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 全身が黒い皮膚で覆われた二本角の怪物、ダークオーガ。遠距離からの魔法攻撃に(ひい)でた、ダークエルフ。宙に舞う炎の蛇サラマンダー。さらにはジャイアントガーゴイル、ホブゴブリン、グリムリーパーなどなど。


 都市に攻め入ってきたのは、どれもLv200を超える凶悪なモンスターたち。そんな奴らが約7,000にものぼる大軍勢を(きず)いているとは冗談にしても悪すぎる。


 それでも――


「ガハハハハ、これこそがタンクの醍醐味(だいごみ)よぉ! さあ好きなだけ殴ってこい! この俺さまを殺せるもんなら殺してみやがれ!」


 ルドラを筆頭に耐久職が〝挑発〟を発動。直後に飛び交う魔法の数々。


 ダークエルフによるスキル〝サンダーボルト〟。


 サラマンダーによるスキル〝フレイムショット〟。


 果てにはホブゴブリンやダークオーガが〝挑発〟使用者を葬ろうと一目散に疾走する。


「お願い彼らを守って――プロテクション!」


 間髪(かんぱつ)入れずに防御力・魔法抵抗力上昇バフを使用したのは、プリースト陣営。


 更にはその他の支援職も彼らタンクの耐久力を底上げし、もはや100Lv台とは思えない堅牢な戦士を生み出している。


 かてて加えて、


「あなたたちは絶対に死なせない――ヒール!」


「ヒール!」


「ロアヒール!」


 回復専門のヒーラーたちによるヒールの大合唱。


 あれだけの物理・魔法攻撃を受けてもタンクたちのHPは常に高い水準を維持している。


 ヒーラー陣が冷静にスキルを回しているおかげだ。CT管理が上手く、一発も無駄撃ちをしていない。


「今だ――一斉掃射!!」


 レンジャージョブの冒険者たちが〝レインアロー〟を同時に発動。


 豪雨のように膨大な弓矢が降り注ぐ。


「我らも続け!! モンスターどもを畳み掛けろ!!」


 さらにはマジシャン系列の冒険者たちが高々と長杖を掲げる。


 マジックボルト、ファイアボール、ウィンドスラッシュ、メテオ、アイスブラスト。


 モンスターたちを打ちのめす魔力弾と火球。幾千(いくせん)もの風の刃が敵影(てきえい)を切り刻み、止めとばかりに降り注いでくるのは特大の隕石と氷柱。


 盛りに盛られたバフによって、スキルは途轍(とてつ)もない威力を生み出す。いくら格上のモンスターと言えどこれには(たま)らない。


 俺たちは完璧な連携によって、(おびただ)しい数のMOBを次々と迎撃(げいげき)していた。


「楽しそうだなアルトくんよ! とても窮地(きゅうち)に立たされた冒険者の顔つきとは思えぬ!」


 大剣を薙ぎ払いながらメルクトリが言う。


 最前線に立つ俺たちもまたモンスターの討伐中だった。


「ターゲットはタンクが持ってくれているから、殴りやすい。これだけのモンスターたちを一方的に打ちのめせるんだ。楽しくないわけ――ありません!」


 俺の左目から黄金の輝きが放たれる。バフスキル〝クラウン〟発動の合図だ。確定クリティカルの状態で打ち出されたスキルはかつてない猛威を振るう。


 空から飛来する弓矢の大軍勢と流星群。そしてデスサイズの刃先から飛翔(ひしょう)した斬撃が、モンスターたちを一蹴(いっしゅう)する。


「――ッ!?」


 隙だらけのホブゴブリンに攻撃をしていた時だった。


 気が付けば背後に見えるダークオーガの姿。どうして〝挑発〟状態のタンクをも無視して俺にターゲットを向けているのか。


 バグ、意図せぬ挙動?


 原因はまるで分からない。ただひとつ理解できることはこの状況は洒落(しゃれ)にならないということだった。


 ダークオーガ。武器もスキルも持ち得ない、拳で攻撃してくるだけの高Lvモンスター。唯一の取り柄である攻撃力は馬鹿げたくらいに高く、一撃でも受ければ即死しかねない。


 ことさら脅威ではない。そう思い込んでいたからこそ奴の不意打ちには目を疑った。


 まずい、回避がとても間に合わな――


「はああああああぁぁ!!」


 旋風(せんぷう)の如く飛来した少女がダークオーガを瞬時に切り裂く。


 その手に持った武器は二刀。ただ一瞬のうちに八度の斬撃を繰り出す彼女は超人の領域に到達している。――コトハが流し目を寄こした。


「言ったでしょ、背中は守るって。絶対にあなたを死なせはしないわ」


 彼女は淡々とした口調で宣言した。


 俺が思っていた以上に、コトハは大成していたのかもしれない。事実、こうして助けられたことを踏まえるともはや疑うことなどできはしない。俺は後ろを彼女に預けた。


「悪い、助かったよ」


「気にしないで。それよりかなり変な動きだったわ、いまのオーガは。急にターゲットを変えてくるなんて」


「やっぱりパーシヴァルが言っていた通りなのかも。俺を狙っている奴がどこかにいる。そいつがモンスターに指示を出しているのかもしれない」


「例の魔人ってやつ?」


「分からない。だけど辺りにはそれらしいモンスターは見えないし、指示を出せるということは思ったより身近にいる存在なのかも……」


 ちらりと辺りを一瞥(いちべつ)する。


 この場にいる冒険者と騎士団の総数は合わせて八百。誰かが怪しいなんて推測を立てても、犯人なんて特定できるわけがないことは瞭然(りょうぜん)だった。


「――このままならきっと勝てるぞ!」


 着々とモンスターを処理していると、誰かがそんなことを叫びだした。


 戦況は――比較的良い方だと思う。防衛ラインを引き下げることもなく、迫りくるモンスターたちを手際よく処理できている。安堵というか希望というか、冒険者や騎士団が歓喜するのも理解できた。


 このままいくと、俺たちは間違いなく勝利するだろう。


 そう思ってしまえることがどこか不気味で。


「下手な真似をしてくれるなよ、モンスターども」


 俺はただ一心に長弓を射った。


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