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「装備やLvでマウントを取り合うなんて、随分と無意味なことをするのね。そんなのお互いにつかれるだけじゃないの」
コトハがハアと嘆息した。
「きっと冒険者の性なんだろう。結局はみんな〝俺が凄い〟って言いたいだけなのさ」
「でもLvはともかくとして装備やレアアイテムなんて完全に運じゃない。運で出たアイテムを見せびらかしていったい何になるのかしら」
「実際にそういう自慢をやってみれば分かる。これが意外と気持ちいいんだ。――あ、でもコトハは目を疑うレベルで運がないから自力でレアアイテムを出すことは隕石が頭に落ちてくるレベルであり得な――」
シャキンと嫌な音が鳴る。
満面の笑みのまま、コトハがフェンリル二刀を取り出していた。
なるほど、どうやらご立腹らしい。
「……くもないですね。姫は豪運の持ち主でございます」
「あら無理しなくてもいいのよ。気が変わったんだけど今からPKエリアに向かわない?」
「いえいえ、まさかまさか」
彼女は意味深な笑みを浮かべているが、にじみだす殺気を隠せていない。
……今日から夜道には気を付けよう。後ろからグサっといかれるかもしれない。
「しかしほんとうにお強いですね。エオタートのグリフォン、ジャバウォック、ミノタウロスたちをこうも易々と退けてしまうとは。やはりあなたたちに頼んで正解でした」
マイアが絶賛奮闘中の俺たちを見て言った。
戦っていると言っても、俺は弓矢や流れ星を落としたり、コトハが軽く二刀を振り払っているだけだ。モンスターたちとLv差もありいまさら苦戦するような相手じゃない。
「Lv差があるからな。装備やエンチャントもそれなりに努力してきた」
「でしたらこの先も大丈夫そうですね! どうにも稀なモンスターがいるみたいですが、アルトさんたちなら倒せるはずです!」
「稀なモンスターと言うと……まさかあいつか……」
マイアの口ぶりからして、そいつは間違いなくただの雑魚モンスターとは違うのだろう。これまた一筋縄ではいかなそうだ。
「まれなモンスターってなにかな。おにいちゃんはしってる?」
「知ってはいる。今はあまり戦いたくない相手だな」
ボスモンスターの中には、一部隠しボスと呼ばれる通常時は見られないボスが存在する。隠しボスはフィールドで一定条件を満たすことで出現する。
それはたとえばMOBの討伐数だったりプレイヤーのデス数だったりと、モンスターによって様々だ。
「たぶんギミックボスが出ているんだろう。〝エオタートのベヒモス〟はLv195とそれなりに手ごわい相手だ。雑魚モンスターと違って固有スキルも持っている」
「Lv195!? ちょっと高いわね、ここのモンスターはみんな170とかなのに」
「まあ……滅多に出ないモンスターだからな。フィールドの適正Lvはあまり当てにしないほうがいい」
遥か前方に二足歩行のゾウさんが見える。腹部が丸々と肥えて立派な牙を持つあれが、隠しボスモンスターのベヒモスだ。
ちょうど俺たちの進路に阻むように佇んでいる。マイアを護衛するには、先に倒しておく他ないだろう。