144(開戦)
集まった冒険者の数はちょうど五百。
その内のほとんどが都市戦に参加していた冒険者たちで、中にはバルドレイヤ在住の者たちもいる。
内訳はファイター系列160、アーチャー系列140、マジシャン系列150、オペレーター系列50。
これだけの数がいれば前衛、中衛、後衛よりどりみどりである。ヒーラーやバッファーも揃っている。咄嗟に集めたとは思えない軍勢だ。
「しかしまさかこれほどとは。とんでもない数だぞ、アレは……」
言葉を濁らせたのはランサーのウルク。
〝パーシヴァルの監視場〟に到着した俺たちは、思わず足を止めてしまった。
アレを何と形容していいものか。あえて例えるならば〝海〟だろう。
五百……一千……いやそれよりも遥かに多い。いったいどうやったらあれだけのモンスターをかき集めることができたのか。それこそチートの節を疑ってしまう。もしかして魔人はモンスターを増殖することができるのではないかと。
「標的をカウントしたところ、全体で6,698だ。それがモンスターたちの総数」
『ろ――6,698!!?』
ローグマスターのマクティアが唱え上げた馬鹿げた数に、一同は驚嘆の声を上げる。
スキル〝鷹の目〟彼の視界には敵との距離や数が正確に補足される。つまり今の報告は事実だということだ。……とっても残念なことに。
「――まさか本当に来てくれるとはな」
俺たちの到着を見て、騎士団長パーシヴァルが馬に乗って駆けてきた。
「戦況は?」
問われた彼は、首を横に振る。
「見ての通りの有様だ。騎士団の総勢は三百。対してアレらが相手では防衛することもままならない。徐々に徐々に防衛線を下げて対処しているが……このままでは都市は陥落だ」
いつになく早口のパーシヴァルには只ならぬ焦りが感じ取れた。
それもそのはず、遠方に見えるモンスターたちは少しずつ押し迫ってきているのだ。放っておけば間違いなく都市は終わる。
いち早く手を打たなければならない。
「おお、来てくれたかアルトくんよ。先のエリアチャットは有難い。よもやこれだけの冒険者を集めてくれるとは。これなら死守も夢ではないかもしれんな」
遅れて登場したのはもうひとりの騎士団長メルクトリ。普段、気さくな態度の彼でさえこの時ばかりは険しい顔つきをしていた。
「パーシヴァルさん、メルクトリさん、早速だけど話を聞いて欲しい」
いざ切り出した俺に二人は首肯する。
「奴らを殲滅するにあたって作戦がある。タンクが最前線を務めて〝挑発〟を使用。モンスターたちのターゲットを取りながら後退。まとまったモンスターはアーチャー・マジシャンなどの後衛陣が主体となって殲滅していく。これなら比較的安全に倒せると思うんだ」
メルクトリはひたすら頷く一方で、パーシヴァルは顎に手をやっていた。
「冒険者がレベリングを行う時に用いる基本的な型だな――だが問題はモンスターの種類がバラバラだということ。種類が違えば攻撃パターンももちろん違う。
近接型のモンスターはそれで迎撃できるだろうが、中には遠距離攻撃スキルを持っているMOBもいる。いくらタンクとは言え、メイジ、アーチャー系モンスターのターゲットまで集中させては危険だろう。いつ消し炭になってもおかしくない」
パーシヴァルの指摘は正論だった。
「心配には及びません」
しかし俺が反論するよりも早く〝クロノ〟ジョブのユミムルが口を挟む。
「彼らを守るのが俺たちバッファー・デバッファーの使命。何があろうとタンクは絶対に死なせません!」
ユミムルに続いて〝プリースト〟のマウリスも前に出る。
「ヒーラーも舐めてもらわないでいただきたいな。味方のHP管理は我らの専売特許。ゆえに一度でも床を舐めさせようものならヒーラーの名が廃るというものだ。ここは是非に、任せて頂きたい!」
回復特化の男が吼えると、後続のヒーラーたちも声を張り上げる。
それでもまだ暗い面持ちのパーシヴァルは、勢いに流されるでもなく、真剣に策を検討しているようだった。
「では後衛陣が倒し損ねたモンスターはどうする。相手は最低でもLv200のモンスター。耐久力は極めて高い。タンクやヒーラーにも限度はあろう。もし火力が不足していた場合、じり貧となるのはこちらだ」
「――騎士団長さまご安心ください」
間髪入れずに口火を切ったのは俺を極限まで苦しめた〝ティファレト〟のエレン。
「タンクたちと共に、私たち火力職が前衛を務めます。一匹たりとも後ろには通らせません。たとえそれが何百Lvのモンスターでも」
「意気込みは良し。だが単独では不可能だ。きっと何十体何百体と脇を抜けてくることだろう」
「――問題ないわ。エレンだけじゃない、わたしもアルトもいるんだもの。他にも火力に自信のある冒険者なんていくらでもいるはずよ!」
横合いから割って入ったコトハに冒険者たちが同調する。
「ガハハ、馬鹿を言え! タンクに限界なんざあるものか。防御力・魔法抵抗力アップに特化したスキル振り――ガチタンクの神髄を見せつけてやんよ!」
そして最後に大声を張ったのは暴れん坊のルドラ。Lvこそ160であれ、彼の堅さは俺が身をもって経験している。スキルポイントのほぼ全てを耐久に振ったガチタンクなら、そう易々と倒れるはずもない。
「うむ――ならば最前線には私たちも付こう。傍観していては騎士団長の名折れだ。異論はないなメルクトリ」
ついに得心に至ったパーシヴァルが、傍らの気さく男に語り掛ける。
「おうともまったく異存ない。さあここが正念場だ――冒険者たちよ、必ずや都市に生きて戻ってこようぞ! 我らがバルドレイヤを守り抜くのだ!」
メルクトリの声に、総勢八百人の老若男女が哮り吼える。
一パーティー最大八人により、この場で生まれたパーティー数は丁度百。
編成はタンク2、ヒーラー2、バッファー2、アタッカー2。
俺のパーティーにはコトハ、フィイ、リズ、ペル、エレン、ウルカケヒト、ユミムルが加わった。フィイとリズはバッファーでありながら回復スキルも保有している。かなりアタッカーの多い編成だが問題ないだろう。
「にしてもこれは厄介だ……近接よりも遠距離攻撃に特化したモンスターが多い。まるでこちらの弱みを知っているみたいな……」
言いさした中、ピコンと軽快な音が鳴る。チャットの通知音だ。
パーシヴァル:君が抱いているであろう疑問には後で答える。今は目の前に集中しろ。
かの騎士団長さまはどうやら一件に心当たりがあるらしい。もちろんその意見には賛成だ。今はとにかくモンスターたちの殲滅が最優先。後のことは全て終わった時に考えよう。
『各自、準備は整ったな。さあ開戦の時だ!』
俺が送信したエリアチャットによって、いざ動き出す八百人の冒険者と騎士団。
タンクが吶喊を上げて突き進む。
そんな彼らを後方から支えるのは誇り高き支援職たち。
防衛線を死守しようとアタッカー陣が一斉にスキルを放つ。
冒険者vsモンスターの幕が切って落とされた。