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「ねえおにいちゃん、あのベスクって人を助けてあげないの? もうあんまりHPがなさそうだよ」
孤軍奮闘する彼を見てリズが言った。
「そうしてあげたいけど、助けていいかどうかを聞かなきゃいけない。もし彼がエリートモンスターをソロで倒したいのなら横槍は禁物だ。経験値やレアアイテムを独り占めしたいかもしれないし」
「でも狩場にはそんなルールはないんでしょ? そんなの横暴な独占行為じゃない」
すかさずコトハが口を挟む。
「当然ないけど昨日の一件を振り返れば分かることさ。冒険者によって様々な考えがある。事前にトラブルを回避したいのなら聞いておいて損はない」
「確かに……無理矢理文句を付けてくる冒険者は少なくないのだ。皆が皆、良心的だと思っていたら痛い目を見る。それはバルドレイヤで嫌というほど実感したのだ」
フィイが有無と頷く。かたわらのコトハもまた納得いったように首肯していた。
異論もなくなったようだし、早速ベスクに状況を聞いてみよう。
「なあそこのあんた! かなり苦戦しているみたいだけど手伝いはいるか?」
男は戦闘中ながらも、すぐに視線だけを寄こした。
「おおぉ、これはちょうどよかった! 野暮用でな、この馬鹿烏を仕留めんといけんのだが、いかんせん強すぎる。どうやら手前には荷が重すぎたようだ、加勢とあらば心強いぞ!」
ベスクは俺の意見をあっさりと承諾。
緊急事態ゆえに彼をパーティーへと招いての共同戦線となった。
「おぉ、勝手にHPが回復しておる……これはいったい……」
身に纏うハート形の小型ロボットを見てベスクが目を見張る。
「リズのスキル、ヒーリングドローンだ。そいつが付いている間は継続回復状態となる。これでしばらくは安心だろ」
「そうさな、おかげさまでようやくアレに集中できる。まったくカアカアとうるさい鳥め。食物連鎖の上下関係を分からせてくれるわ!」
ベスクの怒号に応じて、俺たちもまた武器を取り出す。コトハと彼は前線で、俺は中遠距離からダメージを出し、フィイとリズは支援に徹する形となるだろう。
冒険者が増えたことで仕切り直しとばかりに咆哮するフレースヴェルグ。ターゲットをコトハに定めて、嘴から雷属性の息吹を掛け放つ。――直線状が焦土と化した。
それでも事も無げに躱してのけるのは〝バーサーカーⅢ〟により迅速さを高めた狂戦士。大技をもらうほど彼女はビギナー冒険者ではない。
空いた隙を見てベスクが大烏の元へと駆け馳せる。
「消し炭となってしまえ――レパードクラッシュ!」
振り下ろした大斧がフレースヴェルグの満身を切り裂く。同時に、モンスターに防御力減少デバフが付与された。レパードクラッシュによる追加効果だ。
「はあああぁぁ!」
これを好機と見たコトハが反転する。ひとたび二刀を舞わせれば幾度となく怪物の体が斬り刻まれる。その斬撃は目で追うことすら難しい。
さらに空から降り注いでくる弓矢の大群がエリートモンスターのHPを掠め取る。スキル、フェリルノーツだ。
彼女たちにヘイトが向けば俺がダメージを叩き出せる。反対に俺が狙われれば、前衛二枚がフリーとなる。後方支援も手厚い、たとえエリートだろうが俺たちの敵にはならないだろう。予感は正しかった。
「これで――終わりよ!」
戦闘開始から一時間。俺たちはひとりとして犠牲者を出さずに〝突然変異フレースヴェルグ〟を討伐。膨大な経験値とレアアイテムを獲得した。そしてシステム音声が業績の解放を報せる。
〝新たな業績を獲得しました 黒森地帯の覇者〟
見事、快勝を収めた俺たちはガッツポーズで祝杯を上げた。