160
「決闘だ! 今すぐ俺たちのパーティーと決闘しやがれ!!」
タウが怒鳴り声を上げると、
「おうとも望むところだ! てめぇらみたいなみみっちい冒険者なんざこの場で叩き潰してやんよ!」
テミルもまた怒号で応じる。
予想通り彼らのいざこざはパーティー決闘に転じたようだ。
「なになに、面白そうなことになってきたじゃない!」
コトハが目をキラキラさせている。……混ざりたそうだな。
「これからパーティー同士での戦いが始まる。いい機会だし観戦しようと思うんだけどみんなはいいか?」
コトハは明るい声音で、フィイとリズは頷いて応える。
「パーティー対パーティーとは珍しいのだ。モンスターが相手でない分、より複雑な立ち回りが要求されるだろう。かなり難しい戦いとなるのではないだろうか」
フィイの推測は正しい。冒険者が多いとそれだけ戦場で飛び交うスキルの数も格段に増える。すこし気を抜いただけで速攻でダウンしてしまうだろう。
「バルドレイヤの都市戦は個人だったけど、中には団体戦をメインにしているところもある。その時のために、いま観ておくのも悪くはないかなって」
「団体戦なんて一朝一夕じゃ上達できないものね。確かにこれはいい経験だわ」
さっそく始まったパーティー同士の対決を目にコトハはすっかり見入っていた。
「おらおらぁ! てめえらみてえな腰抜けなんぞ俺がまとめて蹴散らしてやらぁ!」
まず攻めへと動いたのはテミル陣営。彼らの構成はタンク1アタッカー3となっている。バッファーもヒーラーもいないなんて、かなり攻撃的な編成だ。
パーティーリーダーかつタンク役であるテミルが正面突破を図って突撃。アーチャー系列のパーティーメンバーは後方支援に回っている。
「脳筋なんて何も怖くねえさ。やってやれお前たち、あの横殴りパーティーを懲らしめるんだ!」
対してタウ陣営は防衛一徹。タンク1アタッカー1ヒーラー1バッファー1とかなり堅実なパーティー編成だ。パーティー全体で出せるダメージは低いだろうが、アタッカーが安心して攻撃できる分、安定したパフォーマンスを発揮できるだろう。
「止まりなさい――ストップ!」
タウパーティーのクロノが行動妨害スキルを発動。すかさずテミルの動きを封じる。
これを好機と見て高原を駆けるのは、同じくパーティーリーダー兼タンク役のタウ。テミル陣営の後衛職を一掃せんと大斧を手に疾走している。
奇遇にも二人はどちらもハイラインダージョブであるようだ。
「クソ――撃てぇお前たち! あんなへなちょこタンクなんざやっちまいなぁ!」
テミルが吠えるとレンジャーたちが一斉に弓を射る。火力職三人からの猛攻撃は流石に耐えきれないと思ったのだが、
「そうはさせない、ヒール!」
タウ陣営のプリーストがきっちりタンクをサポートする。回復だけじゃない、防御力上昇バフのプロテクションも受けてタウは屈強な戦士と化していた。
「お願い当たって……アーケインボルト!」
丸裸となったテミルパーティーへと襲い掛かるのは、メイジによる強烈な魔力弾。テミルが拘束されている今、守ってくれる者は誰もいない。もともと火力職はこと耐久面においては絶望的だ。たった一発で早速ひとりがダウンした。
「さあさあ、撃てるもんなら撃ってみやがれ!!」
とどめとばかりにタウが暴れ回る。バッファーもヒーラーもいないテミルパーティーはどうしようもない。阿鼻叫喚である。
ようやくストップの効果時間が切れた頃には、勝敗はもう喫しているようなものだった。
「この分だとそのうち決着するだろう。――見て分かる通り、団体戦では個人の強さや火力よりも、連携が重要になってくるんだ。相手のタンクやアタッカーの行動を妨害したり、味方をフリーにさせる動きが強い」
「ゆうせんして倒さなきゃいけないのはどれなの? タンクとかアタッカーとかヒーラーとかバッファーとか」
傍らでリズは首を傾げていた。
「パーティーの作戦次第かな。クロノみたいに厄介な支援職がいたらそいつから狙うのもありだし、火力で押し切って前から溶かすのもあり。先にアタッカーを潰せたら理想だけど、タンクやバッファーにヒーラーがいるからなかなかそう上手くはいかない」
「団体戦ってけっこう頭を使うのね。わたしはちょっと苦手だわ」
曇った顔色のコトハは、あまり乗り気ではなさそうだ。脳筋プレイを得手としている彼女にとって複雑な読み合いは苦行なんだろう。……もしその時は俺が指示を出すしかない。
「と言っている間に決着だ。どちらが勝者かは言うまでもない」
目前には、地に伏しているパーティーと雄叫びを上げているパーティーの姿が。
パーティー構成の差によって全滅したテミルパーティーは、装備品やインベントリのアイテムを多数ドロップして、都市へと強制送還されてしまった。