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 カルテガに戻った矢先、俺たちは再び聖職者たちに皇室(こうしつ)へと連行された。どうやら教皇さまがずっと都市を見張っているらしい。熱心なことだ。


 皇室には前回同様に、教皇さまと大司教さまが(きら)びやかな椅子に腰かけている。辺りの聖職者は(かしこ)まり片膝をついている。思わず息苦しくなるような、重くピリピリとした空気だ。


「どの面を下げて戻ってきた冒険者。カルテガに足を踏み入れたくば教会の魔人を滅ぼしてこいと命じたはずだが」


 教皇のディートが剣吞な語調で催促する。


「まったくおめおめと逃げおおせてきおって。冒険者なら魔人の一匹や二匹、さっさと倒してくるべきだろう。それともキルゾーンに恐れをなしたか? つくづく使えん奴らよ、顔も見たくないわ」


 ここぞとばかりにまくしたてる教皇さまは今日一番の仏頂面だ。それほど俺たちを亡き者にしたかったのだろう。顔に立った青筋が怒りのほどを表している。


()く失せよ。命令を果たすまでは二度とカルテガに踏み入るでないぞ。貴様らのような下賤(げせん)な輩、いるだけでも聖都市が(けが)れてしまう――」


「盛り上がっているところ悪いが、魔人なら倒したぞ」


「いいか、金輪際(こんりんざい)近づくことすら許さん。まずは黒薔薇(くろばら)教会の地下に――って何? 貴様、いま何と」


「魔人なら倒したって言ったんだよ()()()()。メルクトリの奴はもういない。次はあんたが覚悟する番だ」


 ディートはパチクリと瞬きをしている。まさに唖然(あぜん)といった感じだ。


「貴様はいったい何を言っておる、魔人を討伐したという話もそうだが……いやいや、そもそも私が魔王などとはふざけた話よ、どんな根拠があってだな」


 しどろもどろに教皇が言う。もう正体は割れているというのに、惨めなことだ。


「まずひとつ、俺たちを魔人だと疑ってかかるくせに真っ向から話し合いだなんておかしすぎる。二つ、あんたの指令に合わせたように魔人がきっちり構えていたこと。三つ、あんたは何故か魔人の居場所を突きとめていた。教会に入るには、監視場でパーシヴァルの許可が居る。なのにパーシヴァルは魔人がいることを知らなかった。あいつでさえ知らないことを、どうしてお前が知っているんだ」


 そこまで問い(ただ)した後、ディートからの反論は無かった。いや彼は未だに事実を受け止められていないようだった。口を金魚みたいにパクパクとさせている。


「まさかメルクトリが……あのポンコツめ、チートを使って負けただと……あり得んだろうそんなことは……クソ、クソクソクソクソ、役にも立たぬゴミクズめが……」


 元仲間に何という言い草か。教皇は怒りのあまり肩を震わせていた。


 一方で周りの聖職者たちは戸惑うばかり。これまでずっと洗脳されてきたんだ、偉大たる教皇さまがよもや魔王だとは思うまい。――この混乱の中でなら、先制できそうだ。


「――ぐっ!?」


 即座に長弓を取り出して直線状に射撃。矢は放物線を描いてディートの胸部へと突き刺さった。同時に、彼の正体が解き明かされる。


「貴様、我らが教皇さまに何たる無礼を!!」


 すぐさま近くの聖職者が俺を取り押さえてくる。


「そうあわてるなよ、俺の行いが正しかったかどうか、ちゃんとその目で確かめてみたらどうだ。奴の正体が露わになっているぜ」


「ま、まさか……そんな……!!」


 それを見た時、聖職者たちは声を失った。魔王ディートLv330。頭上に表示された名前こそが教皇の真の姿だった。


 にしてもHPの桁がとんでもないな。一、十、百、千、万……全部で九億九千九百九十九万九千九百九十九か。約メルクトリ十体分だな。仕様の限界までHPを積んでくるとは、間違いなくチートというかインチキだろう。開発時、自分だけ絶対に死ぬまいと数値をいじったに違いない。


危惧(きぐ)していた通りの展開になったか。だが良かろう、秘匿(ひとく)はまだ守り通せる……この場に居る全員を始末すれば、それだけで事足りるということだ!」


 追い詰められたディートがとんでもない案を打ち出した。この場に居るとなると、俺たちだけじゃなく見聞(けんぶん)していた、聖職者たちもだろう。自らの信徒を葬るとはゲスの極みだ。さすがは電脳世界の統治者を目指した男。ゲスっぷりが断然違う。


 ディートはどうやら本気らしく、大声を上げた途端にキルゾーンの警告が表示された。聖都市カルテガが血生臭い戦場へと変貌(へんぼう)した。


「さあ加勢せよアグニス、私たちが同時にかかればアルトとて敵ではない!!」


「はっ、仰せの通りに」


 隣で座していた大司教アグニスが立ち上がる。その瞬間、奴の表記も変わった。


 魔人アグニスLv330。こちらはメルクトリと同等のHP量か。いやどの程度であれ、気にする必要はないな。あいつは恐らく……。


「メルクトリ程度を葬ったからと言って図に乗るなよ冒険者。ここに顔を出したのが運の尽き。貴様らは全員塵屑(ちりくず)と化し電子の海を彷徨(さまよ)うことになるのだ――」


 声高々と、ディートが(うた)い上げた時のことだった。


「ッ!!?」


 傍らにいた金髪司教アグニスが、忽然(こつぜん)とディートに牙を剥いた。


 スキル〝インフェルノ〟、教皇の足元から炎の柱が現出する。間髪入れずに携えていたマジックロッドで火中のディートをタコ殴り。スキル〝グロリア〟、ロッドに炎属性を付与し攻撃する近接攻撃だ。


 ロッドに殴打された挙句、ディートは最後の一撃で壁まで吹き飛ばされた。容赦のない連撃だ。


「やっぱりお前はこちら側かアグニス」


 俺の問いに応えるように彼が口角を緩める。


「今の内に行こう。こっちだ」


 途端(とたん)にアグニスは駆け出し始めた。指はギルドの外へと向いている。


「行こうって……一緒に魔王を倒すんじゃないのかよ」


「直にここは崩れる。言っている意味はすぐに理解できるだろう。そうなればこちらが不利だ。とにかく今は外に走れ」


 狙いは不明だが、魔王をしばき回した以上、演技だとは思えない。実際に先ほどからディートの怒号が凄まじい。罠ではないしついていこう。


「あれは……」


 数秒後、俺たちはアグニスの言葉を理解できた。


 城砦(じょうさい)を思わせる規格外の体躯(たいく)に、巨大な八本の腕と角、ヒト型ながら腰から下はコマのように細くひとつ足となっている。それで歩けるのかと思いきや、奇妙なことに浮遊している。ギルドの施設を全て破壊して出てきたのは、紛れもない化け物だった。


 おまけに表記が魔王メフィスト・フェレ・メウスLv330に変化している。あれこそがディートの本性――いや魔王としての姿なのだろう。まさかレイドボス化するとは、本当に何もかもふざけた野郎だ。


残りのフラグは次話で回収していきます

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