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トーナメント表ほぼ完成しました。これから物語の進行と共に掲載しますのでお楽しみください!
「さすがアルトね、格上の相手でもあっさり倒しちゃうなんて」
観客席に戻るとるんるんと弾む口調でコトハが言った。
「けっこう頭に血がのぼってたみたいだからな、ああいう手合いはやりやすい。おかげで二回戦に上がれたよ。名誉ポイントも貯まったし順調な出だしだ」
「めいよポイント……たしかあのひとも言ってたよね。おにいちゃん、それってなんなの」
リズが俺の膝上に座りながら聞いてきた。
「こういう公式戦の対人では、勝つとポイントが貯まるんだ。それによって決闘名誉がグレードアップする。俺のプロフを見てくれ、名誉が〝見習い騎士〟から〝三流騎士〟になってるだろ。
名誉を上げるとステータスがあがるし何より、対人においてどの程度強いのかの指標になる。上げておけば馬鹿にされる心配も減るかな」
「アルトくんならすぐに最上級の名誉まで辿り着けそうなのだ。しかし万が一があっては困る。ここはわれの抱擁によって女神さまのご加護を……」
右席からさりげなく抱き着いてくるフィイは、おそらく抱き着きたいだけなんだろう。……意味が分からな過ぎて某大臣の構文みたいになってしまった。
「じゃあリズも、おにいちゃんを勝たせてってほうようするの」
それに便乗して俺の首元にしがみつくリズ。対抗して更に距離を縮めてくるフィイ。
やめ……やめんか! こんなところでべたついていたらまた俺に風評被害が……ああっ、誰がロリを使役するネロリマンサーだ。あとで後ろの奴らぶっ飛ばしてやる。
「……」
そこで、ふと浮かない顔のコトハに気が付く。
左席に座ったままのコトハは、こういう時いつもふくれっ面をしてくるのに、今に限っては心ここに在らずといった顔をしている。
出番が近づいてきたから気を張り詰めているんだろう。もう克服したかと思っていたけど、さすがにそんなすぐには無理な話か。
「コトハ」と呼びかけたところで、彼女はハッと我に返る。
「……何してるの」
フィイとリズにまみれた俺に気づいてコトハが睨みをきかせてきた。
「いや……これはだな……」
「ネロリマンサー」
コトハはボソっと呟いてそっぽを向いた。憎まれ口を叩く余裕があるなら大丈夫だろう。
……だが二度とその呼称で俺を呼ぶな。
「まだしばらくは時間がある。他の冒険者の戦いでも見ていたらそのうち気がまぎれるだろ。コトハの相手は――Lv188のネクロマンサー、マジシャン系列のジョブだな。もし良かったら相手のスキルとか全部教えるけど、どうする?」
コトハは即座に首を振った。
「確かにそれなら簡単に勝てるかもしれないわ……でもねわたしはわたしの実力を試したいの。自分だけの力でどこまでいけるか確かめたくて、いつまでもアルトに頼ってたら強くなれなくなるって思うの。だからこれはわたしの戦い」
きっぱりと言い切ったコトハは、俺が思っている以上に冒険者なのかもしれない。なら過度な配慮はやめておこう。あと俺にできる事と言えば健闘を祈るだけだ。
「――よお恩人、さっきの戦いはすごかったな!」
と気さくな語調で話しかけてきたのはランサーのウルク。
さっきまで決闘場にいた彼もまた無事にトーナメントを勝ち上がってきたようだ。
「ギリギリのHP調整に完璧なカイティング、更にはスキルの読み合い、短い間にあれだけのプレイングを見せつけられちまうとはな。思わず目を釘付けにされちまったぜ」
「そっちこそ、魔法攻撃を得手とするメイジ相手に善戦してたじゃないか。何はともあれ次の対戦相手だ、お手柔らかに頼むよ」
「はは、それはこっちのセリフだ。数時間後を楽しみしてるぜ!」
白い歯を見せながらウルクはパーティーメンバーの元へと戻っていく。
街中で行われている派手なパレードや屋台の出し物を楽しんでいる内に時間は過ぎ――あっという間にコトハの出番がやって来た。
俺たちが遊んでいる間もコトハはずっと闘技場の中で観戦していた。気を緩めたくはないんだろう。かなり集中した様子だ。
『十分後に都市戦カーラバルド杯 チャレンジカップグループA第十七試合が始まります。出場選手は決闘場のロビーにお集まりください。繰り返します――』
そしていよいよアナウンスがその時を告げる。
「行ってくるわ」
短い言葉を残して立ち上がるコトハ。
「全力を出してこい」それ以外の言葉は不要だと思った。
藍色髪の少女は背を向けたまま、群衆の中へと消えていった。
※進行状況