025
「どうしたの、二人で真面目な顔をして。もしかしてわたしの話でもしてたのかしら」
タイミングよく戻って来たコトハの表情は明るい。すっかりいつもの調子といった風だ。
「別にそう大した話じゃない……というかコトハはもう大丈夫なのか。てっきり今ごろ拗ねてるのかと思ってたけど」
「何言ってるのよ、わたしもそこまで子供じゃないわ。――でもまあ」
そこでコトハは急にしおらしく、トーンを落としてから
「できるだけ今後は気を付けるから。それとさっきは叱ってくれてありがとう、あと、ごめんねいつも迷惑かけちゃって。……アルトの力になりたくて、その」
恥ずかしげにぼそぼそと呟いた。
「え? ああ、そうか。……いや気にする必要はない。これからも頑張ろう」
なんだか別人と話しているみたいで、変に声が詰まってしまう。
自分勝手な彼女だけどフィイの見立て通り、根は真面目なんだろうな。
「すまないね――随分と待たせてしまった」
ほどなくして戻ってきたハイデ神父は、山のような書類を抱えていた。
「色々と検討はしてみたんだが……この厳戒態勢の中、いかに姿勢の良い信徒希望者と言っても、特例扱いすることはできない。
そこでだ、君たちにはクエストに出てもらう。その結果を見て君たちが安全な者かどうかを見極めたいんだが、構わないかね?」
『ク――クエスト!?』
思いもしない提案をされて、コトハとほぼ同時に声が出た。
俺たちはこれから、どこに駆り出されてしまうのだろうか……。
「そんな顔をしないでくれたまえよ、多くのシスターたちを納得させるには最善の方法なのだ。君たちが本当に冒険者であるのなら、モンスターを倒すことに遠慮はないだろう」
「はあ……それで肝心のクエストというのは?」
「重要なのはそこだ。いくつか目ぼしいものを絞って持ってきたのだが、信頼を得るのに最適なものというとだね――」
神父はバサバサと紙束をまくっては、あれだこれだと呟いている。どう見ても絞れているようには見えないが、彼は何を絞って来たのだろう。
「あったぞ、これだ――君たちには〝ティニル洞窟〟に行ってフィールドボスの〝ヤカテストス〟を討伐して欲しい。あのモンスターが居着いたせいで、鉱石が採取できず街のみんなが困っているんだ。
無事討伐した暁には、君たちをこの街のギルドへと登録し転職でもなんでも可能にしようじゃないか」
そう言って神父はくだんの詳細が記載された、クエスト用紙を俺たちに手渡す。
報酬は三十万ルクス、HPポーションなどの消耗品アイテムのおまけつき。金には困っていないが、条件だけ見ればそこそこではある。
こっちの世界じゃ宿代や飯代などの雑費がかかるからな、金は持っておくにこしたことはない。
ティニル洞窟というと、街に隣接した鉱石がふんだんなエリアだ。
確かそこはノルナリヤの資金源になっていたような覚えが――さてはこの神父、口車に乗せて誰も受けないような面倒くさいクエストを受けさせようとしていないか?







