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「こっちは作戦会議中なんだよ! これからどうIDを攻略していくかって時に、そばでイチャつかれるのは堪らねえ。やる気がねえならさっさと失せな」
長弓の男――ホルクスが言うと、後ろの三人もまた「そうだそうだ」と野次を飛ばす。
これは間違いなく嫌われているな。早いうちに誤解を解いておこう。
「……あぁ? なんのつもりだ?」
ホルクスは俺が差し出したHPポーション×30を見て、うろんげに目を細めた。
「先ほどの詫びだ。別に俺たちはわざとあそこで待っていたんじゃないし、寄生するつもりもなかった。ただのんびりしていただけなんだけど、どちらにせよ君たちを先に行かせてモンスターと戦わせてしまったことを謝罪したい。これはその証だ」
「そうか……なるほど」
先までの突っぱねた態度はどこへやら、ホルクスは頷いて、俺からポーションを受け取った。アイテムを見た途端に気分を良くするとは、やはり冒険者とは現金な生き物だ。
「だがそうだとしても分からないな。お前たちはたった三人だろう、それでIDを周るつもりなのか? お前の装備を見ても舐めているとしか思えないぞ」
それはまったくその通りだ。何も言い返せない。
「かくいう君たちはどうなのかね。平均Lvは84と、われらと比較してそう大差ないと思うのだが」
滅多に口を挟まないフィイが、珍しくも横槍を入れた。
「おいおいシスターさん、冗談はよしてくれよ。たったひとり人数が少ないだけで、どれだけ攻略難易度が上がるのか知らないのか? これでもまだ少ない方だぜ。IDは四から八人で回るのが定石だからな」
「随分と多いのだな……アルトくん、それは本当なのだろうか」
「え、いや? 別に周ろうと思えばソロでもデュオでも、三人ならむしろ余裕だと思うぞ」
「……なに?」
ホルクスの顔つきが、またもやいかめしさを増した。
「なあ、いまあいつ〝ソロ〟って言ったか?」
「馬鹿な、あり得んだろそんなこと」
「きっとただの出まかせよ。つまらない冗談だわ」
そして彼のパーティーメンバーは口々に俺の発言を否定する。
なんだなんだ? 俺は失言したつもりはまったくないぞ。今どき大人数でID周回する方が奇妙だし、人数が増えた分だけ効率もガクン落ちる。
もしかしてあれか、こいつらはWIKIに書いてあることをすべて真に受けるタイプなのか?
「ああ、なるほど思い出した。そう言えばノルナリヤから、〝ヤカテストスをワンパンした〟と豪語する冒険者がいたそうじゃないか。しかもその職業はファイター系列。その見栄っ張りさまと、まさかこんなところで遭遇するとはな」
ホルクスが口元を歪めると、後ろの彼らも失笑した。
やっぱり口コミってやつはすごいな。俺は一言もそんな発言していないのに、勝手にあらぬ噂が広まっているらしい。もしかして俺、あの一件で有名人になっちゃったのか。
「嘘じゃないわ、アルトは本当にすごいんだから!」
一貫して静視していたコトハが、とつとして声を張り上げた。
「そうだ、アルトくんをインチキ呼ばわりするのは看過できない。今の暴言、撤回してもらおうじゃないか」
続けざまにフィイも加勢する。
そして剣呑な雰囲気で睨み合う二人の少女と、ホルクス一同。
このままだと争いに発展しそうだと思い、止めようとしても『いいからアルトは黙ってて!』と怒鳴られる始末。二人は俺のために怒ってくれているのか。それは嬉しいことだけど、ここで戦闘になるのは避けたいしなあ……。







