表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/216

052

ご覧いただきありがとうございます。システムの穴をついたクリア方法は、見つけるたびに心が躍りますよね。いわゆる「ハメ」と言われる攻略法ですが、多くのMMOで様々な邪道ルートが存在します。あれは開発者の想定なのでしょうか。何とも言えないですね……。


 意見が一致したところで最下層へと向かう。


 インスタンスダンジョンのB5には本命のボス〝ヴァーリル〟という種族デーモンのモンスターが配置されている。


 やつはこれまでの雑魚や中ボスと違い、多種多様なスキルを使い、変則的な行動パターンを持ち、さらには高い攻撃力に防御力にと、序盤のIDにしては極めて厄介なボスだ。


 そんな初心者殺しのヴァーリルだが、いとも容易く(ほうむ)れる方法が、実はある。


「何だかすごく禍々(まがまが)しい感じのモンスターね。いかにもボスっていう感じだわ」


 B5へと下る最中の階段で、コトハがフロアにいるヴァーリルを見て言った。


「浮遊した結晶体とでも言うべきか、しかし胴体の中心には大きな瞳が垣間(かいま)見える。おぞましい形容のモンスターだ。どんなスキルを使ってくるかも予想付かない。難敵(なんてき)となりそうだ」


 フィイもまたボスを見て、手ごわそうだと評価した。先ほどのように階段に腰を下ろして、目下のボスを観察している。


 だけどそろそろ二人は気づいていいのではないだろうか。この階層ダンジョンに(ひそ)む、致命的な欠陥(けっかん)を。


「二人の見立て通り、あいつは初期IDにしちゃあ強すぎるボスだ。HP20,000、攻撃力500、防御力が高くて、行動速度は大王ゴブリン並み、おまけに固有のスキルまで持っている。()()()()戦ったら、きっちりLvを上げてないと勝てないだろうな」


 そこまで言い切ると、コトハとフィイの顔つきは途端(とたん)に暗くなった。


「そんな――アルトでも勝てないなら、そんなの絶対に無理だわ」


「われも同意見だ。そうなると早々にリタイアするべきかもしれないな。あの男たちの発言は気に食わないが、二人が傷つきにいく必要はない。勝てないのなら下がるべきだ」


 そして二人は「はあ」と同時にため息をつく。こいつらけっこう息が合ってきたな。


「いいや勝てるさ。あいつを倒す算段は既についている」


「もしかして……さっきの隕石を降らせるスキルのことね。確かにあれなら火力は十分だと思うけど、準備に時間が掛かるんでしょ? わたし、あのモンスターが相手だと時間を稼げるか分からないわよ」


「時間なんて稼ぐ必要まったくない。――なあコトハ、さっきのゴブリン戦で、俺たちはどの位置から支援していたかを覚えているか?」


「どの位置って……階段からでしょ。それがどうかして……」


 途中で言葉を切ったコトハは、俺の考えていることをようやく理解したようだった。


「えっと、冗談よね? まさか()()()()()()モンスターにターゲットされないわけ!?」


「ああ、その通りだ。ダンジョンを設計した者のミスか仕様なのかは分からないが、どうやら階段の上部にいれば敵に察知されないらしい」


「そんな……」


 へなへなと音が聞こえてくるくらい、コトハはその場でくずおれた。大王ゴブリン戦を思い返してショックを受けているんだろう。あの努力は何だったんだと。


「と言ってもこの距離だ。上から攻撃できるのは、アーチャー系列かマジシャン系列の職業くらいで、ファイターのコトハには元から下に降りるしか算段がない。だからそんなに落ち込むなって」


「……でもアルトはこっちの邪道ルートが正しいと思ってるんでしょ?」


「そりゃあそうだ。安全に簡単に手早く倒せる方法があるのなら、俺は迷わずそっちを使う。不正行為じゃないんなら、すべてが王道だ」


「むむ、むむむむ……」


 言い返せなくなったコトハが凄い形相(ぎょうそう)で見つめてくるが、今は気にしないでおこう。


 正直者は馬鹿を見る――それが不正の範疇(はんちゅう)にないのなら、壁抜けでもプロロ落下ショトカでも乱数調整(らんすうちょうせい)でも何でもするのが、冒険者だ。


 だから俺は、ここから撃つ。


「しゅーてぃんぐすたー」


 間延(まの)びしたやる気のない声に応じて、十三の流星が召喚された。


 仄暗(ほのぐら)い地下に浮かぶ紅蓮(ぐれん)の星々は、日輪(にちりん)すら思わせる赫赫(かっかく)たる(きら)めきを放ちながら、打てば響く速さを(もっ)灼然(しゃくぜん)と……


 ああ、もうめんどくせーな。いいや早くいけいけ流星ども。


 これがしゅーてぃんぐすたーだよ。


「ギ――ッ」


 どーん! とけたたましい破壊音が立て続けに鳴り、それはもうダンジョンのボスさまに断末魔(だんまつま)を上げる暇さえ与えなかった。……いや嘘ついた。虫みたいな(うめ)きは聞こえたかもしれない。


 シューティングスター、しゅーてぃんぐすたー、しゅーてぃん……何だっけ。


 途中からはほぼ無心になっていた。スキルを撃ち終わったら長杖を掲げて、再びスキルを撃つだけの作業を繰り返す。


 そうして数分ほどたった頃、俺たちは初めてのインスタンスダンジョン〝ヴァーリルの谷底〟をクリアした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご愛読頂き有難うございます
星5評価ブクマレビューなどを頂けるととても嬉しいです。モチベーションが上がります。

ADRICAのMAPです(随時更新)。
MAP MAP MAP
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ