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189(シブレル平原)


「こんなところに村があるのね。外はモンスターがいるのに不思議なものだわ」


 目的地に到着すると、コトハが感嘆(かんたん)の声を上げた。


 丘陵地帯(きゅうりょうちたい)を抜けた俺たちは、シブレル平原を訪れている。正確には平原の端にある小さな村だ。目と鼻の先にはモンスターがいるのに村が建っているとは不思議なものである。


 とは言ってもMMORPGではお馴染みの光景だ。いくら近かろうとモンスターが襲ってこないのだろう。村や街はセーフゾーンに設定されているからだ。バルドレイヤのように急襲イベントでも発生すれば別だろうけど。


「そうでもないさ。これまで何度も宿屋に泊まってきただろ? モンスターがいるエリアに宿屋や村が当たり前のようにあったじゃないか」


「言われてみれば確かにそうね」


 コトハがこくりと生返事をする。彼女は他に思い当たる節はないのだろうか。この現象がおかしいと思うのなら、それこそ世界に異常があると勘づきそうなものだけど。


「えっと、他には何か思うことはないか。たとえばモンスターの動きを見て規則的過ぎるとか、ゲームっぽいとかさ」


「そう言われてもずっとこれが普通だったし、規則性なんて人間にもあるじゃない」


 問い返したところで良い反応はもらえなかった。これは……彼女の認識がはたして彼女だけなのかを確認する必要があるな。


「フィイとリズとペルは?」


「われも特には……モンスターはそういう生き物だと思っていたゆえ」


「えっと、リズも同じかな」


「ククク、モンスターどもには考えるだけの知性もないのだ。よってアレが一般的な行動だと(とら)えているぞ」


 しかし結果は(かんば)しくない。恐らくモンスターが突然リスポーンすることやHPゲージなどが存在することを問い詰めても一緒だろう。彼女たちにとってはそれが常識なんだから。


 てっきり記憶の改竄(かいざん)だけかと思っていたけど、知覚力もいじられているかもしれない。おかしいことにおかしいと気づくことができないとか。


 この世界を生み出した奴はいったいどんな理想郷を創ろうとしているんだろうか。


「分かったよありがとう。雑談はここまでにして、そろそろ俺たちもあっちに向かおう。マイアさんの用事も終わったようだし」


 彼女は俺たちに向かって手招きをしていた。あらかた片付け終わったのだろう、さっきまであった大きな荷馬車がきれいさっぱり消えている。


「みなさんこの度は本当にありがとうございました。危険な地域から村まで護衛していただいて、おかげで何事もありませんでした。――これは追加のお礼です、どうか受け取ってください」


 マイアが取り出したのは黄金に輝くポーション。


 これはまさか……課金アイテムのアレか!? どうして彼女がそんなものを。


「〝スキルリセットポーション〟一度だけスキルポイントを初期化できる優れ物です。かなりの貴重品ですよ、きっとお役に立てるかと」


 遂にマイアがそのアイテム名を口にした。


 俺たちは都市戦で不要なスキルを(いく)つか習得したため、有難いことには違いない。だが問題は役に立つかどうかではない。なぜ課金システムの無いここで、課金アイテムが存在しているのかだ。


「なあマイアさんはいったいどこでこれを入手したんだ?」


「スキルリセットポーションでしたら、金髪の男性から頂きましたよ。何でも今後に役立ててくれ、と。そう言われても仕方がないので、結局は誰かに譲ろうと思っていたのですけどね。彼もそうした方がいいと仰っていましたし」


「彼って?」


「それが名前はハッキリと覚えていなくて、すみません」


 マイアさんに関わった男は不審なことこの上ないが、身に覚えもないので追及してもしょうがない。金髪か……まるで知らない相手だな。


 受け取ったスキルリセットポーションは全部で五つ。偶然にもパーティーメンバー全員分だ。彼女たちが転職したらすぐさま振り直しができるだろう。


「しかし本当にいいのか。かなりの貴重品らしいけど」


「いえいえ、ベヒモスを倒してここまで運んでくださいましたから。報酬がたった数万ルクスではむしろバチがあたるでしょう。それに元々私の所有物でもなかったですし」


「そうか。なら有難く頂戴しておくよ」


 金色のポーションをそれぞれ彼女たちに一つずつ分配する。勝手に使ってしまわないか心配だが、さすがに大丈夫だろう。……コトハにはしつこく言い聞かせる羽目になったが。


「クエストも済んだことだし、次はマイアさんの案件だな。確か……不仲の冒険者がいるんだっけか」


「ええ、今は駆け出し冒険者の街アウラで経験を積んでいます。重ね重ね申し訳ありませんが、ご鞭撻(べんたつ)のほどは可能でしょうか?」


「もちろんだ任せてくれ!」


 即答すると彼女は満面に笑みを(たた)えた。


 どうにも冒険者同士でマウントを取り合っている者たちがいるらしい。お互いフレンドなら清く正しい道を歩んで欲しいとは思うが……(みな)避けては通れぬ道だ。誰しもそういう時期はあるだろう。


 俺たちはギルドハウスに帰還し、ポータルでアウラに向かった。


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