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131(コトハvsウルカケヒト)

けっこうな連戦かつ一話がそこそこボリューミーで作者が悲鳴を上げています。


「おにいちゃん、おそい」


 決闘場に戻ると、ほっぺたを膨らませたリズに怒られる。


「悪いちょっと長話をしてた。――それでコトハは?」


「ちょうどいまからだよ!」


「何とか間に合ったということか……にしても対戦相手が〝シンフォニア〟とは。コトハはかなり戸惑ってるようだな」


 マジシャン系列から転職できるジョブ、シンフォニアは楽器を武器として戦う。そんな対戦相手が奇妙に見えるのか、コトハは目を白黒させていた。


「えっと、あなたの持ってる武器……それってギターよね?」


 問われた黒のロンゲ少女、ウルカケヒトはこくりと頷く。セーラー服を着ているが……この世界に日本の学校は存在するのだろうか。


「他の何に見えますか。笛でもなければ太鼓でもない、正真正銘の弦楽器です」


「それは分かるけど、でもギターでどうやって戦うの? 手加減されているわけとかじゃないのよね」


「手加減して欲しいのなら素手で行きますけど」


「違うわよ、そういう意味じゃないって」


 明らかに見くびられている、コトハの態度がそのように映ったのか楽器少女の目つきは険しさを増すばかり。


「いいでしょう、ならば教えてさしあげます――これは本物の武器なのだと!」


 決闘開始のアナウンス直後、ウルカケヒトが六弦を鳴らして先手を打つ。


「え、演奏……? これって……」


 その場で多彩なコードを刻む少女を前に、コトハは依然(いぜん)として動けないままでいる。


 これは攻撃のチャンスなのかはたまた回避に(てっ)するべきなのか。シンフォニアの初手を注意深く(うかが)っていた。


「バフを盛らせたな……本来あれは攻撃するべきなんだけど、初見じゃあ無理もない」


 シンフォニアのスキル〝(みなぎ)る演奏〟によってウルカケヒトの全ステータスが大きく上昇。


 更に目にも止まらぬ指さばきで刻むコードはスキル〝迅速(じんそく)な演奏〟。移動速度をアップさせたところで終わりに打ち鳴らしたスキルは〝(げき)した演奏〟。攻撃力とクリティカル率を大幅に高める。


「……っ!」


 楽器少女から放たれる三色の気勢(きぜい)――赤、青、黄はそれぞれのバフが付与されたことを意味している。そんな渦巻くオーラに気圧(けお)されて二刀を構え直すバーサーカー。


 シンフォニアは間違いなく強敵である。強張(こわば)るコトハの顔つきからはそのような心中が透けて見えた。


「行きます――スキル〝ダ・カーポ〟!」


 ウルカケヒトが再び演奏を始める。C、GM7、Aung、Bsus4……場内に鳴り渡るコードの数々。それらはシンフォニア特有の攻撃スキルだ。


「嘘でしょ、勝手にHPが――」


 直ちに異変に気が付くコトハ。


〝ダ・カーポ〟はその演奏を聞いているだけでダメージを負う超AoEスキル。スキル係数こそ高くないものの、MOB相手には非常に優れた殲滅力を発揮する。


 防ぎようのない攻撃ゆえ対人でもまた強スキルに分類される。


「これがあなたのスキルってわけ。でも演奏なんてしてたら隙だらけじゃない――それなら!」


 立ち止まったままのシンフォニアに、バーサーカーが駆ける。


 彼女の演奏を好機と見て取ったのは正しい。演奏中は一切の移動ができないというデメリットがある。しかし、


(はや)い……わたしよりも……!?」


 機動力に優れたバーサーカーの疾駆(しっく)に対応したのはシンフォニア。マジシャン系列とは思えぬ移動速度で間合いを取る。〝迅速な演奏〟による移動速度上昇効果だ。


 かくして二人の距離はまた振り出しに。


〝ダ・カーポ〟が再開されたのもほぼ同時だった。


「まだよ……まだこっちにも手はあるんだから!」


 このままではウルカケヒトの速度に百歩も遠い。理解したコトハはスキル〝バーサーカー〟を発動。筋力と移動速度が大きく上昇、半面にHPは半減受けるダメージは倍。己の耐久力をかなぐり捨てた超火力特化スキルだ。


「……っ!」


 急激に俊敏(しゅんびん)さを増したコトハにウルカケヒトが瞠目(どうもく)する。


 演奏は直ちに中断。迫る二刀に冷や汗を流してバックステップで対応する。


 それでも狂戦士の追撃は止まらない。獲物の息の根を止めんとシンフォニアの身体にフェンリル二刀を差し向ける。


 この時点でコトハの筋力は約1,500。対人戦はモンスター戦とはわけが違う。お互いにHPも防御力も低く、基本的に数発被撃(ひげき)すればたちまちノックダウンしてしまう。


 かてて加えてバーサーカーは火力だけ見れば化け物級。ただの通常攻撃で一発1,500、両手で振れば3,000ものHPを一瞬で溶かしてしまう。


 距離を詰められれば最後――シンフォニアは一秒と経たずに戦闘不能となるだろう。


「いける、これなら!」


 疾駆(しっく)を続ける両者。均衡(きんこう)を保っていた二者間の距離は、だがほんの少しずつ詰まり始めていた。身のこなしはコトハの方に()があったのだ。


「こうなったら……やるしかありませんね」


 作戦変更か、急遽(きゅうきょ)足を止めて弦に指を掛けたのは黒髪の少女。


 彼女が次手(じて)(こう)じようとしているのは誰が見ても明らか。


 そうはさせないとコトハが二刀を振りかぶる。直撃――に至る前にコードを刻んだシンフォニア。咄嗟(とっさ)の判断が(こう)(そう)した。


「スキル〝クレッシェンド〟!」


 (とどろ)いたスキル名と共に、弦から前方範囲に向かって不可視の衝撃波が放たれる。


「――ッ!!」


 危機を感じ取ったコトハがローリングで右に()れる。


 ウルカケヒトが追撃する。コトハの頭上に多量の八分音符が召喚される。


〝アクセント〟対象の上部から音符を落下させる多段HITスキルだ。受けるダメージ量が倍増している今、直撃すれば(ただ)では済まない。


 だが空から降り注ぐ音符たちはあまりにも多い。これには流石のバーサーカーも回避できまいと、笑みを(こぼ)したシンフォニアはさりとて直後に狼狽(うろた)える。


「はああああああぁぁっ!!」


 なだれ込む数多の音符たちを、真っ向から打ち払う二刀少女。十、二十、三十と迫る記号群に合わせてフェンリル二刀を(おど)らせる。


 ()(たて)もたまらずに煌めきを放つ白刃――ほんの数瞬の間にコトハはシンフォニアのスキルを全て〝パリィ〟してのけた。途轍(とてつ)もない玄人芸(くろうとげい)である。


「……化け物ですね、あなたは」


 (わざ)()せつけられたウルカケヒトが悪態をつく。


 お喋りをするつもりはないコトハが駆ける。あの間合いならば弦を弾くよりもなお早く二刀の切っ先が行き届く。勝機は見えた――はずだったその刹那(せつな)


「ッ!!?」


 ギターネックを掴み、まるで斧を振るかのような体勢を取ったシンフォニアに、コトハが脅威(きょうい)を察知する。すんでのところで攻撃を中断。地を蹴って後退(こうたい)する。


 結果的にその判断は正しかった。


 ウルカケヒトがギターを叩き付けた途端、地面から雷の柱が生じたのだ。スキル〝フォルティシモ〟演奏家とは思えぬ暴力的な近接攻撃だ。隙が長い分、スキル係数はかなり高い。


 浴びれば決着していただろう。


「チイッ!」


 ()(めぐ)らせたブラフにもコトハはなかなか釣られてくれない。ウルカケヒトの舌打ちにはそんな苛立ちが込められていた。


「――終わりよ」


 同じく硬直したままのコトハが勝利を挙げる。しかし未だ両者のレンジは開けたままだ。


「いったい何を……」


 彼女の言い分がまるで分からない楽器少女が疑問を漏らす。


〝フォルティシモ〟後に生じる硬直時間は確かな隙だ。にも関わらずコトハは距離を詰めようともせずに立ち尽くし――いや二刀を振りかぶっている。両の手で、それも斧を振るかのような体勢で。


「バーサーカージョブに遠距離攻撃スキルはありません。つまらない(おど)しですね」


 期待外れとばかりにウルカケヒトが嘆息(たんそく)する。


 彼女は知らないのだろう。いや知らなくて当然だった。まさかコトハが俺とのレベリングで序盤にとある〝ファイタースキル〟を習得していたなんて想像もつかない。


 さあ見せてやれコトハ、お前がこの世界で初めて使ったスキルを。それは正面に向かって強い衝撃波を放つ――


「スキル〝メテオウェーブ〟!」


 ついぞ振り下ろされたフェンリル二刀の切っ先から、大気をも割って駆けるショックウェーブ。呆然と(たたず)むだけのシンフォニアには何の防衛手段もなく、回避できる(すべ)もない。


 何故そんなスキルを、と言いたげな顔をするだけの有様だった。


「そんな……ことって……」


 メテオを直撃したウルカケヒトは大ダメージを受けてノックバック。間髪(かんぱつ)入れずにコトハがきっちり通常攻撃を入れて終戦。


 狂戦士が演奏家を下した。


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[一言] ダ・カーポは耳を塞いでもダメですか?
[良い点] >けっこうな連戦かつ一話がそこそこボリューミーで作者が悲鳴を上げています。 濃厚かつボリューミーな話を読めるので、読者である私としては嬉しい悲鳴を上げてますとも!いつも本当にありがとうござ…
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