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未知のレイドボスは俺が考えている以上の強敵だった。初動、メフィストは特大の光線を直線状に放射する。移動速度上昇の恩恵を得ている者は何とか回避できていたが、そうでない者はたった一瞬の内に焼かれて消えた。気づいた時には百人近くが消滅していた。
「……っ!」
次々と光の粒と化していく仲間たちに、みんなは動乱していた。悲鳴や怒号などの阿鼻叫喚が一帯に奔る。だけど混乱していられるだけの余裕もない。メフィストが八つ手を翳した時、第二波はすぐにやってきた。
「おい……本当にみんなは死んでないんだろうな! ハヌマリルはそれらしいことを口にしていたけど、もしそうじゃなかったら……」
「案ずるな。意識が混濁状態に陥るだけで死にはしない。魔王を倒せば全て解放されるだろう。その時は私たちも現実へと帰れるはずだ」
衒いもなくアグニスが答える。死人が出ていないことには安心だが……いざ目の当たりにすると生々しい。恐怖に気勢を萎ませる者もでてくるだろう。何とも幸先の悪いことだ。
「虫ケラ共めが……ちょこまかと小賢しいわ。業火に焼かれてしまえ!!」
メフィストが怒号を上げた瞬間に、カルテガは文字通り火の海と化した。
奴の後方から轟々と煮え滾るマグマが波を打って押し寄せる。攻撃範囲は都市全域だ。建造物は溶解し、彼に仕えていた信徒もろとも灼熱に呑まれる。
クソ野郎とは分かっていたがここまで見境ないとは。秘密を知られた以上、全員生きて返さないつもりなのだろう。史上最悪の口封じだな。
「至上者よ、我爾の爲に慶び祝い、爾の名に歌わん!」
防衛にあたってフィイが魔法陣を展開。陣外からの攻撃を全て遮断する。
他のパーティーもシールドやバリアなど、防御スキルを駆使して難を逃れている。一パーティーにつき一人はクレリックかプリースト系列がいる。こと生存スキルに長けた彼らがいれば理不尽なAoEスキルにも抗えるだろう。
問題は……どうやってアレを攻略するかだ。
「まだ反撃には出ないの? みんな相当堪えているわよ」
コトハが言った。
「もちろん出たいところだけど、どんなスキルを持っているか分からないし、こっちは一発でも受けたら即死のクソゲーだ。踏み込んだ瞬間に一網打尽ということもあり得る。まずはあいつにスキルを吐かせて様子を見たい」
「でも時間の問題のように思えるわね。だってこの間にも消えていく人が出ているわ」
コトハが辺りを一瞥する。
破壊光線、灼熱地獄、地割れに竜巻などなど、これでもかというド派手なスキルを連発されて、味方の数が徐々に減少している。
いくら防衛手段があるとは言え、PSの問題はもちろんある。理論上防げる・躱せるからといって皆が皆できるわけじゃない。それができるのは本当に努力を積み重ねてきた者だけだ。できない者は……どんどん光の粒と化していく。戦力の低下は否めない。
「分かった、ここいらで反転しよう。……後はみんながついてきてくれるかどうか」
仲間の冒険者たちにたちは目に見えて慄然としていた。無理もない、目の前で次々と味方が消えていくんだ。死を直視してまともでいられるわけがない。
「彼らがついてきてくれるかどうかはリーダーの腕前次第だ。皆が怖気づいているというのであればお前がまず覇道を示せ。勇姿を見せずして何が指導者か。気の抜けた返事をするな」
俺の後ろ向きな発言に、パーシヴァルが一喝する。
まったくもってその通りだ。俺が先陣を切ってやるしかない。
「みんな、これから俺たちは反撃に出る! 無理にとは言わない、勇気のある奴だけついて来てくれ!」
彼らからの返事は少ない。大半がもう逃げ出したいと言わんばかりの顔をしている。
キルゾーン中はエリア移動ができない。もしできていればこの場に残っている者は数十人だけだっただろう。不幸中の幸いと呼ぶべきか否か。
「いつまでお喋りしているつもりだ? そんなに会話をしたいのならあの世で存分に語り合うがよいぞ!」
メフィストが巨大な八つ腕を振るう度に、三日月状の斬撃が飛翔する。モーションからエフェクトの発生まで一秒前後といったところか。まったく隙が無いほどではない。これなら目を掻い潜って距離を詰められる。
「お次は雷と来たか。本当にいちいち技がデカイ……」
足元が淡く発光した次の瞬間、天上より光の柱が降り注いだ。回避が遅れたらどうなるのかは想像に易い。
それにしても大技と言えば聞こえはいいが……光線、炎、竜巻、雷……あからさまに雑で適当な感じだ。MMORPGのラスボスならもっと凝った、品のあるスキルを実装しないだろうか。もしくは本当に突貫工事だったのか。
「どうしたアルトよ、腰が引けていると見えるが」
攻めあぐねているとメフィストが嘲笑を送ってきた。
「どうにも頭の悪いスキルばかりでな、ちょっとばかし驚いただけだ」
「何を言うか、執行役員のこの私が自ら提案し、作らせたオリジナルスキルだぞ。それとも貴様のような人間にはこの素晴らしさが分からんか?」
ケラケラと嗤いを上げながらメフィストが八本の腕を伸ばす。掌から再び放たれた光線が直線を焼く。軌道は実に読みやすい。構えた時点で当たる気もしなかった。
今の発言には何か……何か引っ掛かりを覚える。
奴自身がスキル構成に関与した? それもゲーム運営ですらない執行役員が?
考えてみれば疑問はすぐに得心へと変わった。同時にメフィストのスキルが豪快なバリエーションばかりであることも理解できた。
――この勝負に俺たちは勝てるかもしれない。







