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「コトハ、もう加減しなくていい! ひとまずは周りの雑魚を片付けよう!」


「ええ、もちろん!」


 大勢の一般モンスターにボスモンスターそしてヘズシルパーティーと、この場にはあまりにも敵が多すぎる。一斉に攻撃されたら泣きを見るのはこちらだろう。


「みたまえよアルトくん! マンティコアがさっそく動き出しているのだ!」


 だが怪物は俺たちにちっとも優しくない。こちらは雑魚の殲滅(せんめつ)で手いっぱいだと言うのに、もうブレスの準備を始めている。当たれば即死の大技だ。


「――躱せ!」


 ついぞ放たれた紅蓮の息吹が、体のすぐ横を通り過ぎる。轟々(ごうごう)と燃え盛る獄炎は直線状の全てを焼き払った。


 幸い俺たちのパーティーに浴びたものはいない。それでも威力のほどは、巻き添えになったモンスターたちを見れば分かる。ハーピーもカーバンクルも既に跡形も残っていない。


「業腹だが……やるしかないか」


 スキル〝等価交換〟によってステータスを筋力に全振り。代償として今回シューティングスターは使用できないだろう。雑魚を一掃するための必要犠牲だ。


「コトハは前から溶かしていってくれ、俺は後ろのMOBを叩きのめす!」


「分かりやすい作戦ね。そういうの嫌いじゃないわ!」


 前へと一歩を踏み出した途端(とたん)、マンティコアが俺たちの行く手を阻む。


 やにわに空から降り注いできた多量の大岩はスキル〝ダウンプア〟。ボスモンスターによるAoE攻撃だ。


「主は(その)聖殿(せいでん)()り、(くらき)から我らを遠ざけよ――セヴィオス!」


 フィイが新たな魔法陣を形成。教会の模様が刻まれたそれは、あらゆる投擲(とうてき)攻撃を無力化する防衛スキルだ。効果時間は短いものの、時間稼ぎとしては充分。この隙にできる限りのことはさせてもらおう。


「ど、どうして180Lvのくせに三次職のスキルを……」


 俺が召喚した弓矢の大軍勢を見て、ジャニアが狼狽(うろた)える。


 フェリルノーツが後衛陣を掃討(そうとう)して、レーザーだの羽飛ばしだの厄介な遠距離攻撃が消失した。となると後は彼女の独壇場(どくだんじょう)だ。


「はあああああああぁぁ!!」


 スキル〝影裂き〟により視界内のモンスターを一閃。さらに稼いだコンボ数によって百花繚乱のコンボボーナスが上限に到達。〝破滅の影〟を(まと)ったコトハが敵勢を(ほふ)らんと疾駆(しっく)する。


「そんなの冗談ですよね、たったひとりで周囲のモンスターを全てだなんて……」


 単騎で無双する少女を目に、ヘズシルが呆然と立ちすくむ。


 あいにくと、スキルも持たない一般MOBでうちのバーサーカーは止められない。当然、被ダメージなど期待するだけ無駄だ。彼女のPSならノーダメで殲滅してみせる。


「奇麗になったな」


 セヴィオスの効果時間が切れたと同時に、雑魚モンスター退治が完了。あとは彼らとマンティコアを始末するだけだ。


「く、くそ……早くやらぬか! マンティコアよアルトパーティーを壊滅させろ!!」


 フシャスが口角泡(こうかくあわ)を飛ばした。


 彼の期待に応えるかのように、キメラが忽然(こつぜん)と動き出す。――咆哮(ほうこう)の直後、フロアがまるきり毒沼へと変貌(へんぼう)した。マンティコアが持つフィールド変質スキルだ。奴を倒すまで毒沼は解除されない。


「見ての通り一帯は猛毒の沼だ、ここは短期決戦でいこう。――回復スキルは全てコトハに回してくれ。俺は無しで構わない」


「しかしそれではアルトくんが」


「大丈夫だフィイ、言っただろ短期決戦で行くって。今回は()()を使う」


 俺の狙いを察したのだろう。フィイはそれ以上言及してこなかった。


「なら一撃で仕留められるように、わたしが削っておくわね!」


 言うが早いか、コトハが一目散に駆け抜ける。


 鋭利な爪での引き裂き、サソリの尾による毒針攻撃、獄炎ブレス――彼女はそれら全てをいとも簡単にDODGE(ドッヂ)し目にも止まらぬ連撃を繰り出していく。


 マンティコアのHPが凄まじい勢いで削れていった。


「ええい、指をくわえて眺めている場合ですか! みなさん今がチャンスですよ、この間に彼らを――」


 薙ぎ払ったデスサイズから、黒の斬撃が飛翔する。


〝ソウルハーヴェスト〟必ず対象を捉えるバインドスキルだ。これで邪魔立てを封じさせてもらう。


「俺たちを何だって?」


「馬鹿な、また三次職スキルを……」


 ヘズシルが苦虫を食い潰したような顔をする。


 バインド状態の効果時間は五秒。欲を言えばお喋りする時間がほしかったが、充分だ。それだけあればマンティコアを討伐できる。


「――頃合いだな」


 猛毒によって俺のHPは残り二割。瀕死になったおかげで〝激震(げきしん)〟が発動。


 さらにリズの能力超強化型イージス〝ST-987〟が俺へと付与される。


「な、なんだこの輝きは!?」


 仕上げにアークメイジの神髄(しんずい)〝クラウン〟を発動して準備を終える。


 何重にもバフが上積みされた今、フェンリルボウが満を持して一条の弓矢を掛け放つ。――本日二度目のフェリルノーツが召喚された。


 俺にとって誤算であったことは彼らがボスモンスターを呼び起こしたこと。しかし彼にとって誤算であったことは、それをも処理しきってしまう俺たちの殲滅力だ。


 マンティコアのHPは残すところわずか三割。とは言えたったひとつのスキルで終わらせてしまうとは思いもしていないようで。


「っ!!?」


 ヘズシルたちは完全に言葉を失っていた。目を見開き、呆けた面で佇立している。


 マンティコアはもういない。


「二秒やる、(もく)して祈れ」


 今さら彼らとおしゃべりするつもりはない。俺はフェンリルソードと盾を取り出した。


「こ、このインチキ冒険者め! 調子に」


「――乗るんじゃないわよ」


 いつしか後ろを取っていたコトハがフシャスとジャニアを両断。それぞれ一振りずつでワンパンしてしまった。残りはパーティーリーダーのヘズシルだけだ。


「何を、こんなのあんまりですよ! わたしとあなたたちでは50Lvも離れているのに、ただの()()()()じゃないですか、()()()()()もいいところですよ!」


「面白いことを口にする。人を騙したあげく、MPKを狙った害悪行為はマナー違反にならないのか」


「分からないんですか!? アルトさんのしていることは異常ですよ!」


「どう異常なのか教えてくれ。俺にはお前たちの方が異質に見える」


「それは」


 ヘズシルはおもむろに短剣を取り出した。そして一切の躊躇(ちゅうちょ)なく、俺を刺し貫こうと切っ先を向ける。ここにきて不意打ちとはつくづく()(がた)い。


「なっ……」


 だけどどうせそんなことだろうと思っていた。信用していればこの局面でわざわざ()など取り出さない。――詐欺師は俺への奇襲を〝パリィ〟されて、無防備状態に陥っていた。


「待っ話を――」


 聞く必要など何処にもない。俺はフェンリルソードを振り下ろした。


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