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一気にいきたかったですが一万文字超えちゃったので分割します。残りはできているので明日に投下します。前話、黒雷の部分分かりづらかったので描写を修正しました。


『ここから先は、かなり厳しい戦いになる。最終形態のバフォメットは初見じゃ回避が難しいスキルばかり使ってくるんだ。しかも俺たちは奴と比べてかなり低レベル。やわなジョブじゃあ即死しかねない。だからみんなは後退してくれ。後は俺が削り切る』


 この場にいる全員へと情報を発信した時のことだった。


「――それって冗談で言ってるのよね」


 激しい剣幕(けんまく)でコトハが詰め寄る。俺の提案が(こころよ)くないと思っていることは明確だった。


「冗談じゃない、本当に危険なんだよ。他の冒険者だってそりゃあ納得はしていないだろうけど、渋々従ってくれてはいる。だからコトハも早くここから離れろ。あいつの準備が終わるまでそう時間はない」


「嫌よ、わたしも戦うわ」


「何を言って――お前は〝バーサーカー〟のデバフがあるんだぞ! 掠っただけでも間違いなく即死だ! そんなの許可できるわけがない。それともコトハは初見で第四形態のスキルを(かわ)せるとでも思ってるのか!?」


「ええ」


 答えは端的(たんてき)に、寸分の(よど)みもなく言い放たれた。


 決意の(こも)った眼差しのコトハは俺にことさら反論を挟ませる気がないようで――つと言葉を詰まらせてしまう。問い(ただ)すまでもなく彼女の覚悟は本物だった。


「都市戦でもそうでしたが、彼女は(たぐい)まれなる動体視力と身体能力を兼ね備えているようです。たとえどんなスキルが降ってこようとも、彼女なら対応できると思いますよ」


 横合いから割って入ったのは、ティファレトのエレン。


「それともアルトさんは、彼女がこの場に立つ資格のない者だと判じているのですか」


 彼の質問は、問い自体が無益とすら思える卑怯(ひきょう)な内容だった。


「いいや、いまのコトハならそれくらいは成し遂げてしまうかもしれない。確かにこいつのセンスは一流だ」


「だったら話は早いのではないですか」


「そうじゃない。できるできないの話じゃないんだよ。たとえできたとしてもたったひとつのミスで死んでしまう――そんな戦場に俺は仲間を置いておきたくない。分かるだろエレン、俺は誰も死なせたくないんだよ」


「分かるわ。だからわたしも戦うのよ」


 今度はコトハが会話に割り込む。


「アルトがすごいのはみんな知ってる。きっとレイドボスのスキルも全部知ってるのよね。でも――だからと言ってあなたが死なない証拠はどこにあるの? ほんの少しミスしただけで死んじゃうのはアルトだって一緒じゃない。だからわたしも戦うの。ひとりより二人で戦った方が早く倒せるでしょ。死ぬ確率もぐっと下がるはずよ」


 それは何も言い返す言葉が見つからないくらい、とても綺麗な正論だった。


 仲間を死なせたくないという想いは、俺だけが抱いているモノではなかった。仮にこの場に俺がもう一人いたらどんな不毛な言い合いになるのか、想像は(かた)くない。


 そう分かった上で、それでも引いてくれというのは、単なるわがままの域を出ない。彼女の決意をも()(にじ)ってしまうことになるだろう。


 もはや肯定(こうてい)以外に()る選択は無かった。


「――そして二人より三人の方が早く済ませられることも明確です」


 エレンは一歩前に出ながら言った。


「さらに言えば四人が適確であることも違いない。万が一があっても骨は拾ってやるから安心しろ」


 続けざまにパーシヴァルが肩を並べる。


 いまさら彼女たちに無駄口を叩く気も起こらず――俺はインベントリからフェンリルボウを取り出した。


 四人が見据えた先は前方。頃合いよく、バフォメットは形態変換を完了させていた。


 もう奴にこれ以上の変身は残されていない。文字通り最後の戦いだ。


「それじゃあ絶対に死ぬんじゃないぞ! 必ず生きて戻ってくるんだ!」


 俺の掛け声に三人の英雄が呼応(こおう)する。そんな希望を吹き飛ばすかのようにバフォメットが(きし)んだ怒号を上げて憤激(ふんげき)する。


 レイドボスが第四形態に突入したことでフィードには更にギミックが追加された。


 ランダムに降り注いでくる黒雷と、地表からプレイヤーを突き刺すように生えてくる氷柱は、発生前に出現箇所を点滅させる。一秒以内にその場を離れなければあの世行きだ。


 おまけに十三の竜巻どもは規則性を失い、ランダムにフィードを奔走(ほんそう)する。あまつさえ肝心のレイドボスは即死攻撃を有する始末。


 ――こんな馬鹿げたボスを考案した開発者はどこのどいつだ。現実世界に戻ったら絶対にぶっ飛ばしてやる。


「それにしてもこれほどのバフを(さず)かるとは。火力がまさにけた違いだな」


 飛翔(ひしょう)する斬撃がバフォメットに命中した折、パーシヴァルはダメージ量を見て言った。


 戦場にはたった四人で臨むため、俺たちはパーティーを再編成した。アタッカー1のバッファー7。通常ではまずあり得ない構成だ。


「まさかもう勝った気でいるわけじゃないですよね」


 俺の軽口にパーシヴァルが失笑する。


「怒りと(おご)りは刃を(もろ)く鈍らせる。――君こそ呑気にしている場合ではないだろう。アレは相当ご立腹のようだ。加減してくれる気はないと見える」


 彼の見立てに(たが)わず、バフォメットは満身から邪悪な気色を放っていた。体中に覗く目玉は(せわ)しなく動いている。レイドボスによるスキルの合図だ。


「早速のようですね。それでアルトさん、作戦は?」


 危機を感じ取ったエレンが問いかけてきた。


「あの馬鹿げた数の目ん玉ひとつひとつからレーザーが放たれる。だから作戦は〝とにかく避けろ〟だ」


「なるほどそれは分かりやすい」


 エレンに重ねてコトハとパーシヴァルもまた首肯(しゅこう)する。とにかく避けろ、そんな漠然(ばくぜん)とした指示に納得できるのは彼女たちだからこそ。


 目玉は規則性なんてちっともない完全ランダムな方向に光線を放つ。いくら移動速度が上昇していようが、本人の感性が優れていなけりゃ対応は不可。さらにフィールドには三つのギミックも追加されている。まさに鬼仕様だ。


「――ッ!!」


 地獄はすぐにやって来た。


 バフォメットの総身(そうみ)に張り付いた邪眼から深紅の光が放射される。レーザーは大地を()いて大気を裂く。被弾すれば世界から消えて無くなる定め。


 ならば一発たりとも被撃(ひげき)を許さず、ひたすらに目を()(くぐ)るのみ。


 体のすぐ横を致命の光線が(はし)る。天上から黒雷が降り注ぐ。地表から飛び出してきたのは牙の形をした鋭利な氷柱。


 どれひとつとして俺たちを仕留めるには至らず――忌々し気にバフォメットは雄叫びを上げる。その瞬間、フィールドには獄炎の壁が召喚された。


 奴のスキル〝ファイアウォール〟だ。プレイヤーを逃がさんと強制的にエリアを(せば)める設置型のトラップ。壁は地下から天上まで続いている。誰だろうと、奴を倒すまで逃げることはできない。


「まさに属性魔法のオンパレードだな。ここまでくると素直に感心する」


 騎士団長が(ひと)()ちる。


 灰色の空から降ってきたのは、等身大はあろうかという特大の氷塊。命中すれば凍結状態に陥る。そうなれば全てが終わりだ。


 一帯はファイアウォールによって移動可能域が制限されている。さらに氷塊は未だに降りしきる一方で、茶色い地面は既に残されていない。残すところ、回避に使えそうな場所はというと――


「急いで潜り込め!! 安置(あんち)はあそこしかない!!」


 俺が指さした先、バフォメットの足元に総員で避難する。


 間に合うか否か――最後にコトハが滑り込んだ刹那、鼓膜を突き破るような轟音が響く。


 氷塊が全て破裂したのだ。凍結からの炸裂、バフォメットによるコンボスキルだ。表に出ていれば命はない。


「この……少しは殴らせなさいよね!」


 バフォメットが空中へと飛び立つ。足元に放った業火(ごうか)の息吹は、見た目通りとんでもない当たり判定を持っている。とにかく今は駆けるしかない。


 炎の中で竜巻が舞う。空からは雷、地面からは氷、仮借(かしゃく)なく追撃してくるのはバフォメットの眼球たちによる灼熱光線。


 右へ左へと足を動かす。ただ一拍でも緩めようものなら焼かれて消えるのが必定(ひつじょう)の結末。


 バフォメットは未だに降りてこない。しびれを切らしたエレンとコトハが大地を蹴り上げて宙を馳せる。――標的の顔面に到達する。これ見よがしに振り上げたのは、二刀と拳。仕返しだとばかりに二人の猛攻撃が始まった。


 反撃に臨むのは彼とて同じこと。誇り高き騎士団長が高々と直剣を掲げ上げる。


 剣先から奔流(ほんりゅう)する光の(うず)はやおら凄烈(せいれつ)さを帯びて天にも昇る輝きを放つ。


 ただ一度振り下ろすだけで有象無象どもを打ち払う。第三次職クラウソラスが奥義。


 パーシヴァルは滑空する怪物に向けて、ついぞその名を解き明かす――。


「撃滅せよ、アロンダイト!!」


 泥のように(にご)(よど)んだ空に、希望の光が奔り抜ける。


 全職業中最高の係数を誇るアロンダイトは、重ね掛けされたバフによってかつてない威力を叩き出す。レイドボスの体力が見る見るうちに削られていく。そして、


「……」


 フィールドに第二の煌めきが忽然と生じる。その源流は俺の左目から。


 クラウン――攻撃を全て確定クリティカルにするアークメイジの秘儀だ。そして万難(ばんなん)(はい)して唱えたスキルシューティングスターが、怯んだバフォメットへと追撃する。


 蒼天(そうてん)彼方(かなた)より飛来した隕石は総計で十三。ひとつまたひとつと命中する度に満身が叩き砕かれたかのような(むご)い音が鳴り渡る。


 バフォメットが落下した。地上へと舞い戻った奴にコトハが二刀を振りかぶる。


 彼女の継続コンボ数は百を超えた。〝百花繚乱〟のインジケーターが黒色に点滅している。それはよりいっそう強烈なスキルが使用できる合図だ。


「これって……」


 いざ解放した新たなスキルにコトハは戸惑いの色を見せている。


 百花繚乱による百コンボボーナス〝破滅の影〟。ステータスおよび防御力貫通効果上昇、二刀のレンジを拡張させる超能力強化型スキルだ。コトハとフェンリル二刀には黒き瘴気(しょうき)(まと)わりついている。


「どうしたコトハ、手が止まってるぞ!」


「ううん大丈夫。とにかくこれで叩きのめせばいいってことね!」


 黒衣の戦士が斬撃を振るう。


「その意気です、あともう少し!」


 応じてエレンが縦拳を放つ。


 バフォメットのHPは15%を切った。遠方から仲間たちの歓声が沸き起こる。


 だけどまだだ、まだ気を抜いていい状況ではない。人は勝てると思い込んだ途端に、つまらないミスプレイを招くものだ。とりわけデスゲームと化した今は、最後の一瞬まで集中しなければならない。


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