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134(アルトvsマクティア)

今話長いです、すみません。次話を……練らねば……。

皆さまのお陰で200万PV10,000PT超えました、本当にありがとうございます!


 休憩時間が終わり、俺は再び決闘場へ。


 第五十七試合目ミストルテインvsローグマスターのアナウンスのもと、フィールドへと降り立った。


 眼前には黒フードを被った長身の男が。鼻から下はストールが巻かれており目元以外はまるで素性が見えない。まさに暗殺者のローグマスターに相応(ふさわ)しい(よそお)いをしていた。


「――このトーナメントどうにもきな臭いな」


 ぽつりと呟いたのは対面のマクティア。彼は頭上に掲げられたトーナメント表を一心に睨んでいた。


「総勢256名の冒険者を4つのグループに分けたこのトーナメントシステム。さまざまなジョブがいてしかるべきだが、どうしてこうもグループAに強職(きょうしょく)ばかりが集中している。それも右側ばかりに。人為的(じんいてき)な振り分けだとしか思えんのだが」


 悪態をつく彼にはまったくの同意見だ。しかも俺の相手ばっかり。こんなのどう考えてもフェアじゃない。


「気が合いそうだな。俺もそう思っていたところだよ」


「お前は……前回にポイズナーを下した隠しジョブか。ミストルテイン見慣れぬ名前だ。噂では多彩な武器を扱うという。これはまた面倒な相手を引いたものだ」


「こと対人戦においてはローグの方が遥かに上さ。――それよりもさっきの話について聞きたい。怪しいって言っていたのって何か確証があるのか。俺はそもそもどうやってグループを振り分けられているのかも知らないんだけど」


 マクティアが静かに頷く。俺との対話を受け入れてくれたようだ。


「表向きでは、振り分けは王室で行われており、公平性を考慮(こうりょ)して完全にランダムだとされている。だが見ての通りこの有様だ。何か意図があるようにしか思えない」


「王室……となると騎士団長や王さまが取り仕切っているわけか。都市内でのイベントなんだから当然っちゃ当然なんだけど、意図までは読めないな。何を隠しているのやら……」


 談話にひと息ついたところで、場内には決闘開始のアナウンスが。態度を改め、インベントリから短剣を取り出したマクティアもまたやる気らしい。


 もう少し話したかったんだけど開戦の時だ。二丁の回転式拳銃を手に取って臨む。


「冒険者のアルトだ、よろしく頼む」


「職業ローグマスター名はマクティア。抜かりなく行かせてもらう」


 彼は短剣を逆手持ちに切り替えたところでスキルを発動。


〝潜伏〟短時間姿を消すローグマスター特有の隠密スキル。


 早速の行動だ、不可視の急襲ゆえ通常ならば対応にあぐねるだろう。


 だが俺には通じない。この眼には見えないモノなど何も無いのだから。


「――なるほどスキル〝死神の瞳〟か、これは()えているに等しい」


 奇襲を阻まれたマクティアがうそぶく。動き出した彼に俺が発砲した時のことだった。


 二丁のリボルバーが()える。大気を突き進んで放物線を描く(なまり)は、だがローグマスターを捉えるには至らない。


 マクティアはこちらの二丁掃射(そうしゃ)を事も無げに、ただ地を蹴るだけで躱してのける。


 スキル〝洗練された動き〟移動速度とクリティカル率が上昇するバフだ。鉛に捕まってくれるほど緩慢(かんまん)な相手ではない。


「これは、やるだけ無駄だな」


 次なる展開を見越して装備を変更。取り出したのは()()()()()


 一か八かの大博打を狙う。


「さて――そろそろ反撃といこうか」


 こちらの手が止まったのを好機だと見たのはローグマスター。打てば響く速さで間合いを詰めてきたその機敏(きびん)さはスキル〝ダッシュ〟によるもの。


 一拍後には、マクティアが眼前にまで迫っていた。


「スキル〝インクリーズショット〟!」


 マクティアの投擲(とうてき)したナイフが、手元を離れた途端に増殖する。その数は合計二十五本。


 こちらは盾で防ぐのがせいぜいの有様。防ぎ漏れた短刀が、足元や腹部にHITする。削られたHPは馬鹿にならない。残り六割といったところ、確固(かっこ)たる痛手だ。


「これで終わりにしよう――ミストルテイン」


 背後から鳴る男の声。俺が防衛している間にマクティアが回り込んだ。彼が何をしようとしているかは想像に易い。


 ローグマスターの代名詞とも言える技〝バックスタブ〟だ。ジョブ補正によって、彼は背後から攻撃する時、威力が絶大に跳ね上がる。


 斬られてしまえばその瞬間に、俺は敗北するだろう。


「……っ!?」


 だがしかしマクティアはその場で大きく後退。俺への追撃を中断した。


「とでも言うと思ったかアルト。二の(てつ)は踏まん、俺は初戦のハイランダーのようになりたくはないからな」


 俺の背後に降り注ぐ隕石を、嬉々(きき)として傍観(ぼうかん)するローグマスター。彼は俺が唱えていたスキル〝シューティングスター〟によるカウンターを見通していたのだ。


 どうやら俺の第一試合目をきっちり見ていたらしい。抜け目のない男だ。


「悪いがお前に小回りの利くスキルが無いことは分かっている。デスサイズによるスキル〝ソウルハーヴェスト〟も短刀相手では分が悪かろう。このままじわじわと削ってやる」


 (うわ)ついた声音でマクティアが言う。それは間違いのない分析だ。


 俺の習得している攻撃スキルはどれもMOBに対して強いものばかり。こと対人となれば話が違う。これでローグに勝てというのが無理な話だ。しかし、


「さてそれはどうだか……ならばここからは()()()()()()()()。あいにく俺は負けず嫌いでね、スキルポイントを余らせたまま負けるような男じゃない」


「……お前は何を言っている?」


「分からないかローグマスター。俺は事前にスキルを習得したと言っているんだ。つまりこれまでの俺を期待しているのなら――その願望は捨てるべきだ」


「馬鹿な! 冒険者にとって貴重なスキルポイントを都市戦のためだけになど――」


 (ごう)、と吹き荒さぶ青の気勢(きぜい)。俺の総身(そうみ)から放たれたオーラを見てマクティアが声を失う。


 それは俺がこれまでに見せたことのないスキルを習得している証明だった。


「〝バーサーカー〟だと……まさかお仲間と同じスキルを習得したとはな」


 動揺を見せつつも、彼は冷静にスキルの正体を看破(かんぱ)した。


「ローグマスターは近接でのゴリ押しは不得手だと心得ている。よってここからはゴリ押しでいかせてもらう。まさか俺が脳筋ファイターをやるとはな」


 インベントリから取り出した武器は、よもやコトハと同じフェンリル二刀。


 そんな俺を見て苦虫を食い潰したような顔をするマクティア。いよいよ俺の言葉が真実であると理解したようだった。


「付け上がるなよマジシャンもどき。ファイター系列スキルを習得したからといって、途端に腕前が上がるものではない。いくら不得手とはいえ、長年ローグをやってきた俺に接近戦で敵うとでも?」


「それは(おご)りだぞマクティア。俺はファイターもアーチャーもマジシャンもできる。どれひとつとして努力を(おこた)ったことはない」


「……その態度が真か偽かは、実際に刃を交えてみれば分かること。ならば(じか)()して(はか)るのみ!」


 張り上げられたマクティアの咆哮(ほうこう)によって、再戦の火蓋(ひぶた)が切られた。


〝ダッシュ〟によって切迫(せっぱく)するのはローグマスター。直後に放たれた無数のナイフはスキル〝インクリーズショット〟。鉄板のコンボだが同じネタを披露(ひろう)されるとは(はな)が無い。


「何――」


 素早さが上がっているのはこちらも同じこと。


 コンボが来ると分かっているのなら――そう見極めたうえで次手を打つのみ。


〝バーサーカー〟状態の移動速度ならば咄嗟(とっさ)の回避も()(おほ)す。右に跳躍(ちょうやく)、攻撃へと転じたのも束の間のこと。剥き身の二刀がローグマスターへと襲い掛かる。


「――ッ!!」


 短刀で防衛を試みるマクティア。だがこちらの武器は二刀、手数は倍。


 たった一振りの短刀ごときで死守できるほど甘くはない。


「チィ……クソ!」


 三度も被撃(ひげき)を許したローグが捨て吐く。HPは残り半分もない。


 接近戦を嫌った男は〝スニーク〟によって戦線離脱。ごく短時間、一切のダメージを受け付けない無敵スキルだ。


 更には〝ダッシュ〟で間合いを取った。完璧な逃避術だ、スキルのつなぎ方がこなれている。しかしそればかりは最適解とは言い難い。彼は自ら距離を開けてしまったのだ。


 中遠距離戦を得意とする俺を相手に。


()()()()、ローグマスター」


 すぐさま武器を長弓に変更。


 俺の意図を理解したようにマクティアが目を見開く。そうはさせないと()()せる。


 だが開いてしまった間合いはあまりにも遠く――空に向かって一条の弓矢が放たれた。


 スキル〝フェリルノーツ〟天より弓矢の大軍を呼び起こす召喚スキルだ。


「これを回避することは不可……ならば撃って落とすのみ!」


 迫りくる超AoEスキルを前に、ローグマスターが(たけ)()える。


 彼が左右に握りしめた短刀は、付け焼き刃で二刀流をするためのものではない。


〝インクリーズショット〟片手で二十五ものナイフを生み出すローグのスキルは、両手で投擲すれば五十に至る。〝フェリルノーツ〟が召喚する弓矢の数は丁度五十。


 つまり彼は全てを迎撃(げいげき)するつもりなのだろう。その身に積んだローグ固有のスキルによって。だが理論値では可能だとしても、そんな芸当は神業だとしか――。


「なるほど、これは神業だ」


 (たき)のように滂沱(ぼうだ)として降り注ぐ弓矢を、正確無比に捉えては撃ち落としていく短刀たち。


 勝敗を決める土壇場(どたんば)で、マクティアはローグマスターの神髄を()せたのであった。


「二度目は与えん――覚悟しろ!」


 両手に短刀を構えた男が駆ける。あえて再度、接近戦に臨むのは勝ち筋があってのことか否か。答えは考える間もなく訪れた。


「これは……」


 接近する途中でマクティアは二人に()()()()。〝幻舞(げんぶ)〟分身を生み出すスキルだ。


 偽物は当たり判定がなく、ダメージを与えることもできない。一見無害に思えて、問題はどちらが本物かまったく見分けがつかないということだ。


 されど対処法はいくらでもある。どちらが本物か分からないというのであれば――どちらも行動を制限させてしまえば済む話だ。


「今さらそんな大技を撃たせるとでも? 血迷ったかアルト!」


 武器をロッドに切り替えた俺を見て、マクティアが前進する。さしずめ〝シューティングスター〟を妨害する腹なのだろう。想定通りの動き出しだ。


()()()()()()()()()ことを感謝する」


「――馬鹿な!」


 マクティアが驚嘆(きょうたん)する。


 瞬時に装備をデスサイズへと変更。彼らを攻めに行動させることがこちらの真意だ。


 その場で大鎌を薙ぎ払う。刃先から飛翔(ひしょう)したのはスキル〝ソウルハーヴェスト〟。命中すれば対象は拘束状態に陥る。悪いがこれにて決着とさせてもらおう――


「オオオオオオオオォォ!!」


 刹那、マクティアの怒号と共に轟き渡る炸裂音。


 見やれば俺の〝ソウルハーヴェスト〟はものの見事に掻き消されていた。マクティアが短刀で斬撃を振り払った時のことだった。


「〝空蝉(うつせみ)〟――それで勝ったつもりか!!」


 マクティアが()える。俺を仕留めんと一目散に疾駆(しっく)する。


 ローグマスターの奥義である〝空蝉〟は一度だけスキルを無効化できる。CTが長く〝スニーク〟同じくもう使えぬだろうが……それでも誤算であることには変わりない。


 そんな対人でしか活躍できないスキルを、わざわざこいつは。


「いや習得していて当然か――冒険者とは負けず嫌いな生き物なんだからな!」


 左右、挟み撃ちを仕掛けてくる二人のマクティア。動作はまったく同じに見えて、判別は既についている。〝空蝉〟を使った右が本体。左は無視してしかるべき。


「いい目をしている、なまじ新米冒険者とは思えんぞ!」


 正解を引き当てた俺に男がなおいっそう破顔(はがん)する。


「お前こそよくもまあそこまで対人慣れしている」


「馬鹿を言え、これこそがローグマスターの本分。対モンスターを捨てたジョブの生き様。故にこんなところで敗北など――あってはならんのだ!!」


 マクティアの叫びに呼応(こおう)して、二刀と短刀による攻防がより熾烈(しれつ)を極める。


 打ち鳴らす金属音、(まばゆ)いばかりに飛び散る火花。趨勢(すうせい)はまだ定まらない。


 このまま続けていても(らち)が明かないことは自明(じめい)()。されど終わらせられる算段はついていた。俺にはまだこの大会で使っていないスキルがあるのだから。


「――ッ!」


 こちらの装備が二刀から盾になった途端、マクティアは攻撃を断った。〝パリィ〟を警戒してのことだ。俺としてはそれが狙い。ほんの一瞬、手を止めてくれればそれでいい。


 数歩だけでも距離が開けば――俺は弓を()ることができる。


「またもや弓矢の召喚か!? そんな真似――」


 させてたまるものか。マクティアの雄叫(おたけ)びはそれ以上続かない。


 何故なら俺が射った先は空ではなくローグマスターに向けて。初めてまともに狙撃されたマクティアは、唖然(あぜん)と言葉を詰まらせていた。


〝バウンスショット〟。


 回避など到底頭になかった男は、増殖する弓矢に対応することができない。


 もし彼がバルドレイヤの冒険者であったのなら、コロシアムで俺たちの活躍を見ていたのならこのスキルは予見(よけん)できただろう。


「〝インクリーズ――」


 目前に迫る無数の弓矢を、迎撃しようとするマクティア。だが今度こそは間に合わず――。


 俺はグループAのTOP4に進出した。


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