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 俺たちはメルクス地下洞のB2で、苦戦とはいかないまでも面倒な始末に追われていた。


 人と怪鳥のハーフであるハーピーに、狼人間のライカン、額に宝石を乗せた兎カーバンクル。何十もの羽が飛んできたり、ライカンが迫ってきたり、レーザー光線が向かってきたりと息つく間がまったくない。モンスター討伐で大忙しだ。


「もう、わたしだけでいいっていってるのに」


 俺が手伝いに入ると、コトハはぷくっと頬を膨らませた。


 そうは言ってもこれだけの数だ。もしもダウンでもされたら冗談じゃ済まない。


「おにいちゃん、おねえちゃん、どっちもがんばって!」


 リズが後方からエールを送っている。


 彼女のおかげで地下洞は明るくなった。手頃な材料があったらしく周囲にLEDライトを設置。いつものことだが、彼女に関しては何でもありだな。


「まったく、ヘズシルさんたちはいったいどこに忘れ物をしたんだか。進んでも進んでも、アイテムや装備なんて落ちていない――」


 俺が愚痴(ぐち)をこぼした時のことだった。


「っ!?」


 頭上から()()が落下してきた。何かはパリンと砕け、軽快な音を地下洞に響かせる。


 足元を見ると――割れた小瓶がひとつ。中身は赤色の液体〝挑発のポーション〟のようだ。これはまさか……。


「欲に目がくらむのは冒険者の(さが)だな。レアアイテム欲しさに馬鹿を見るってのは、どいつも一緒らしい。なああんたもその口だろ?」


「お前は……」


 崖上から鳴り渡る声の主は、俺たちに依頼をしたうちの一人ジャニア。彼だけじゃない、上にはヘズシルさんの姿も見える。


 彼ら三人はどうしてここにいるのか、どうして俺たちに向かってモンスターを誘うポーションを投げ入れたのか。


 さすがに感の鈍い俺でも分かる。つまるところ――俺たちは彼らのパーティーにハメられたということか。狙いはM()P()K()だ。


「まんまと引っかかってくれましたねアルトさん。わたしたちのような低レベル冒険者が、こんなところまで来るわけないじゃないですか。疑いもせずに受け入れてくれるなんて、()()()()()()お人好しを過ぎたおバカさんですね」


 ヘズシルが満面の笑みで言った。


「モンスタープレイヤーキル。わざとモンスターを他冒険者にぶつけてダウンさせる害悪行為。それによってドロップした装備をふんだくると。それがお前たちの真の目的だな」


 俺の言葉を気にも留めず、ヘズシルはいやらしい笑みを崩さない。


 彼のパーティーメンバーであるジャニアとフシャスもまた、にんまりと俺たちを見下ろしている。こいつら全員クズの集まりだな。


「地下洞のB2は最大でモンスターLv190。いくらあなたたちでも束となった怪物を相手にするのは難しいでしょう。――さあやってしまいなさいモンスターたち! アルトパーティーを一網打尽(いちもうだじん)にし、わたしに! わたしたちに! 装備を、レア装備を!!」


 ヘズシルの大声に合わせて、フロア全体からとんでもないモンスターの波が押し寄せる。〝挑発のポーション〟による効果だ。


 液体が俺たちに付着している以上、しばらくはこの地獄が続くだろう。何とかして乗り切るしかない。


「……」


 しかし俺が鼓舞(こぶ)するまでもなく、彼女たちは既に武器を構えていた。(みな)一心に頭上のヘズシルたちをねめつけている。相当にご立腹の様子だ。


「ひとついいことを教えてやろうヘズシル。俺のパーティーメンバーは怒らせると怖いぞ」


 未だ余裕の笑みを浮かべている俺が気に入らないのか、男は面貌(めんぼう)(いか)めしさを増した。


「ほざけ――ほざけほざけぇ!! あなたたちもここで力尽きる運命なのです! さっさとおっ()んで装備を、アイテムを根こそぎ落としなさい!!」


 ヘズシルの怒号を皮切りに、ライカンが一目散に駆け抜ける。


 空を飛び回るハーピーは風切る鋭羽を飛ばし、カーバンクルが額の宝石からレーザー光線を掛け放つ。


 アイスゴブリン、ジャイアントトロール、ルビーゴーレム……やつらの後続にはあらゆるモンスターたちがまだまだ見える。もうお喋りしている余裕は無い。


 両者の憤怒(ふんど)が渦巻く地下洞で、耐久戦の火蓋が切られた。


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