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「あの、どうかしたんですか」
声を掛けるとレンジャージョブの男、ヘズシルが振り向いた。
「えっとどなたでしょう? 見たところ同じ冒険者のようですが」
「俺はアルト。クエスト消化のためにほとりまでやってきたんだけど、深刻そうな顔をしてたから、何か問題でもあったんじゃないかと思って」
「つまり相談に乗っていただけるのですか!?」
「ええまあ、俺たちにできることなら」
そう答えた途端、ヘズシルパーティー面々が晴れやかな笑みを浮かべた。
「おぉ、何ともそれは心強い! わたしたちよりもずっとLvが高いようですし、是非ともお願いしたいです!」
「でそのお願いというのは?」
「恥ずかしい話なのですが……」
切り出しにくそうに咳払いをしてから彼は続ける。
「高価な装備やアイテムをこの先の〝エルア鉱山〟に置いてきてしまったのです。何しろ凶暴なモンスターが多数いて、踏み入ったはいいものの逃げ切るだけで精いっぱい。気が付いたら採集した鉱石も装備も失っていました。どうにかして取り戻したいのですが……」
そこまで言うと、ヘズシルたちは深く嘆息した。
お宝を探しに行ってアイテムロストとは、冒険者らしいと言えばらしいが、これ以上なく不甲斐ない話である。パーティー全員で落ち込んでいるのも納得だ。
「エルア鉱山の適正Lvは151から160、ヘズシルさんたちはまだLv130のようですが、どうしてそんな場所に?」
「――チッ」
単に興味本位で聞いたつもりが、ヘズシルの仲間、ジャニアに舌打ちされてしまった。彼は俺の問い掛けが皮肉だと感じたらしい。
「これは失礼、つい仲間が無礼を」
すかさずヘズシルが頭を下げた。
「いやこちらこそ。深い意味はなかったんだけど、気に障ったのなら謝るよ。悪い」
「滅相もございません。……鉱山にはクエストで用があってやむなく」
「クエストで?」
ヘズシルがこくりと頷く。
彼の話はどうにも奇妙に思える。鉱石採集だとしても、適正Lvから30も離れたクエストを受けようとするだろうか。金に目がくらんだのかもしれないが……そもそも適正Lvから大きく離れていると、クエストの受諾ができないはず。
この話、何か変だな。
「要件は分かったよ。アイテムはエルア鉱山のどの辺にあるんだ」
「だいぶ奥の方です。もしかすると〝メルクス地下洞〟まで踏み入っていたかもしれません。何せ緊急事態でしたから、あまりハッキリとは覚えていなくて……。
もちろんタダでとは言いません。もし取り戻していただけたら、お礼としてレアアイテムの五割を差し上げます! ですから、どうか話を呑んではくれませんか」
レアアイテムを五割とは、これまた大盤振る舞いである。
地下洞に生息しているモンスターは、最大でLv190。探索にはかなりのリスクを負うことになるが……それなら悪くない条件だ。喜んで引き受けよう。
「とってもいい話ね! これに乗らない手はないわ!」
「うむ、われもそう思うのだ」
「よくわかんないけど、探索ならさんせいだよ!」
俺がイエスを出す前に、彼女たちが活気よく答えた。
おいしい報酬を前にみんなやる気満々である。
「決定だな。必ず取り返してみせるからヘズシルさんたちは待っていてくれ!」
「いいんですか!?」
「もちろん。みんなで今から行ってくるよ」
「本当に……本当にありがとうございます! どうかご無事で!」
ヘズシルの声援を背に、俺たちは鉱山へと歩みだした。
ちょっと話がうますぎるような気もするけど、鉱山にも地下洞にもボスはいないし大丈夫だろう。俺たちが危機に陥るようなことはないはずだ。
また新しいイベントに突入します