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 辺り一面はモンスターで満たされていた。


 近接攻撃に特化したモンスターから、魔法や投擲(とうてき)攻撃を得手(えて)とするモンスターまでまちまち。


 こういう時は決まって後衛から処理していくべきなのだが、いかんせんモンスターの数が多すぎる。何しろ相手はフロア全てのモンスターだ。そう都合よくはいかない。


「確かに数はかなりのものね。だけどこの程度、レイドボスと比べたら可愛いものだわ!」


 コトハから紫色のオーラが放たれる。〝バーサーカーⅢ〟の発動だ。


(なんじ)が翼の(かげ)(もっ)て、我を眸子(ひとみ)(ごと)(まも)れ――イシュトトリア!」


「みんなこれでつよくなって!」


 フィイがAoEバフ兼デバフの魔法陣を展開し、リズがステータス上昇のドローンを俺たちへと付与する。


 迫るライカン、ゴブリン、ゴーレム、トロールら前衛MOBを処理するのは、全ジョブ屈指のDPSを叩き出す狂戦士こと〝バーサーカー〟。薄暗い地下洞にフェンリル二刀が踊り打っては煌めきを放つ。


 たとえ全方位からの急襲だろうと関係ない。只ならぬ迅速さを兼ね備えた彼女を前に、ただ駆けるだけの近接モンスターなど泡も同然に溶けていく。


 恐るべき殲滅力だ。どうやら前衛は彼女一枚だけでこと足りるらしい。だとすると俺はハーピーやカーバンクル、アイスゴブリンメイジなど後衛陣を片付けたいところだが。


「これはちょっと()()()だな。やつらをこき下ろすには……調整の必要がある」


 モンスターの群はみるみるうちに減少していく。それもそのはず、もともとリポップはそこまでのエリアだ。この調子なら十分と経たずに全滅させてしまうだろう。


「おいコトハ、このままじゃ俺たちが圧勝してしまう。今からでいい()()()()()()()


「なっ――いったいなにを言っているのよ! 手を緩めたらモンスターたちが押し寄せてきちゃうわよ! そうなったら誰かがダウンしちゃうかもしれないじゃない!」


「ああ、それでいい」


 俺の即答が信じられないのか、コトハはしばし目をぱちくりさせていた。


「アルトは……何を言っているのかしら。ここはPKエリアなのよ、もしも苦戦してる時にあいつらが横槍を入れてきたら……」


「間違いなくやられるだろうな。ダウンした俺たちは装備をドロップしておしまいだ。ヘズシルに根こそぎアイテムを持っていかれる。――()()()()()()()()()()()


 そこまで言った後、コトハからの反論は無かった。彼女は俺の意図していることを理解したようだった。


「いいな、俺たちがダウンするかしないかのギリギリの状況を作り出すんだ。そうすればあいつらがここまで降りてくる。PKエリアに持ち込めばこっちのもんだ」


「妙案ね。こんな非道な真似をしてきたんだもの、反撃しないと気が済まないわ!」


 コトハが殲滅ペースを落としたことで、形勢逆転。俺たちはモンスターの群にジリジリと追い込まれていった。立ち回れるスペースもろくになく、回避すらままならない。


 フィイとリズからヒールを受け、さらにはHPポーションをがぶ飲みすることでようやく耐えている状態だ。今の俺たちに追撃すれば簡単に倒せる。――ヘズシルたちもそう考えているんだろう。何やら仲間内で言い争いを始めた。


「おいおい、マジで下に降りるのかよ。あいつらもうちょっとで倒れそうだぜ?」


 ジャニアが意見すると、


「当然です。もうちょっとだからこそではないですか! 奴らの装備はかなり良い、フェンリル武器にミスリル防具、それにエンチャントもきちんとされているんですよ! いま仕留めなくていつ仕留めると言うのですか!?」


 ヘズシルが息を荒げて、


「だがそれにはリスクもある。挑発ポーションの効果が切れるまでそう長くはない。俺たちがモンスターの餌にされるのはごめんである」


 フシャスは拒絶の意志をみせている。


 見事に意見が割れているな。だがあいつらのパーティーリーダーはヘズシル。たとえ反対が二の状況でも、あの手の人間なら恐らく……。


「来たわね」


 コトハが絶好の機会にほくそ笑む。


 もくろみ通り、ヘズシルパーティーは安全地帯であるB1から、PKエリアのB2に降りてきた。これで後は反撃するだけ、さあ小悪党どもには観念してもらおうか――。


「なんなのだこの音は」


「おにいちゃん、あの人たちが変なことをしてるよ!」


 フィイとリズが異変を察知する。


 まさかと思い振り返るとそこには〝銀の角笛〟を鳴らしているヘズシルの姿があった。


「ねえあれは何なの!? 笛を吹いているみたいだけど」


「あれは〝銀の角笛〟ランダムな中級ボスモンスターを召喚するレアアイテムだ。モンスターのLvはマップの適正Lvに補正される」


「それじゃあまさかLv190のボスモンスターが」


 コトハが言いさした瞬間、ズンと重たい地響きが地下洞全体に鳴り渡る。


 前方には明らかに一般モンスターとは違う気色の怪物が出現していた。


 ライオンの胴体、コウモリの翼、サソリの尻尾を持ち、人間の顔をした化け物の名前は、マンティコア。本来はもっと奥の地域で生息するフィールドボスが、角笛によって招かれていた。


「おおぉ、これは大当たりですよみなさん! 高価な消費アイテムを使った甲斐(かい)がありましたね!」


 マンティコアを引き当てて、ヘズシルは喜色満面だ。


 まさか奴らが加勢してくるのではなく、ボスモンスターを呼び起こしてくるとは考えもつかない。完全なる誤算である。


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