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 ひと悶着あったものの、集合は予定通りに行われた。採集クエストを始めてから三十分、フレースヴェルグを倒した場所にて俺、コトハ、フィイ、リズが集まった。


 皆が皆、得意げに鼻を鳴らしたり胸を張ったりしていて、自信のほどがうかがえる。初めてのおつかいクエストで難航(なんこう)するかと思ったけど、うまく採集できたらしい。


「――ふふん、ついに結果発表の時が来たわね。わたしの成果を見せてあげるわ!」


 開口一番、コトハが収集アイテムをずらりと地面に並べる。……並べる?


「見て見て、こんなにもたくさんのアイテムが取れたの。さすがは森ね、探すまでもなく至るところから集められたわ。まさに資源の宝庫って感じよね」


 枝木(えだぎ)蜘蛛(くも)の糸、大蛇(だいじゃ)の抜け殻、フレースヴェルグの尾羽(おばね)……よく見るとクエストにまったく関係ないアイテムがいくつもあった。


 彼女は採集クエストを何だと思っているのだろう。これはゴミ拾いのボランティアじゃないんだが。


「おいコトハ。お前は最近いい感じに活躍していたのにたまに見せるその無能っぷりはなんだ。時折(ときおり)へっぽこになるデバフにでもかかっているのか?」


「なによ酷い物言いね。そう不安がらなくてもちゃんとお目当てのアイテムは取ってあるわ。――ほらこの通り、黒リンゴがたくさんよ!」


 コトハが新たに取り出したフルーツは、確かにリンゴっぽい見た目をしている。ここでは色合いが黒しかないため見間違えたとしても仕方ない。だが……。


「コトハ、これはリンゴじゃない。黒()()だ」


「……え?」


 コトハは沈黙した。笑顔のまま固まっている。


「だからこれは黒ナシだ。見た目は確かにリンゴそっくりだけど、まったくの別物。まあ何というか……運が無かったな。今回ばかりは同情する」


 どうしてアイテムテキストを読まなかったのか。未だに笑顔のまま硬直している彼女が不憫(ふびん)すぎて、そんな野暮(やぼ)なことは聞けなかった。


「じゃ、じゃあこれは!? 他にもそれっぽいものはあるわよ!」


 コトハが新たなフルーツを取り出す。とてもリンゴに似たそれは、だがほんの少しだけ縦に細長い見た目をしている。――またしても黒リンゴではない。


「……グラナディラだな。パッションフルーツの仲間らしい」


「どうしてこれも違うのよ! で、でもまだ他に!」


「それはジャボチカバだな。見た目が丸すぎるし明らかにリンゴじゃない」


「え、えっと……じゃあこれとかは……どうでしょうか……」


「リュウガンですね。特徴は小さくて丸く、表面に斑点(はんてん)模様があります」


「ううぅ……うううううううううぅぅ!!」


 どれもこれもリンゴじゃないと分かったコトハは、それはもう酷い顔をしていた。いつ泣き出してもおかしくない。


「おにいちゃん、リズのはどうかな?」


 彼女がダメだったことで選手交代、今度はリズがアイテムを広げる。


「リズよ……リンゴってどんなのか知ってるか」


「うん! えっとね赤くて丸いやつ!」


「この森には黒色しか存在しないが、そこはどう判断した?」


「うーんと、とにかく丸いの!」


「そうか……」


 リズが満面の笑みで手に抱えているそれは、丸々と肥えたパイナップル。おかしいな、俺は果物クイズしに来たわけじゃないんだが。


「あれ、違ったかな?」


 よっぽど微妙な顔をしていたんだろう。リズが俺の顔を見て察した。


「これはそもそも丸いと言えるのか。確かに楕円形(だえんけい)と言えなくもないが……」


「そっかきれいな円形じゃないとダメなんだね! おにいちゃん少しだけまってて、定点からの距離が等しい各点に沿った曲線を描くから! そのあと曲線になぞってトリミングするときっときれいな円が――」


「リズ、それは丸であってリンゴではない」


「あれ、そうなの? でもおにいちゃんリンゴってまるいんだよね」


「AイコールBが仮定されているからといってBイコールAになるわけでは……って何の話をしているんだ俺たちは。ええい、とにかくそれはリンゴではなぁい!!」


 非常に面倒な長話になりそうだったので、パイナップルを投げ捨てて中断。


「せっかく拾ってきたのに……リズのリンゴさん……」


 彼女はしょんぼりと肩を落とした。


 すまないリズ、強く生きてくれ。


「ふふ、われはそんなことだろうと思っていたのだ。みんなの探索(たんさく)スキルを疑っていたわけではないが、まあ安心したまえよ。本物の黒リンゴとやらをお披露目(ひろめ)するのだ!」


 フィイがインベントリからアイテムを取り出す。


 盛大な前振りかと思いきや、彼女だけはしっかりしていた。


「おおぉ……一、二、三、四……全部で五つか。凄いなフィイひとりで半分も集めてたなんて。俺の分と合わせると合計で八。あと少しで達成だな」


「任せてくれたまえよアルトくん。われはしっかりとアイテムテキストに目を通していたのだ。真偽のほどはそれで容易に確かめられる」


 フィイが声高に言うと、後ろの二人が悔しそうに歯嚙みする。だけどこれじゃあ勝負はついたな。コトハとリズに逆転の目はない。


「フィイの持ってる果物がリンゴってやつなんだね。わかった、こんどは間違えないもん」


「今度はって、もう同じクエストをやる機会は無いと思うぞ」


「ううん、そうじゃなくていまからやり直すの。だってベスクさんは十個あつめてるっていってたもん。だからあと二つは必要だよね」


「だがさすがにそろそろ戻らないと、雇い主のエイザさんに迷惑がかかると思う。ここは一旦引き返そう」


「えっとね、じゃあちょっとだけ待ってて! すぐにおわらせるから!」


 リズはいったい何をするつもりなのか。問いかける前に彼女はその答えを見せる。


「できた! みんなおねがい、黒いリンゴさんを探してきて!」


 アーム付きの自立飛行型ドローンたちに、リズが指示を飛ばす。


 カタクラフトジョブはだてに工作上手と呼ばれていない。実物が分かったことでドローンに具体的な判別機能を搭載(とうさい)できたのだろう。


 ロボに物集めをさせるなんて実に効率的だ。それにしても、


「えへへ、どうかなおにいちゃん。いっぱいとってきたよ!」


 一分足らずで黒リンゴを十個()き集めてきた光景を見ると、凄いという言葉よりも言いようのない虚無感を覚える。


 ……俺たちのしてきた三十分は何だったのだろう。コトハとフィイもまた途轍(とてつ)もなく微妙な顔をしていた。


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