕方がねえな!」
ダグニアが呼びかけると、周りはこびへつらったように笑いだす。
「む、むむむ……」
そんな嘲笑の渦に呑まれて涙ぐむコトハ。
このダグニアとかいう男は、典型的な新人いびりだ。Lvの高さでマウントを取ってくる嫌な奴の代表格。
挑発に乗ったコトハも悪いけど……先に吹っ掛けてきたのはあいつからだ。人さまのパーティーメンバーを侮辱されて黙っていられるほど、俺は腰抜けじゃない。
舐めプ……舐めたプレイングのこと。わざとふざける時に用いる。もしくは敵を舐めて倒す時いわゆる煽りプレイ。







