011
ご覧いただきありがとうございます。本日中にもう一本は出せそうです。
「そうだけど、何か用ですか?」
「何か用ですかだと――ふざけやがって、どうやら痛い目を見なきゃ分からないらしいな!」
全身フルプレートメイルに大斧を携えた男、コニクスが大声を上げる。
なんだなんだ、こいつらはいったい俺たちの何に不満があるんだ?
「我々はクエストを達成するため、隣街のノルナリヤからはるばる足を運んだ。だがいざ来てみればモンスターは一匹残らず狩り尽くされている。これでは我々のクエストが達成できない、要するに報酬が受け取れないと言うわけだ。――これはどう考えても、我々に対する侮辱行為だと思えるのだが」
直剣を佩いた涼しげな顔つきの男、ユノクが無茶苦茶な文句を重ねてきた。
「はあ? ここは誰の敷地でもないだろ。誰がどうモンスターを狩ろうが自由だ。ていうかモンスターが討伐されたのなら、むしろ好都合じゃないか。さっさと帰ってクエスト報酬を受け取りにいけよ」
「それはできない」
ユノクの反論は即答だった。
「誰がどれだけのモンスターを討伐したかは、プロフィールの記録を見れば分かる。我々が狩るはずだったアラクネやヨードルの討伐数が変わっていないのに、どうして報酬を受け取れると言うんだ。虚偽の報告はすぐにバレる。つまるところ、君たちのおかげで我々の稼ぎが泡となったわけだ」
さも正論風に言っているこいつは何を言っているんだろう。俺たちがお前らのクエスト事情なんて知ってる訳ないのに。
だが……なるほど、大半の冒険者の暮らしはクエスト報酬で成り立っているわけだから、元のゲームに現実的な設定を加えるとこうなるのか。
ゲーム内ではなかったイベントだ。まさか高速レベリングが誰かの生活を脅かすことになるとは。
「いいやそれでも〝勝手に狩場でレベリングしてはいけない〟なんて利用規約はないはずだ」
「詭弁を……そうかそうか、つまり君はそういうやつなんだな。謝罪するつもりはないと見える」
ユノクは眉をしかめてより一層険しい顔つきになる。
もしかしてこれはPVPイベントなのだろうか。さっきは突然すぎて戸惑ったけど、もし挑んでくるのなら否やはない。
スキルの威力、効果、距離、CT……俺は全てのスキルを網羅しているからな。
「ねえねえアルト。あいつらなんか偉そうだしパパっとやっちゃわない?」
コトハが小さく耳打ちする。
それにはまったく同意見だが、クエスト報酬を奪った挙句に蹂躙するというのは、流石に鬼畜に過ぎるのではないだろうか。
閻魔さまだって仰天するような仕打ちだぞ。地獄にいったら入獄拒否されるかもしれない。
「何をぶつぶつと……もはや論ずるまでもない、この私が手ずから誅を下してやる。さあ覚悟を改めて剣を執れ、その蛮行、白日の元に晒してくれるわ!」
うわあめちゃくちゃノリノリじゃんこの騎士さん。どうしようこれ。
「ほらほらあいつもやる気みたいだし、さっさとやっちゃおうよ」
そしてお前は俺をそそのかすな。だいたい俺は全アカウントを〝最大レベル能力値到達〟したガチ勢だぞ、決闘慣れしてない相手をボコったって仕方がないだろ。一体全体どうしたもんだか……。
『――ッ!?』
思い迷っていた最中、忽然と轟くモンスターの咆哮が俺たちの会話を断絶した。
PVP……プレイヤーバーサスプレイヤーの略。日本語で対人戦。
CT……クールタイム。スキルを再使用できるまでの待機時間のこと。