176(エルア鉱山)
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鉱山の中はとりわけ視界が悪く、松明無しでは何も見えない有様だった。ご丁寧に明かりでも設置してくれればよいのだが、そう甘くはない。
松明を持ったままでは片手が塞がれる。この状態で戦うのがなにより難しい。モンスターに襲われたら否応なく苦戦を強いられることだろう。俺がソロパーティーならの話だが。
「なになに、ここけっこう湧きがいいじゃない。ヘズシルたちが逃げ帰ってきたわけね」
俺の代わりに、コトハがバッサバッサと迫るモンスターたちを切り伏せる。
シルバーウルフ、コボルドアーチャー、グリーンリザードマン、ブルーウェンディゴなどなど。どれもが俺たちよりも低Lvのモンスターだ。束になってかかってきても、うちのバーサーカーが相手では話にならない。
俺たちのLvは180。地下洞に踏み入るまではつつがなく進行できるだろう。
「どうせだしここでも採掘していかない? 何かお宝が眠っているかも」
「やめておけ、ここより結晶の海岸の方がいいものが出るぞ。あともう時間的に遅いんだからさっさと終わらせないと。ペルが心配する」
「それもそうね。――だけどもう随分進んだ気がするのだけど、装備やアイテムなんて全然見つからないわ。まったくどこで失くしたのかしらね」
悪態をつきながら、コトハはモンスターに埋もれた道を切り拓いていく。
あまりにも順調だったからつい忘れてしまっていたことがひとつ。鉱山にはアレがあるのだった。気が付いた頃には時すでに遅く――。
「あぐっ!!?」
コトハは天井から落下してきた鉄球に押し潰されてしまった。
ダンジョンでおなじみのトラップである。
「……床のスイッチを踏むと鉄球が落ちてくるぞ」
「遅いわよ! もう潰されちゃった後じゃない!」
「あ、ちなみにそこを進むと地面から針がニョキっと」
「だから遅――い、いや――いやああああああああああぁぁぁ!!!!」
女の子とは思えない叫び声を上げながら、コトハが串刺しになるまいと必死にステップを刻んでいる。
等身大はあろうかという針は一定間隔ごとに床から伸びては縮んでを繰り返している。直撃すれば大ダメージ間違いなし。やわな冒険者では一発でダウンもありえる。
「こんなのあんまりじゃない、ねえ先頭を代わってよアルト!」
針の山を過ぎたあたりで、コトハに涙目でせがまれた。
「本官は松明係ゆえ、先頭を務めることは厳しいのであります。モンスターたちに襲われたら対処ができませぬ」
「……」
後で覚えておきなさい。コトハのきつい視線からはそのような言葉が聞こえてきた。
「ね、ねえフィイ? ほらこんなに楽しい仕掛けがいっぱいあるのよ。前に立ちたいって思わない? 後衛職でもたまには前に出てもいいと思うの」
「それは……われにどのような利点があるのだ?」
「今なら初回限定無料のトライアルキャンペーン実施中よ、さらには特典で高級ポーションとクラーケン素材も付いてきてかなりお得! このキャンペーンに入ってからお肌の調子が良くなった、宝くじに当たった、彼氏ができたといい評判が絶えず――」
お前はいったいどこの回し者なんだ。怪しいツボの販売員でもまだマシな売り文句を付けるだろう。うさんくさいにもほどがある。
「……」
フィイは何も言わず、すーっと後方へと戻っていった。コトハの敗北である。
「ほら、リ、リズは? おねえちゃんの言うことなら信用できるわよね」
「うん、でもおねえちゃんが後ろに行くなんておねえちゃんらしくないんだよ? リズはおねえちゃんがモンスターを倒すところ見ていたいもん!」
「そ、そうね……分かったわ……ううぅ……うぐぐぐぐ……」
結局、コトハの策はどれも失敗。
誰もトラップだらけのエリアを先陣を切って進もうとはせず。
「ああもうなんで……なんでこんなことになるのよー!!」
コトハはそれからも暫しの間、業火に焼かれたり、毒溜まりを歩いたり、弓矢に貫かれたりと、それはもう散々な有様だった。