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ご覧いただきありがとうございます。

こんな感じで少しずつまともになっていきます!

彼女はダメヒロインを卒業できるのでしょうか……。

「うぅ、こんなのあんまりだわ……」


 日は沈み、平原の一角にある宿屋に着いたところで、コトハが精気のない顔で呟いた。


「いったい今日だけで何回ピコったのかしら、二十を超えたあたりで数えるのはやめたわ。ふ、ふふ、きっと明日からも床を舐める日々が続くのね……」


 ぶつぶつと呟いて光を失った瞳をしているコトハは、まさに亡者(もうじゃ)覇気(はき)もなく部屋の(すみ)で体育座りしている。


 流石にやりすぎただろうか。コトハのPSを上げるために無理やりモンスターと戦わせた結果、彼女が戦闘不能になった回数は三十二。


 気を失い、快復しては戦わせるという繰り返しで、コトハはほぼ一日中、床に突っ伏している有様だった。


「アルトくんよ、あれはちょっとマズいのではないか。何というか心折れた戦士のようで、見ていられないぞ」


 フィイが彼女に(あわ)れみの目を向けながら言った。


「そうだな、放っておくのはマズイ気がする。あいつのことだから萎えて辞めたりはしないと思うけど……一応声を掛けておくか」


 ずっと下を向いていたコトハに名前を呼びかけてみる。……反応がない。ただの亡者のようだ。


「参ったなこれじゃあ――」


 流石の彼女も折れてしまうのではないだろうか。そう思った矢先、体が柔らかい感触に包まれる。――突然立ち上がったコトハが、俺に抱き着いていた。


「アルト、ごめん、ごめんね、こんなに弱くて何回も死んじゃって、わたしこれからは頑張るから、絶対に頑張って強くなるからああああぁぁ!!!」


 そして彼女はそのままぴいぴいと派手に泣き出してしまった。


 やばい、感情の起伏(きふく)が激しすぎてついていけない。というか俺の体を揺さぶるな! 許して欲しいのか俺に当たりたいのかどっちだよ!


「分かった! 分かったから落ち着け! ほら、ノルナリヤ大聖堂の詩編(しへん)第十二聖詠(せいえい)でも黙読して――」


「うっ、うぐぅ、うぇ、うぇえええええええ、あああああああああぁぁぁぁ!!」


 コトハのお姫さま設定はどこにいってしまったのだろうか。


 ついに彼女は年甲斐(としがい)もなく子供みたいに喚き始めた。


 ダメだ、まるで話が通じねえ! あと顔を近づけるな、鼻水が服につくだろ!


「わたし、ずっとじぶんが強いと思ってたのに、強くなったと思ったのに、でも何にもできなくて、わたし、わたし、本当にゴミクズみたいで――」


 マズイ、このままだとコトハの癇癪(かんしゃく)は悪化する一方だ。宿屋には他の冒険者も泊まっているのに、こんな騒音、時間的に考えても迷惑――


「おいうるせえぞぉ! 静かにしろやぁ!」


 案の定、お隣さんから壁ドンされた。代わりにフィイが謝っているのが不憫(ふびん)でならない。


 一刻も早い措置(そち)が必要である。


「大丈夫大丈夫、そう気にするなって! 始めはみんな弱いんだし、上手くなるのも時間がかかる。それにほら、途中からまともに戦えたり、死ぬ回数も減ってきたじゃないか。初めてにしては、十分すごいと思うぞコトハは!」


 言いながら、これでもかというくらい頭をわしゃわしゃ撫でまわしていると、ようやくコトハは「うぐぅぅ……」と潰れた蛙みたいな声を出して鎮まった。


 なるほど……だいぶこいつのことが分かってきた。コトハはたぶん、根は素直とか真面目とかそんなのじゃなくて、単純に子供なんだろうな。肉体的にも精神的にも。


「もし〝もうやりたくない〟って言うんだったら、明日からは今まで通り俺がすべて倒していくけど」


「やめないもん、わたしがんばるもん」


「そ、そうか、それなら頑張っていこうな」


 これ以上暴れられると本当に宿屋を追い出されかねないので、そのままさりげなく寝床に連れ込んで寝かしつけた。


 コトハはいったい何歳児なのだろう。大人しく寝てくれたのはいいんだけど、抱き枕みたいにしがみつかれているのが暑苦しい。


「でもこの分だと、もう地雷プレイもしないだろう。期待していいのかもしれないな」


 コトハのステータスの振り方は間違いなく地雷ではあるものの、Lv72とまだ序盤の段階だ。


 これから体力や知力に振っていけば、充分に取り返しはつく。彼女に足りないのは、今のところHPだけだからな。そこまでの大問題ではないだろう。


「……」


 隣には、何故か羨ましそうな目で見てくるフィイがいたが、あえて気にせず寝ることにした。


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[気になる点] キャラクターは戦闘で死なないのですか? 世界観がいまいち掴めてません
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