177(メルクス地下洞)
「――結局ヘズシルさんたちのアイテム類はどこにもないな。となるといよいよ奥へと進むしかない。鉱山になかった以上、おそらく地下洞に置いてきてるはず」
俺たちはエルア鉱山の最奥へと到達。あとは鉱山を出るか、地下に行くかの二択だ。未だに探し物が見つかっていない以上、下に進むしかない。
メルクス地下洞はB1とB2が存在し、より深いフロアに高Lvのモンスターが生息している。モンスターの最高Lvは190。油断していると痛い目を見ることは間違いない。
長いトンネルを降っていくと地下洞に到着。閉鎖的な空間から一転、見晴らしのよい場所へと躍り出た。
地下だと言うのに、天上には空があり月や星々が広がっている。幻想的な空間だ。
「このフロアに忘れ物がないか探してみよう。もし無かった場合はもっと下のエリアに進んでいくことになると思う」
「地下洞は全部でいくつのフロアがあるのだ?」
フィイが言った。
「三つかな。こことB1、B2があるんだけど下にいくほど強いモンスターが生息している。だからできるだけ上の方で見つかるといいんだけど」
「にしてもおかしな話よね。あの人たちのLvは130だったのに、どうしてここまでこれたのかしら。とてもじゃないけど、採掘なんてできる余裕は無いはずよ」
コトハが鋭い指摘を挙げた。
「たぶんこれのおかげじゃないかな。辺りにそれらしいアイテムが転がっている」
足元からひとつの小瓶を拾い上げる。わずかに赤色の液体が滴っているそれは、特殊ポーションの一種〝挑発のポーション〟一時的にモンスターのヘイトを集中させる消費アイテムだ。
「これを撒いた場所に周囲のモンスターを引き付けることができる。効果範囲や効果時間はスキルの〝挑発〟ほどじゃないけど、戦闘を避けるにはもってこいのアイテムだ。けっこう散らばってるみたいだし、アイテムを使って採掘していたんだろう」
「随分と危険な真似をするのだ……それで結果アイテムを全ロストではシャレにならない。採算が合わないどころの話ではないのだ……」
フィイが呆れ気味に息を漏らす。
だからこそ彼らは絶望していたんだろう。最悪の場合は冒険者業を辞めることになるかもしれない。そう考えるとレアアイテムの五割贈呈という条件も……変ではないのか?
「――隅から隅まで見てみたけど、どこにもそれらしい物はない。となるといよいよ下に降りなきゃいけないわけだが、あまり気乗りしないな」
「どうして? モンスターさんのLvがたかいから?」
リズが後ろからひょこっと顔を出した。いつの間にか俺の背中は彼女の特等席になってしまったらしい。
「まあそうかな。もしも俺たちがダウンしたらみんなの装備が地下の奥底に眠ることになる。ミイラ取りがミイラになったら笑えない」
「アルトにしてはやけに弱気じゃない。雑魚モンスターなんてわたしたちの敵じゃないでしょ。今まで散々、格上狩りしてきたのに今さらじゃない」
コトハがふんすと鼻を鳴らす。
彼女の言う通りではあるのだが……鉱山に出発した時から妙な引っかかりがある。これがフラグの類でなければいいんだけど……。
「確かに俺たちなら問題ないだろう。だけど絶対に油断はしないでくれ。何か――良くないことが起こる気がするんだ」
俺の意見にみんなは首を縦に振る。
「分かったわ」
「うむ、慢心は身を滅ぼすのだ」
「みんなはぜったいにリズが守るもん!」
はたして俺の不安は的中するのか否か。俺たちは梯子から、メルクス地下洞のB1へと降り立った。