表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/216

135


「お疲れさま、すごく接戦だったわね!」


 観客席に戻ると、コトハに満面の笑みで出迎えられる。


「さすがはアルトくんなのだ、こうもあっさりとTOP4に残ってしまうとは」


 フィイが満足そうに頷いていると


「だってわたしのおにいちゃんだもん。負けるわけないよね」


 リズが横合いから口を挟む。


「ククク……我らがギルドマスターに敗北はあり得ない。必ずやこのまま優勝まで突き進むことだろう……」


 そして邪気眼ポーズを決めているペル。


 こうもギルメン総出で祝ってもらえると素直に嬉しい。スキルポイントを消費してでも勝ってよかったと思う。無くなったポイントは……またレベリングして溜めよう。


「やあやあ見事な活躍だったなアルトくん。特に終盤は手に汗握る駆け引きだった」


 気さくな声調(トーン)で話しかけてきたのは騎士団長のメルクトリ。この人は、毎回俺の試合を見ているのだろうか。もはや熱狂的なファンボーイである。


「ありがとうございます。今日も……そのサボりで?」


「おうとも。何が悲しくてモンスターも攻めてこん南の監視場を見張らねばなるまいのだ。なによりこの三日間はせっかくのお祭り。勤勉に務める必要はなかろうよ」


「はあ……左様で」


 俺の呆れた返事も意に(かい)さず、メルクトリはガハハと磊落(らいらく)に笑い飛ばす。


「それでアルトくんは全てのスキルポイントを消費したのか?」


「ええ? そりゃあまあ勿体ないですけど勝ちたいですし。気になりますか」


「そりゃあ気になるとも。何せ君は優勝候補の冒険者だ。まだ見せていない手の内がひとつかふたつはあるのだろう? いったいどんなスキルを選択したのか。楽しみで仕方ない」


 期待してくれているのは嬉しいが、次の対戦相手を見ると俺は憂鬱(ゆううつ)になるばかりだ。


「優勝候補だなんてそんな。次はモンクの転職先ティファレトが相手ですよ。正直言って勝てるかどうか」


「モンク……己の五体のみで戦う接近戦を得意とするジョブか。アルトくんはそれに対抗し得るだけのスキルがないと?」


「ないことはないんですけど、脅威には違いありません。上手いモンクにはほとんど隙がありませんから」


「君がそこまで言うとは、何とも気になるではないか。どれ、残りのスキルを俺に教えてくれてもいいんだが」


「はは……それは本番まで楽しみにしておいてください」


「そうもったいぶるでない。なに、心配せずとも他の冒険者には明かさんよ」


 やけに食い下がるメルクトリは、どこか胡散(うさん)(くさ)い。なぜそこまで俺のスキルツリーを見たがるのか。


 あいにくこちらは、押されると引きたくなる性分(しょうぶん)。なおのこと見せたくない。


「――まあ良い、明日には分かることだ。何れにせよアルトくんには奮闘していただきたいものだな。できれば死力(しりょく)を尽くしてくれることを願うよ」


 俺のガードの堅さを察したのか、ほどなくしてメルクトリは去っていった。


 彼は……もう少し真面目に働いて欲しい。そろそろパーシヴァルにしょっぴかれてもおかしくないのではないか。


「珍しいわね、そこまでアルトが弱気だなんて。モンクっていうと体術だけで戦うジョブよね? そんなに危険な相手なのかしら」


 コトハがさっきの話について触れた。


「危険かどうかはまあ……アレを見れば分かる。下でティファレト対ガンブレイドの試合がやってるだろ。アレをコトハはどう思うか」


「アレって……」


 決闘場を見下ろすと、そこには絶賛タイマン中の冒険者たちの姿が。


 一方は体術に長けたティファレト。もう一方は銃と剣のミックススキルを扱うガンブレイド。リーチ差から見て、後者が有利に攻撃できるはずなのだが。


「何よあれ、身のこなしが人間じゃないっていうか……化け物じゃない」


 ティファレトは迫りくる(なまり)の雨を疾走のみで()(くぐ)り、敵の(ふところ)へと至る。


 振り降ろされた直剣にも見てから反応、半身を()らした直後に敵へと叩き込んだのは固く握りしめた縦拳(たてけん)


 打撃によって吹き飛んだ相手はノックバック状態にあり、身動きが取れない。


 そこからはもう拳法家の独壇場(どくだんじょう)だ。反転の余地も与えない猛撃によってゴリゴリとHPを削り取る。


 まさに格ゲーの鮮やかなコンボを魅せられているようだ。


「とまああんな感じで、モンクはかなりすばしっこい相手だ。何しろ武器が己の五体、あれ以上、機動力に優れたジョブはないだろう。対人でもかなり強い部類に入る」


「強いのは分かったけど、でも……勝ってよね」


「今は俺より自分のことを心配しろ。あの分だとすぐ決着するだろうし、そうなると次はコトハの出番だ。マジシャン系列のジョブ、クロノ――状態異常スキルを使ってくるから気を付けた方がいい」


「もう、ヒントなんて要らないのに……でもありがとう、注意するわ」


 コトハは()ねたように頬の片側を膨らませている。


 確かに余計なお世話だったかもしれない。彼女にとってここは自分の実力を試す初めての公式戦。俺の手は極力借りたくないのだろう。


 でもそう分かった上で、コトハに勝ちあがってきて欲しいという思いもある。……上手くやってくれるといいんだけど。


「……」


 出番が近づいたコトハは、すっかり集中モードに入っている。無言のままスキルツリーを開いているが、何か習得するつもりなのだろうか。


「スキルポイントを余らせたまま負けるような男じゃない――そうよね、冒険者はそうじゃなくっちゃ」


 前戦、俺が口にしたセリフを嬉しそうに噛みしめながら、コトハはスキルポイントを割り振っていく。


 彼女も負けず嫌いな性分であることは知っている。今さら〝勿体ないからやめろ〟といえるほど、俺もできた人間ではない。


 本気で臨む彼女が上手くいくかどうかは、この後のお楽しみということにしておこう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご愛読頂き有難うございます
星5評価ブクマレビューなどを頂けるととても嬉しいです。モチベーションが上がります。

ADRICAのMAPです(随時更新)。
MAP MAP MAP
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ