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「あいつは……放っておいてもよさそうだな」


 それぞれがゆっくりとピッケルを振り下ろす中、コトハだけは異常な速度で採掘している。さすがは脳筋ファイター、重労働も苦じゃないらしい。


「見たまえよアルトくん、こんなものが()れたのだ。どれも名前に色がついているが、レアアイテムなのだろうか」


 フィイが開始五分で成果を出した。


 ルビー、ミスリル、オパール、アメジスト――全てドロップ率5%以下のレアアイテムたちだ。さすがは豪運(ごううん)の持ち主だという他ない。


「すごいなフィイ、結果は見ての通りだ。後々つかうことになるだろうから取っておいてもいいし、オークションで売ってもいい。最低でもひとつで10mは超えるだろう」


「ならこれらはアルトくんにゆずるのだ。持っていてもきっとわれでは腐らせてしまう」


「いいのか? どれも重宝(ちょうほう)する素材だぞ」


「気にしないでくれたまえよ。日頃のお礼も兼ねている。だからその……遠慮せずに受け取って欲しいのだ。それとも必要なかっただろうか」


 フィイの眉根(まゆね)が悲し気に垂れ下がる。


「いや有難く頂戴するよ。ありがとうなフィイ」


「う、うむ……またいつでも頼ってくれたまえ。これくらいのことならいつでも……」


 礼を伝えた途端、彼女の頬が(ほころ)んだ。嬉し気に俺の手を取っている。


「おにいちゃんおにいちゃん! リズもたくさんとってきたよ!」


 とここでリズが腕に山盛りの鉱石を抱えてやってきた。ラック的な問題なのか、フィイほどのレアアイテムは無い。しかし中にはちらほらとミスリルやルビーも見える。


 華奢(きゃしゃ)な彼女がどうやって短い間にここまでの採掘ができたのだろう。答えは目前に転がっていた。


「リズ、それは?」


「えへへ、もっとたくさんとれるように作ってみたの。リズお手製の採鉱(さいこう)ドリルだよ!」


 リズが誇らしげに電動機械を回転させる。『ウィイイィィン』とけたたましい音が鳴った。これだけの馬力があれば一秒足らずで砕けるだろう。彼女らしいやり方だ。


「――アルトアルト! ほら見て大量の鉱石が採れたわよ!」


 少し間を置いて、今度はコトハが成果を見せつけてきた。彼女の採掘は人力(じんりき)であるはずなのに、どうしてリズと鉱石の数が同等なのだろう。やっぱりコトハは人間じゃないかもしれない。


「ふふん、わたしのドロップアイテムはどうかしら。これだけ多ければその分レアアイテムも多いわよね。またひとつ実績を作っちゃったわ」


 自信満々に言うコトハは、はたしてツッコミ待ちなのか否か。彼女が手に抱えている鉱石のネームは全てが灰色で……レアアイテムはひとつとして見当たらない。


「鉄鉱石、玄武岩(げんぶがん)石英(せきえい)、銅、スピネル、どれもひとつ100ルクスがせいぜいのありふれた素材だな」


「そ、そんなわけないじゃない、これだけの数があるのよ! ひとつやふたつくらいお宝があってもおかしくないのに!」


「悲しい限りだが現実を受け入れろ。むしろこれで分かったんじゃないか、どうあがいてもコトハのラックが上がることは未来永劫存在しないしやるだけ無駄――」


 言い差した突如、バキッと鈍い粉砕音が鳴る。


 コトハが片手で鉄鉱石を握りつぶしていた。


「なにかいった?」


「いえなんでもございません姫」


 笑顔満面なのがいっそうおぞましくて、思わず即答してしまった。異を唱えようものなら海岸に埋められそうな気迫である。


 さすがに暴言が過ぎたかもしれない。以後気を付けよう。


「――ククク、随分と楽しそうにやっておるではないか皆の衆。我もまた宵闇(よいやみ)(うたげ)に馳せ参じようぞ」


 颯爽(さっそう)と海岸に現れたのは厨二少女のペルケドラ。瞬間移動してきたところを見るに、ギルドハウスからポータルで飛んできたようだ。


「そっちの用事は終わったのか?」


「左様。今日のクエスト――ではなく深淵(しんえん)への試練もつつがなく完了した。ゆえに闇の支配者たる我が(たわむ)れに来たということだ」


「そうか。いまみんなで採掘してたところなんだけどペルもどうかな」


「あううぅ……たまには話をあわせてほしいのだ……」


 厨二フレーズを無視していると、彼女にぎゅっと(そで)を掴まれる。そんな頼みをされても俺は厨二病を(わずら)っていないのだが……。


「実はつい先日、採掘をやったばかりなのだ。できれば他の何かが望ましい」


「他の何かとなると……アレしかなさそうだな」


 海岸の奥には大きな魔法陣が設置されている。インスタンスダンジョン――バステウス浜辺へと入るためのポータルだ。


「もしよかったらペルも交えてID攻略したいと思うんだけど、どうかな」


「それは――とても面白そうなのだ!」


 ペルが晴れやかな顔で言った。


「ようやくギルドメンバーたちに我の神髄(しんずい)を見せつけられるというもの。是非ともそうしようではないか」


「だったら話が早い。この後IDに行くんだけどみんなも異論はないか?」


 コトハ、フィイ、リズが口々に肯定する。決まりだな。


「それじゃあ行こう――新しいインスタンスダンジョン、バステウス浜辺へ」


 楽しかった採掘イベントもこれにて終了。俺たちは魔法陣の元へと歩き出した。


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