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「フィイ俺にブレスを付与してくれないか」


「かまわないが……アルトくんはあの群れを相手にするつもりなのだろうか」


「もちろん。――と言いたいところだけど、さすがにあれは多すぎるしなにより、魔人さまと一緒に相手をするのはなあ。Lv差も大きいことだ。今は無茶をするべきじゃないだろう」


 言いながら手に持っていたロッドをしまい、インベントリからフェンリルボウを取り出す。フィイからバフは受け取れたが〝激震〟を発動させるだけのHP調整時間は……無さそうだな。


 魔人はフードの奥から深紅の瞳を(きら)めかせていた。


「それは良かった。……まさかあれと戦うのではないかと内心ひやひやしていたのだ。いくらアルトくんでも魔人とモンスターが束になっていては危険だと思う」


「そんな真似はしないさ。前にも言ってたけど俺は楽観主義者じゃない。勝てる相手とそうでない相手は見極められる。……さあとっととギルドハウスに帰ろう」


 フィイと共に(きびす)を返す。その時のことだった。


「おめおめと逃げおおせると思っているのか? 冒険者アルト」


 背後から鳴る、獣のように低い男のしゃがれ声。


 振り向いた時には既に、俺の喉元には刃物のような長爪が突きつけられて、


「――ッ!?」


 刹那、天より飛瀑(ひばく)した十三もの流れ星が魔人を蹂躙(じゅうりん)する。


 伸ばした腕先は俺に届くことない。スキル〝シューティングスター〟によって男が地に伏したのだ。こうなることを見越して手は先に打たせてもらった。


「〝瞬間移動(ブリンク)〟の発動タイミングは見れば分かる。目が赤く光った時が詠唱の合図だ。お前はあの時、既に俺たちに狙いをつけていたのだろ。俺を相手につまらん不意打ちができると思うな、魔人〝ハヌマリル〟」


 追撃(ついげき)に空へ向けて放った弓矢は、多量の弓矢を召喚するスキル〝フェリルノーツ〟。


 地べたを這う魔人は実に狙いがつけやすく、五十の矢は全て命中。それでも削れたHPは全体の一割にも満たない。さすがは235Lvの魔人。これは少々、分が悪いか?


「なるほど……(あなど)っていたことは認める。元ADRICAの覇者を舐めてかかった俺のミスだ。これが全職業全能力値カンスト、十大会連続決闘優勝およびRTA(アールティーエー)一位の男の読みか……ふふ、いい経験になった」


 ぶつぶつと呟きながら、ハヌマリルは何事もなかったかのように立ち上がる。


 こいつ、俺を知っている!?


 それも今の俺ではない、かつてADRICAを制覇した経歴を具体的に列挙した。


 となるとこいつは俺と同じプレイヤー……というよりかは俺を知っている者?


 見てくれは魔人のハヌマリルそのものだが、中身は人間ということか。


 元フレンドにはこんな口調の男はいなかったと思うが、いったい何がどうなっている。


「お前は俺を知っている者なのか」


 問われたハヌマは、ふんと軽快に鼻を鳴らす。


「さてどうだかな。知っているやもしれんし知ってないやもしれん」


「くだらん冗談はよせ。俺の経歴を口にした以上、(しら)を切ることはできない。さしづめ俺の元フレンドといったところか」


「そうだといいがな、ふふ、面白い」


 はっぱをかけたつもりが、ハヌマの面持ちは得意げのままだ。


 どうにも読めない男だ。この世界のことや俺を知っていること、魔王の所在など聞きたいことは山ほどあるが口を割るつもりは無さそうだ。


 ならば瀕死にして追い込むしかないか? ここはHPが0になった瞬間に世界から消滅するキルゾーン。モンスター側の奴とてその例外ではないはず。


「いかにも聞きたそうな顔をしているな。ふふ、そう身構えるな。いくらLv差と火力差の有利があろうと、お前を仕留めるのは苦難であると理解した。あのアルトを追い込むには一対一では無謀(むぼう)……ならばこちらが引くだけだ。また近いうちに(まみ)えようぞ」


 ハヌマの双眸(そうぼう)が怪しく光る。ブリンクを使用するつもりだな、そうはさせない。


「アルトよ、その少女の命が惜しくば余計な真似はしないことだ。これだけのモンスターを使えばそれを始末するのは容易い。お前自身はどうにかしてやり抜くのだろうがな」


「脅しのつもりか?」


「事実を言ったまでだ。俺を追えばそいつが死ぬ」


 カカ、といかにも悪役らしい笑いを漏らすハヌマ。


 奴は俺を買いかぶりすぎている。まだ三次転職も終えていない俺が、あの馬鹿げた数のモンスターを処理できるかと言われれば当然できないし、なによりフィイを狙う算段ならば逃すしかない。


「行ったな」


 魔人はブリンクによって大広間へと戻り、そのままモンスターたちの中へと姿を消した。


 奴の正体が何であるのかは分からない。だが少なくともこの世界の秘密を知っている人物には違いないだろう。俺を知っていたこともまた気がかりだ。


 モンスターの数が予想をはるかに上回っていたこと、そして何の目的か魔人が軍を率いていたこと、さらには奴が俺を知っていたことなど収穫は多数あった。


 帰ってみんなに報告しよう。


ちょっと一件でだいぶ雰囲気が堅くなっちゃったので、終わったらゆるくなります。閑話も挟みつつ?

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