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「パーシヴァルは仕事中みたいだな。エレンは今から来てくれるそうだ」
二人にチャットで声を掛けてみたところ、拳法家の彼から良い返事がもらえた。
丘陵地で待つこと五分。フィールドにエレンが現れた。ギルドハウスのポータルから転移してきたようだ。
「来てくれてありがとうエレン」
「アルトさんの頼みならすぐに駆け付けますよ。――それにしてもベヒモスとは、かなり厄介なモンスターですね。こちらのバフを無効化するスキルを持っているようです。突破するにあたって作戦はどうしますか」
「メインはマイアさんの護衛だから、ひとりは守備に回らないといけない。俺が彼女を守るから、エレンとコトハとペルで戦ってくれ。作戦は〝とにかく殴れ〟だ」
「分かりやすいですね。ええ、是非ともそうしましょう」
彼が一歩を踏み出すと、彼女たちもその後に続く。
「とっとと終わらせるわよ。ヒト型のゾウもどきなんて気持ち悪くて仕方ないもの」
「その通りなのだ。奴を闇の奥底へと葬ってやろうぞ!」
接近したことによって三人はモンスターの感知範囲内へと突入。すかさずLv195の隠しボスがコトハたちへと振り向いた。ベヒモス対冒険者たちの戦いの幕開けである。
「早速だな」
ベヒモスは初動、かまびすしい咆哮を上げる。〝雄叫び〟全プレイヤーのバフを強制的に無効化させるスキルだ。〝雄叫び〟はその後も効果が持続する。扱いとしては状態異常スキルであるため、コトハの〝バーサーカーⅢ〟だけは干渉できない。
今日はコトハが大活躍するだろう。
「ぐぬぬ……こうなってはバッファーは立つ瀬がないのだ」
「こんかいは見てるだけになっちゃうのかなあ」
フィイとリズが悔しそうに歯噛みしている。現にベヒモスのスキルはバッファー殺しだ。今回ばかりは活躍できなくても仕方ない。
「バフが効かなかったりデバフが効かなかったりと、モンスターによって特性が異なるのは当然だが、攻略法が乏しいのは問題だな。特に高Lv帯のボスは面倒なやつばかりだ。バフを盛って殴るだけの脳筋一辺倒じゃあ、そのうち限界が来るだろうな。ここいらで本格的なデバッファーやヒーラーが欲しいところだが……」
プロフィールからフレンド一覧を開く。
バルドレイヤではかなり多くの冒険者とフレンドになった。前衛職から後衛職まで千差万別。ギルドに勧誘するのもありかもしれない。
「わ、われだって一応デバフはできるのだぞ。だからその……」
フィイが俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「もちろんそれは分かってるよ。だけどフィイのジョブはデバフ特化にはできないだろ? 批判じゃなくてさ、やっぱり専門職は必要かなって思っただけだよ」
「デバフ特化というと……どのようなジョブが好ましいだろうか。バフ同様にデバフの種類も様々、毒や麻痺を付与したり防御力を低下させるスキルもあるのだ」
「一概にどれがいいとは言えない。悩みどころだな」
バインドなどの行動妨害スキルは雑魚モンスターが相手の場合に有用だ。相手を強制的に拘束するがために、対人戦でもかなり強い。しかしボスモンスターが相手では話が違う。
全てのボスモンスターはバインドなどの行動妨害スキルを受け付けない。よってボス戦を重視するなら被ダメージUPや防御力低下などのデバフが望ましいだろう。
ボスを早く倒せるということはそれだけIDの周回速度も上がる。問題はデバッファーなんていうマゾ職をやっている人があんまりいないということだろう。もし見かけたら声を掛けていかないと。
「エレンとコトハで前衛を、ペルは後衛からダメージを出しているな。今のところ問題はなさそうだけどペースがいいとは言えない」
HP1000万のボスは、周囲を凍結したり地割れを引き起こしたり雷を落としたりと、数々のスキルを連発している。そのせいで削りはかなり遅めだ。皆は回避を徹底している。このままだと数時間コースだろう。
そう言えば……バルドレイヤであのポーションを作っていたな。どうせ一部のフィールドでしか使えないアイテムだしここで使っておこう。