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「こいつは……本物の化け物だな……」


 ローグマスターのマクティアが呟く。


 レイドボスは羊頭の額から第三の目を開かせ、背に生えた黒翼は四枚に増やし、さらに尾先から無数の蛇を生み出した。


 怒りに任せて叫び上げた咆哮(ほうこう)は、獣の怒号でも馬の(いなな)きでもない、地の底を這うかのような重く低い罅割(ひびわ)れ声。


 風貌(ふうぼう)も声音もこれまでとは違うバフォメットを前に、冒険者たちは呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。


「あれが第三形態というわけか。確かにこれまでとは違うらしいな」


 パーシヴァルが周囲を見渡す。


 固定されていた十三の竜巻たちは目まぐるしく動き出し、監視場を縦横無尽に(はし)(まわ)っている。バフォメットの第三形態から移動型になるギミックだ。厄介(やっかい)どころか目障(めざわ)りなことこの上ない。


「見ての通り、間違いのない化け物だよあいつは。――情報はできるだけ速やかに共有する。あいつのスキルは全て把握しているからな。冷静に対処していけば問題ないはず」


「それはいいが、どうしてそこまで知識に()けている? まさかそのLvでレイドボスの討伐経験があるわけではないだろう」


「色々と気になることはあるだろうさ。だけど全部終わってからだ。今はあいつをどうにかしないと」


「至極真っ当な意見だ。化け物はどうやら準備を終えたらしい。これから本当の地獄が始まるのは火を見るよりも明らかだな」


 (かまびす)しい怨嗟(えんさ)(うめ)きを漏らしたバフォメットは、赫赫(かっかく)たる双眸をもって俺たちを凝視している。


 (ほとばし)る殺意の波にも気圧(けお)されず、真っ向から睨み返すのは数多の手練れたち。


 怪物と冒険者と騎士団、皆揃って吶喊(とっかん)を上げたのは偶然か必然か。より凄烈(せいれつ)さを極めるであろうレイドボスとの戦いが始まった。


「――来るぞ!!」


 初動、バフォメットは黒翼をはためかせて上空を旋回(せんかい)。それを起点として一帯は黒雷に征服(せいふく)される。


 バフォメットのスキル〝ダークサージ〟だ。120秒間に1024もの雷を落としてくる。対象は全プレイヤー。現在地を補足して自動的に黒雷が舞い落ちてくる。


 回避方法は走るしかない。つまり一瞬でも足を止めれば消し炭となる定め。わずかたりとも気を抜くことは許されず、味方との進行方向が被れば事故に繋がる。連携が取れていなければ回避不可能な攻撃だ。


「さあもっと(はや)く――ヘイスト!」


 クロノのユミムルが移動速度上昇バフを唱え上げる。


「こんなのに当たるのろまは、私たちの中にいませんよね!」


 続けざまにシンフォニアのウルカケヒトが〝迅速な演奏〟を発動。


 バーサーカーⅢ状態のコトハと、抜きんでた武人のエレンが旋風(つむじ)すら巻き起こらんばかりの勢いで大地を駆け抜ける。


『ハアアアアアアァァ!!』


 二人は渾身(こんしん)の一蹴りによって高々と空へと舞い上がる。瞠目(どうもく)すべきは、たったそれだけで(かれ)彼女(かのじょ)滑空(かっくう)するバフォメットの元へと難なく辿り着いたこと。


 羊頭に降り立ったコトハとエレンがこれでもかというほどに猛攻を仕掛ける。


 二刀と拳が乱舞する。深々と眉間に叩き込まれた斬撃、寸勁(すんけい)踹脚(たんきゃく)、横一文字、分脚(ぶんきゃく)、影裂きなどスキルの数々――地上の仲間たちもまた空飛ぶバフォメットへと猛撃(もうげき)する。


 湯水のごとくスキルを浴びたレイドボスはこれ以上の追撃を嫌って滑空を中断。地上に舞い戻った怪物を仕留めんと馳せるのは前衛職。


 騎士団長パーシヴァルが最前線を務めながら直剣を天へと()()げる。


「レイドボスよ、ここは我らの都市だ――()く消え失せるがいい!!」


 凛子(りんこ)として()えた彼の剣先から(みなぎ)る、閃光の粒子。神々しい光は直ちに輝きを増して、灰色に満たされた監視場を灼然(しゃくぜん)と照らし出す。直後――


「……っ!!」


 いざ両腕で振り降ろされた直剣が全てを()き払わんばかりの光の海を掛け放つ。


 狙いはもちろん羊頭の怪物。図体がデカく動きも遅い奴に、回避などできる術もなく。


 大きくHPが削がれたバフォメットは、ただ(たけ)(くる)うだけの有様だった。


「ここにきてその技を使うか、小賢(こざか)しいやつめ……」


 突如として監視場に現出したのは、総勢一千にものぼる多量のスケルトンたち。


 レイドボスが持つスキルのひとつ眷属(けんぞく)召喚だ。普段ならば気にもならない雑魚モンスターだが、奴と竜巻(たつまき)を意識したまま雑魚まで相手となっては(たま)らない。この状況ではストルトンが強敵にもなり得るだろう。


「ククク……我の真似事とは(おろ)かなものよ。良かろう、ならば神髄(しんずい)()せてやる!」


 とここで(おど)り出たのはネクロマンサーの少女ペルケドラ。彼女は左目の眼帯を捨て払うと、ここぞとばかりに邪気眼ポーズを決めて口火を切る。


「貧しき者の(くるしみ)(とぼ)しき者の(なげき)()りて、愚者は熱炭(やけずみ)烈火(もえび)硫黄(ゆおう)を雨の如く悪人に注がん――なれば()が目を明らかにして、(われ)を死の(ねむり)()ねざらしめ(たま)へ!!」


 少女の詠唱が朗々(ろうろう)と鳴り渡った途端に、監視場に姿を見せたのはまたもや膨大(ぼうだい)な数のスケルトン――いやストルトンだけじゃない。ゴーレムにガーゴイルにゴーストアーマーにスカルアーマー。この種類と数はいったい。


「ククク、これがスキルポイントを使い切って習得した〝サモンⅢ〟だお兄さまよ。数も種類も不足ないであろう。――だからね、雑魚モンスターはわたしが()()うから、みんなをボスに集中させてあげて! わたし頑張るから!」


 ペルが実直な眼差しで訴える。


 はたして幼い彼女がそれだけの数の眷属(けんぞく)を操作しきれるのか。聞き返すまでもない愚問だと判じたからこそ、ただ頷いて応えた。仲間たちへと彼女の案を展開する。


 ――生霊(いきりょう)たちが衝突する。骸骨同士手に()った直剣でしのぎを削り、岩塊の魔物、石像の魔物、生身のない鎧騎士どももまた敵勢を(ほうむ)らんと戦場を疾駆する。


 監視場に(とどろ)く炸裂音は鳴りやまない。


 いったいどれだけの魔法が唱えられただろうか。どれだけの飛び道具が放たれただろうか。剣を振るい、槍で突き刺し、後衛職のみなず前線に立つ者もまた疲労が限界の域に達している。


 それでもつわものたちは何の疲れも感じさせぬ泰然(たいぜん)たる態度でひたすらに得物を振るい続ける。


 仮借(かしゃく)なく怒涛(どとう)の勢いで攻め込む冒険者たち。(われ)()けじと続くのは都市を守護する騎士団。


 再び滑空を始めたバフォメットを相手にパーシヴァルが光の斬撃を放出する。


『オオォ……ォォオオオオオオオオ!!』


 被弾と共に大きくよろめくレイドボスはやむなくして地上に叩き落とされた。


『今だ――放て!!』


 黒雷を竜巻をものともせずに長弓を射るレンジャー系列。アローレインとフェリルノーツによる弓矢の大軍勢が暴雨が如く降り(つの)る。マジシャン系列は総勢でメテオを放ち、追い打ちを掛けるのは第三次職によるシューティングスター。


 飛来した幾多(いくた)の隕石が、地殻変動(ちかくへんどう)にも似た地響きを上げながら、地盤もろともバフォメットの総身を打ち砕く。


 化け物のHPはついぞ20%を切った。皆の瞳に勝機を見いだした光が宿る。


 地にひれ伏していた怪物がやにわに起き上がったのも直ちのこと。


 バフォメットは頭蓋(ずがい)から悪魔じみた双角(そうかく)を生やし、背から更に四枚の黒翼を、そして全身にはびっしりと黒き目玉を覗かせている。(おぞ)ましい()()ちをしたレイドボスは、あれが最後の変身――第四形態だ。


 残りHPは25,000,000ほど。最終形態の奴は、初見では回避困難なスキルを連発してくる。スキルの詳細を知っているのはこの中で俺だけ。果てしない戦いとなるだろうが、単騎で挑むしかない。


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