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ちょっと長いですが、分けるようなパートでもなさそうなので一気に行きます
「……」
リズは硬直したまま一言も発さない。そう言えば俺以外には人見知りなんだっけ。初対面の人とする面接が怖いのかもしれない。
「おいリズ」耳打ちされた彼女は「はわわっ!?」と我に返ったように叫び出した。緊張で肩をぷるぷるさせている。表情も固い。……大丈夫だろうか。
「え、えっとそれではさっそく、冒険者さんのお名前とかいろいろおねがいします……」
凄く漠然としたニュアンスでリズが問う。
「はい! 私はテトナーと申します! ジョブはクロノでLvは181、バフデバフに特化した支援職です! 本日はよろしくお願いします!」
ぺこりとテトナーが一礼。はきはきした喋り方からしても好青年といった印象だ。
クロノはレイド戦でも活躍したジョブで、時間や速度に関するスキルが得意分野。個人活動は苦手な半面、パーティーで大いに活躍する。有用な人材だ。
「か、活躍時間はどのくらいですか? あとあと、テトナーさんはパーティーなど複数人での活動に抵抗はありませんか?」
「活動はみなさんのギルドに合わせます! 団体行動にも嫌いはありません!」
うーむ、素晴らしい受け答えだ。特に蹴る理由が思いつかない。とりわけデバフに優れているわけではないが、クロノなら入れてもいい気がする。そう思っていたのだが、
「当ギルドでは、パーティー編成の際、公平性を考慮して経験値、ドロップアイテムの分配はランダムとなっています。こちらについてご理解は――」
「それは困ります。私はあまり公平だとは思えません」
テトナーが顔を曇らせた。まさかの反論にリズが岩みたいに固まってる。
「支援職は他の職よりも苦労しやすいのですから、ドロップアイテムや経験値は優先的に回していただかないと。あと狩場とIDは毎日連れていって欲しいです。クエストの報酬もできるだけ、あと狩場を回る際は私を中心として――」
テトナーが怒涛の勢いでまくし立てる。物凄い数の注文だが、どれもリズの耳には入っていないだろう。彼女は想定外の事態を受けて、小刻みに震えるだけだった。
選手交代だな。
「すみませんテトナーさん、うちのギルドでは職毎に優遇はしないんです。基本的にパーティーで活動するので、みんな成長速度が同じですから」
「そんな……しかし見たところアルトさんたちの中で私が最も低Lvです。その分装備や経験値を優遇してくれてもよいのではないでしょうか」
「となると、レアアイテムとかも譲った方がいいでしょうか?」
「できれば、是非に! あ、あとIDにも毎日連れていってくれると助かります!」
テトナーが満面の笑みで言う。
なるほどなるほど。だいたい彼について分かってきた。おおよそよくいる寄生タイプの冒険者だろう。できればとは言っているが、この手はもし想定と違った場合、喚いたり愚痴ったりすることが非常に多い。注文の多さからしても寄生目的と見て違いない。
「分かりました。結果は追って連絡します、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました」
お辞儀をして早々に打ち切る。残念だけど彼はキックだな。どうにかして楽をしようという魂胆が見え見えだ。トラブルの元にもなりやすそうだし。
「ふふふ、次はわれの出番なのだ。任せたまえよアルトくん、良い人材かどうか見極めてやろうではないか」
ひとつ面接が終わったところでリズとフィイが交代。金髪シスターさまが隣席に着く。
「まあ、見極められるだけの人が来ればいいが」
「何を言っているのだアルトくん。その態度は相手にとって失礼であるぞ」
「いやそういう意味ではなく……」
「うむ? ではいったいどういう意味なのだ?」
俺は正面を指さした。本来今頃は冒険者が腰掛けているであろう席は、無人となっている。何故、予定通りの時間になっても冒険者が現れないのか。その理由は――
「バ、バックレ!? まさかそのようなことが……」
フィイが愕然とした。初めての経験であったことがまざまざと窺える。
「よくあることだよ。面倒くさいと思ったのか、堅苦しいのが嫌なのか、それとも極度な人見知りなのか。いずれにせよ加入申請しておいて、いざ話し合おうとなったらバックレる奴は少なくない。まあその……残念だったな」
「な、なんだと、まさかわれの出番はこれで終わりだとは――」
言い差した途中でもうひとりの金髪が来た。厨二少女のペルだ。
「ククク、聖職者よ、疾く席を代わるがいい。貴様の出番は終わりなのだ、次は深淵の支配者たる我こそがお兄さまの隣に座る番ぞ」
「い、いやなのだ!! われはまだ面接をしていないのだぁ!!」
フィイが駄々をこねた結果、次は三人でやることに。右にフィイが左にペルが着く。
どうして俺が真ん中なんだろう。せ、狭いのだが……。
「ククク――来たか冒険者よ!」
次の男は規定通りの時間に来てくれた。開口一番、リズが声を上げる。
「さあ名を名乗りたまえ! 此度は特別に我の前での発言を許そうではないか! 宵闇を統べる我が一族に相応しい者か否か――業腹にもこの我が直に見極めて――!」
「あ、すいません今の無しで。フィイ後は頼む」
咄嗟にペルの口を手で覆う。
「えぅっ!?」
何だか凄い声が鳴った。とても呼吸しづらそうにしている。
だが面接が終わるまでこのままでいかせてもらおう。放っておくとこのパツキンは何を言い出すか分からな……あぁ!? こいつ指を甘噛みして……こんの厨二ロリめ!
「アルトくん、ちょっと」
話を進めていたフィイが俺の袖をくいくいと引っ張る。トラブル発生だろうか。
「どうした?」
「それが彼、モトという冒険者が団体行動はしたくないと言うのだ」
「あぁー……了解。ちょっと話してみるよ」
何となく状況が理解できた。フィイに代わって場を取り持つ。
「モトさんどうしましたか?」
「だからさぁ、同じパーティーは組めないっていってんの。こっちにはこっちのパーティーがあるんだから、ギルドには加入するけど、ずっとは難しいって」
「もちろん強制はしません。仰る通りモトさんにはモトさんのパーティーがありますから。ですがギルドイベントの時は協力してくれますか?」
「ん? 別にしねえよ面倒くせえし」
モトは即答した。
「ギルメンとも交流しない、パーティーも組まない、イベントにも参加しない。それだとギルドに入る意味がないと思いますが」
「意味なんてあるさ。ワープ使えたりお手軽にアイテム生産できたりするだろ? だいたいどうして見知らぬ他人と仲良くしなくちゃならねえんだ。かったりぃ」
モトが深々と嘆息する。
常々思うがこういう輩はどうして自分たちでギルドを建てないのだろうか。管理が面倒、建設費が無いとかおおかたその辺だろうが……本当に困ったもんだ。
「すみませんがお引き取り願います。あなたは私たちのギルドに合わないでしょう」
「おぉーそうか。んじゃまたの機会ってことで」
モトはあっさりと引いてくれた。彼が去った後もフィイは呆然としている。
「世の中にはああいう男もいるのだな。しかしどうして加入申請してきたのだろう」
「ちょっと極端な感じだったけど、割とよくいるタイプさ。ギルドを物とか価値で判断して、ギルメンとは一切交流しない。それが悪いスタイルだとは言わないけど、少なくともうちみたいなギルドじゃ合わないかな。出入り自由のギルドが合ってると思う」
「なかなかマッチした人は見つからないのだな……」
「ああ。本当に」
モトが退席したことで二人の番が終了。一巡目の最後に一番の問題児がやってきた。
「ふふん、やっと私の番がきたわね。期待してもいいわよ、この私の審美眼で完璧に分析してあげちゃうんだから」
コトハさんはノリノリな様子。先方が見えてるんだから大人しくしてくれないかな。
「あなたはテフヌさんっていうのね。じゃあ早速だけど、あなたは私たちのギルドにどう役立ってくれるのかしら。言っておくけどうちのギルドは少数精鋭、PSが重視されるのはもちろんのことパーティーでの連携も――」
「おい待て」
ダメインの首根っこを掴む。
「ひぐぅっ!?」
コトハはウシガエルみたいな悲鳴を上げた。
「お前がカーリグル化してどうする。いいかせっかく来てくれた加入希望者にマウンティングはご法度もご法度、最低の立ち回りだぞ。そういうギルドなんだ、とか思われたらどうするんだよ」
耳打ちすると、コトハがきっと睨みつけてきた。
「だ、だってだって! さっきのモトみたいな奴だったら嫌じゃない!」
「気持ちは分かるけど、言い方ってもんがあるだろ。いいか丁寧に接するんだぞ」
「う、ううううううぅぅぅ……」
コトハが呻き声を上げている。心配だが、もう一度だけ任せてみよう。
「……すみません、とんだ失礼を。まずは冒険者さまの自己紹介をお願いできますか」
精一杯の愛想笑いで彼女は言った。なんだそんな顔もできるんじゃないか。
「――なああんた。このギルドには女がいるのか?」
テフヌが俺を指さす。
「ええ? いますけどそれが何か」
「おいおいおい、女だなんて正気かよ。せっかく名声の高いアルトさんがいるってのに女とか姫プかよ。悪いけど女がいるギルドになんて入りたくねえぞ」
テフヌが捨て鉢に言う。――問題児その四、極度の異性嫌いだ。
どうしてこうも典型的な地雷加入希望者ばかり集まるんだろうか。
「えーっと、どうしてそこまで女性を毛嫌いしているんですか?」
「んなもん決まってるだろうが。女は決まってド下手くそだからだよ。ダンジョンやレベリングでよく足を引っ張るし、ギルドクラッシャーもよくいるじゃねえか。お姫さまを囲うのなんざ俺は御免だね」
「……差別的な発言はあまりよろしくないかと」
「差別じゃねえ、区別だよ」
飄々と言うテフヌには反省の色がまったく見えない。こうなればもう面接もクソもないだろう。ギルドと合っていないのは目に見えている。……なにより隣のお姫さまのご機嫌が最悪だ。面接どころではない。
「だれがド下手くその姫ですって?」
コトハがインベントリからフェンリル二刀を取り出した。やる気のようだ。
「何だぁ姫さん、もしかして俺とやろうってのか。はっとんだ勘違いだな。ナイトに囲われて自分が上手くなったと思ってんじゃあ話になんねえ。お前はどうせ下手くそだよ」
「下手くそかどうかはやってみれば分かるんじゃないかしら。ほら、早く準備をしなさい? 決闘、殺るわよ?」
「女如きが上等だぁゴラぁ!! こっちは支援職だろうがてめえなんぞに負けるわけねえ!! 捻り潰してやらぁ!!」
止めようと思った頃には時すでに遅く。外野の野次も相まってすっかり二人は決闘モードに。結果は分かり切ってることだ……さっさと次の準備をしよう。
「ちょっ――待っ――強っ――あああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
断末魔も断末魔の大絶叫が聞こえてくる。彼女に関しちゃ姫というより脳筋ゴリラ系である。喧嘩を売ったのが運の尽き。これに懲りてレイシスト的な考えを改めるといいのだが。
「えー……次の方どうぞー」
暴れ狂う鬼を流し目に、俺は黙々と面接を進めた。
道中章完結です面白いと感じて頂けたら★★★★★を押してくれると大変嬉しいです!
※蹴る、キック=断ること。強制脱退の意味もある。
姫プ=姫プレイ。周りにすがって自分だけ楽をするプレイング。
ナイト=姫の反対。誰かを楽させようと囲う役。
ギルドクラッシャー=雰囲気悪化などでギルドを崩壊させる地雷のこと。







