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ご覧いただきありがとうございます。システムの穴をついたクリア方法は、見つけるたびに心が躍りますよね。いわゆる「ハメ」と言われる攻略法ですが、多くのMMOで様々な邪道ルートが存在します。あれは開発者の想定なのでしょうか。何とも言えないですね……。
意見が一致したところで最下層へと向かう。
インスタンスダンジョンのB5には本命のボス〝ヴァーリル〟という種族デーモンのモンスターが配置されている。
やつはこれまでの雑魚や中ボスと違い、多種多様なスキルを使い、変則的な行動パターンを持ち、さらには高い攻撃力に防御力にと、序盤のIDにしては極めて厄介なボスだ。
そんな初心者殺しのヴァーリルだが、いとも容易く葬れる方法が、実はある。
「何だかすごく禍々しい感じのモンスターね。いかにもボスっていう感じだわ」
B5へと下る最中の階段で、コトハがフロアにいるヴァーリルを見て言った。
「浮遊した結晶体とでも言うべきか、しかし胴体の中心には大きな瞳が垣間見える。おぞましい形容のモンスターだ。どんなスキルを使ってくるかも予想付かない。難敵となりそうだ」
フィイもまたボスを見て、手ごわそうだと評価した。先ほどのように階段に腰を下ろして、目下のボスを観察している。
だけどそろそろ二人は気づいていいのではないだろうか。この階層ダンジョンに潜む、致命的な欠陥を。
「二人の見立て通り、あいつは初期IDにしちゃあ強すぎるボスだ。HP20,000、攻撃力500、防御力が高くて、行動速度は大王ゴブリン並み、おまけに固有のスキルまで持っている。まともに戦ったら、きっちりLvを上げてないと勝てないだろうな」
そこまで言い切ると、コトハとフィイの顔つきは途端に暗くなった。
「そんな――アルトでも勝てないなら、そんなの絶対に無理だわ」
「われも同意見だ。そうなると早々にリタイアするべきかもしれないな。あの男たちの発言は気に食わないが、二人が傷つきにいく必要はない。勝てないのなら下がるべきだ」
そして二人は「はあ」と同時にため息をつく。こいつらけっこう息が合ってきたな。
「いいや勝てるさ。あいつを倒す算段は既についている」
「もしかして……さっきの隕石を降らせるスキルのことね。確かにあれなら火力は十分だと思うけど、準備に時間が掛かるんでしょ? わたし、あのモンスターが相手だと時間を稼げるか分からないわよ」
「時間なんて稼ぐ必要まったくない。――なあコトハ、さっきのゴブリン戦で、俺たちはどの位置から支援していたかを覚えているか?」
「どの位置って……階段からでしょ。それがどうかして……」
途中で言葉を切ったコトハは、俺の考えていることをようやく理解したようだった。
「えっと、冗談よね? まさかここからだとモンスターにターゲットされないわけ!?」
「ああ、その通りだ。ダンジョンを設計した者のミスか仕様なのかは分からないが、どうやら階段の上部にいれば敵に察知されないらしい」
「そんな……」
へなへなと音が聞こえてくるくらい、コトハはその場でくずおれた。大王ゴブリン戦を思い返してショックを受けているんだろう。あの努力は何だったんだと。
「と言ってもこの距離だ。上から攻撃できるのは、アーチャー系列かマジシャン系列の職業くらいで、ファイターのコトハには元から下に降りるしか算段がない。だからそんなに落ち込むなって」
「……でもアルトはこっちの邪道ルートが正しいと思ってるんでしょ?」
「そりゃあそうだ。安全に簡単に手早く倒せる方法があるのなら、俺は迷わずそっちを使う。不正行為じゃないんなら、すべてが王道だ」
「むむ、むむむむ……」
言い返せなくなったコトハが凄い形相で見つめてくるが、今は気にしないでおこう。
正直者は馬鹿を見る――それが不正の範疇にないのなら、壁抜けでもプロロ落下ショトカでも乱数調整でも何でもするのが、冒険者だ。
だから俺は、ここから撃つ。
「しゅーてぃんぐすたー」
間延びしたやる気のない声に応じて、十三の流星が召喚された。
仄暗い地下に浮かぶ紅蓮の星々は、日輪すら思わせる赫赫たる煌めきを放ちながら、打てば響く速さを以て灼然と……
ああ、もうめんどくせーな。いいや早くいけいけ流星ども。
これがしゅーてぃんぐすたーだよ。
「ギ――ッ」
どーん! とけたたましい破壊音が立て続けに鳴り、それはもうダンジョンのボスさまに断末魔を上げる暇さえ与えなかった。……いや嘘ついた。虫みたいな呻きは聞こえたかもしれない。
シューティングスター、しゅーてぃんぐすたー、しゅーてぃん……何だっけ。
途中からはほぼ無心になっていた。スキルを撃ち終わったら長杖を掲げて、再びスキルを撃つだけの作業を繰り返す。
そうして数分ほどたった頃、俺たちは初めてのインスタンスダンジョン〝ヴァーリルの谷底〟をクリアした。







