012
初めて未知のボスに遭遇した時って、すごく怖いですよね。
「何だ、この音は……」
ユノクに応じて仲間の二人も声の方向を見やる。
「あれは……やべえ、明らかにただのモンスターじゃねえ」
「怖えよ、ひ、ひぃぃっ」
巨大な二つの鋏、黒曜石のようにギラついた胴体、そして虫のようにうごめく八つの脚。
見た目がサソリに近似しているモンスターの名前はアスククイル。通称サソリと呼ばれている。
もっとも体高は五メートルくらいあるのでサソリとは似ても似つかない。
「アルト、あれ何? やけに大きいけど食べたら美味しいのかしら」
じゅるりとよだれを垂らすコトハ。確かに肉厚な脚はカニとかに似ているかもしれない。こいつ、細い見た目して食いしん坊なんだな。
「あれはアスククイルっていう湿地帯の〝フィールドボス〟だよ。Lvは87初心者殺しのモンスターで有名だ」
「フィールドボスって……倒すとレアアイテムを落とすモンスターよね」
「そんなところだ。経験値もそこそこ入るし、レアアイテムが落ちれば売って2m――200万ルクスくらいにはなるんじゃないかな。こいつの場合は」
『に、200万!?』
声を揃えて反応したのはユノクパーティー。きっと千載一遇の大金だと思っているんだろう。若干、目を血走らせている。
「アルトと言ったな、君は絶対に手を出してはいけない。アレは我々の獲物だ。クエストを邪魔されたいま、我々に残された報酬がアスククイルのみ。これを絶好の機会と言わずして何というか」
「いや、でもあいつ序盤の敵にしてはけっこう強いぞ、ギミックとかあるし。それにお前たちのLvは平均70、サソリは87だ。Lv差も大きいしやめておいた方がいいんじゃ――」
「ふふん、そう来たか。我々の獲物を奪おうという魂胆が透けて見えるぞこのゲスが」
ダメだ話が通じてない……。俺の意見が気に食わないようだし、ここは彼らに任せてみるか。
「ならお好きにどうぞ。だけどもし〝助けて欲しい〟って言うのならその時は手伝うから教えてくれないか。ドロップ品は全部お前たちにあげるから」
「まるで詐欺師の常套句だな。誰が君の助けなど受けるものか。そこで指をくわえて見ているがいい。数々のクエストを達成してきた我らの力、見せつけてやろう」
「そんじゃあ、お手並み拝見だ」
ユノクパーティー面々はサソリに向かって駆けだしていく。Lv差は大きいけれど三人パーティーだし数は充分、もし気づけたら初見でもクリアできるかもな。
「ねえアルト、いいのあいつら放っておいて」
いかにもつまらないと言いたげにコトハは口先を尖らせていた。
「うーん、ひとまずは様子見でいいんじゃないかなあ。絶対に倒せない相手ってわけでもないし」
「そう? ならいいけど……あいつらの無様な生き恥をこの目に焼き付けておくとするわ」
騎士かぶりにも負けず劣らずの毒を吐きながら「ぐぬぬ」とうなって睨みつけているコトハさん。
気持ちは分からんでもないが……とにかくあいつらがどこまでやれるか見てみよう。