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ご覧いただきありがとうございます。

次の街まであんまりかからないとおもいます、たぶん……


「なっ――」


 ダンジョンから帰還すると、外で待機していた男が声を上げる。


 こいつはホルクスパーティーメンバーの一人で、俺たちがダンジョンで不正を働かないか見張っていた魔法使いだ。


 俺たちが出発してからたった一時間で帰還(きかん)したところを見て、動揺(どうよう)しているようだ。


「お勤めご苦労さま。どうだ? これで俺たちのパーティーに不正はないって分かったはずだろ。駆け出し冒険者だろうとIDは回れるし、三人でも周回可能だ」


「ば、馬鹿な――いいや世迷言(よまいごと)だ、本当だというのならプロフィールを見せてみろ! どうせ途中でリタイアした口だろ。ホルクスたちよりも先にお前らが帰ってくるなんて、そんなこと――」


 メイジの男、シャミイは俺のプロフを見た瞬間に口を閉ざす。


 そこに表示されている情報を見れば、どっちが正しいことを言っているか一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。


「業績〝谷底へと至りし者〟これが何を意味するのかは知っているだろ?」


「ああ、それはヴァーリルを倒した者のみが手にする称号だ……しかし……」


「まさか認められないって言うのか? プロフを改竄(かいざん)できないことは周知の事実だけどな」


「ぐっ……」


 返答を詰まらせるシャミイは、だがしばらく沈黙した後、観念したように息を吐いて、俺たちの前に向き直った。


「分からないことばかりだが、お前らの言う通りだ。これ以上否定しても醜態(しゅうたい)を晒すだけだろう。とにかく今は謝りたい――無礼な発言をしてすまなかった。どうかあいつらの分も許して欲しい」


 シャミイは誠意のある姿勢で深々と頭を下げている。


 元より俺は怒ったりしてないんだけどな。肝心なのはコトハとフィイだが、二人とも文句なさそうに頷いている。ひとまずはトラブル解決……でいいだろう。


「それともうひとつ、都合のいい頼みがあるのだが、どうか聞いてくれないだろうか」


 顔を上げたメイジは、以前の覇気(はき)もうかがえない、すがるような目つきで言ってきた。


「いいけど、何だ?」


「実は俺たち、このIDに通うようになってからだいぶ疲れ果てているんだ。今じゃ誰かがミスプレイをしたら、すぐに喧嘩するような有様さ。――そこで何だが、是非ともここの周回方法を教えて欲しい。何せそれだけの速さで帰ってこれたんだ、何か知っているはずだろ。わがままな願いなのは承知の上だ、だがどうか頼む、その秘訣(ひけつ)を俺たちに教えてくれ!」


 そこまで言うとシャミイは勢いよく地面に頭をこすりつけた。


 こいつらのパーティー、やたらカリカリしていると思ったら、やっぱりそういうことだったのか。見るからに雰囲気悪そうだったし、俺たちに当たって来たのも()()らしなんだろう。


 フレンドとレベリングしたり、パーティーで一緒に冒険したり、そういうのはMMOの醍醐味(だいごみ)のひとつだ。だけど半面、そこには闇が潜んでる。


 ほんのちょっとしたことでパーティーはいとも容易く解散する。誰かがレアアイテムを出しただとか、少しレベル差がついただとか、ミスプレイが多い味方に憤慨(ふんがい)しただとか。


 ホルクスのパーティーは、今まさにそういった危機にあるんだろう。


 だったら……見て見ぬふりをするのは、流石にかわいそうだよな。


「実は、ここのIDには欠陥があるんだ。フロアをくだっていく階段、その上段から攻撃をするとモンスターに感知されない。雑魚モンスターもボスモンスターも、それで安全かつ簡単に倒せる。どうだ、いい方法だろ?」


「か、階段、だと……いや確かにあるにはあるが……それは……」


 俺の助言を聞いたシャミイは、何度も首を傾げている。まさかそんな方法があったとはと、にわかに信じ難い様子だ。


「今日はもう回数制限で入れないだろう。今度ぜひ試してくれ。お前たちのパーティーは後衛が多いからな。上から楽に攻撃できるはずだ」


「あ、ああ……分かった、やってみる」


「よしその意気だ。万が一でもパーティーが解散したら悲しいからな。俺もうまくいくことを願っているよ」


「すまないな……本当に感謝している」


 最後に握手を交わしてから、シャミイと別れる。


 お節介ながらちょっと心配だったからついでにフレンド申請をしておいた。後日、近況報告でも聞いておこう。


「これで仲良くやれるといいけどなあ……」


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