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「アルトは今頃どうしてるのかしら。上手くいってるといいんだけど」


 コトハがID前の魔法陣を見つめている。面持ちはやや暗い。俺がカーリグルに負けていないか不安なようだ。


「おにいちゃんなら大丈夫だよ! だっていままでもそうだったんだもん。レイドボスも都市戦もずっと勝ってきたんだし」


 リズが言った。


「でも相手はLv210の三次職よ? 装備も揃ってるみたいだしいくらアルトでも今回は分が悪いんじゃないかしら。それもIDのクリアタイムで競うなんて」


「今はアルトくんを信じたまえよ。きっと圧倒的な差をつけて帰ってくるに違いないのだ」


「ククク、お兄さま――否、深淵(しんえん)の王が敗北するなど天地が(くつが)るほどあり得ぬことよ。かの者はつつがなく帰還してくるであろう」


 焦るコトハに、フィイとペルが()きつける。


「そうよね。疑ったって仕方ないもの。今はとにかく信じないと」


 彼女が言うと三人がうむと首肯(しゅこう)する。


 みんな俺を応援してくれているのか。嬉しいけど何だか照れくさいな。


「ボスがいないなんてほんとに変わったダンジョンよね、。アルトが言うには山頂へと辿り着いたらクリアみたいだけど……中はどんなモンスターがいるのかしら」


「状態異常を持ってるやつが多いよ。崖を登る冒険者を邪魔しようと、麻痺とかバインドとか強制ノックバックとかしてくる。一発でも食らったら地上へと真っ逆さまだな」


 俺が言うと、フィイは気難しそうに(うな)った。


「それはまた面倒なダンジョンなのだ。いやしかし――ということはコトハくんはかなり有利なのではないだろうか。バーサーカーⅢは全ての状態異常効果を無効にするはず」


 フィイの意見を受けてコトハはハッと目を皿にした。


「もしかして私がやった方がよかったのかしら。でもでもアルトはそんなこと教えてくれなかったし……」


「大丈夫だって。俺がMOBの攻撃を受けるはずないだろ? 第一、今回俺は正攻法で挑んでない。まともにやったら分からないけどな」


「そうだよね! おにいちゃんがモンスターにやられちゃうわけ――」


 リズの声は途中で止まった。同時に彼女たちが『え?』と振り向く。いつの間にか背後にいた俺が信じられないのか、(しば)しの間みんなは目を丸くさせていた。


「な、なにやってるのよアルト! 勝負の途中なんでしょ、早くダンジョンに戻らないと」


 コトハが切羽詰まったように言った。


「そう言われてもだな……IDならもうクリアしたぞ」


「アルトくん、今は冗談を言っている場合ではないのだ。途中退出してきたのなら、いま一度チャレンジせねばあのワカメ頭に大きな後れを取ってしまうのだよ」


 フィイも重ねて忠告をする。みんなは、俺が途中でIDを退出してきたものだと勘違いしているらしい。とは言えこの早さならそう錯覚しても仕方がない。


 俺はプロフィール情報からIDセレヌス山脈のクリア情報を開示した。


「冗談じゃないって――ほらこの通りクリアタイム二分五十七秒。ついさっき終わったところなんだよ。だから戻る必要はない」


「えっと……それってつまり……」


 コトハは返す言葉を失っている。フィイもリズもペルもきょとんと口を開けていた。


「チートってこと?」


 絶対に言うと思った。コトハさんは真顔である。


「使ってないから安心しろ。確かに正攻法ではないけど、とある仕様を利用したまでのこと。これも一種の知識ゲーだよ」


「そ、そんなのって……だってほぼ三分よ三分! 真面目にやったら一時間くらいかかるってアルトは言ってたじゃない!」


「真面目にやったらな。悪いけど俺はクソ真面目に登ってやるほど真面目じゃない」


「む、むむむむむ……怪しいわねきっと何か隠してるわ……」


 コトハがジト目で見つめている。


 どうして味方のはずの彼女に疑われているんだろう。相手をするとIDより長い時間がかかりそうだ。……無視しよう。


「ククク、さすがはお兄さまよ。このクリアタイムは間違いなく(みな)の度肝を抜いたであろう。しかしカーリグルという男は納得しないのではないか。きっとお姉さまよろしく〝チートだ何だ〟と吠え散らすに違いない」


 ペルの意見はまったく正しい。たぶんそんな展開になるだろうと俺も思ってるところだ。


 果たしてカーリグルをどのように説得するか。むしろそっちの方が難題だろう。


 そして時は来た。ほぼ一時間後の今、カーリグルと俺はお互いにクリアタイムを報告する。終始、不敵な笑みを浮かべている彼だったが、


「クリアタイム、に……二分五十七秒……だと……ば、馬鹿な……っ!?」


 俺の記録に驚きの第一声を放つ。俺のタイムがにわかに信じ難い様子。


「そっちは五十一分、けっこうな速度で駆け上がってきたみたいだな。だけど勝者がどちらは比べるまでもない。さあカーリグル観念してもらおうか。言いたいことはあるだろうが負けは負け。ここは大人しく従って――」


「ふ…………ふつくしい…………」


「は? ……今なんて」


 カーリグルは俺の声がてんで聞こえていないようで、ぷるぷると肩を震わせていた。


「ふつくしい、ふつくしいと言っているのだよ! かつてこれまでにセレヌス山脈を高速クリアした者はいるだろうか!? まさに君こそが僕の理想、追い求めてきた強さの全て! ああアルトくんと言ったか、どうかその強さの秘訣を僕に――!」


 何やら雲行きが怪しくなってきた。どうせ逆切れするものかと思いきや、なるほど強さイコール正義の彼らしい反応だ。目を疑う掌返(てのひらがえ)しである。


 問題は……彼がじりじりとこちらににじり寄っていることだろう。これは()()ぞ。


「おいカーリグル、それ以上近づいてくるんじゃない。お前はロリコンのはずだろ」


「ふっ、とんだ誤解さ。僕はね美しいものに()かれるんだ。強さもその一環に過ぎない。だってそうだろ? 強き者は美しい、そしてあまりにも早いクリアタイム……僕じゃなきゃ見逃しちゃうね」


「分かったから近づいてくるな。――おいどうして手をワキワキさせている。よせ早まるな俺たちはきっと分かり合え――」


 カマ野郎はワカメ頭を掻き上げると、俺に向かって飛び出した。


「よせ、や、やめ、やめろおおおおおぉぉ!!」


 迫り来る変態をギルメン総出で撃退。カーリグルから一件に関するお詫びをもらった後で、俺たちはアウラへと帰還した。


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