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「ちょっと待ってくれ、今の話は本当なのか!? モンスターが攻め込んできた時、一帯にキルゾーンが適用されるって……それじゃあ都市の人たちも死ぬ対象に含まれるのか?」


 俺の問いにメルクトリが首肯(しゅこう)する。


「その認識で間違いない。だからこそ我らはこれだけ広大な監視場を築き上げているのだ。時にはモンスターどもとの血なまぐさい殺し合いが始まるのだからな。たとえ何百、何千が攻め込んでこようとも、嗚呼雲(ああうん)、この広さならば問題ない」


 これは何ということだ。メルクトリまでもそう言うということは、最悪の場合は本当に死者が出るのだろう。以前カーラが犠牲者という単語を出していたことにも頷ける。


 幸い以前は快勝してくれたらしく、被害者はゼロだと言っていたが……油断できないな。


「いつまでも防衛一徹(いってつ)では騎士の名折れだ。やはり蛮族(ばんぞく)はあまねく討ち滅ぼしてこそであろうに。アルトくんは行くと言っておる、それなのに我ら騎士団が籠城(ろうじょう)とは情けない。死など恐れず勇猛果敢(ゆうもうかかん)に攻め入るべきだ」


 メルクトリが腰から剣を抜き、その切っ先を天へと突きつける。彼はいかにもな熱き騎士団長さまといった感じだ。


「ならん。元よりこれは誇りの問題ではないのだ。王が誰も通すなと言った以上、我らはそれに従うのみ。論ずるまでもないことだ」


 対してパーシヴァルは冷徹(れいてつ)な態度を一貫(いっかん)している。相手がもう片翼の騎士団長であれ、寸分も斟酌(しんしゃく)するつもりはないとみえる。


「そんな日和見主義(ひよりみしゅぎ)では騎士団長の名が泣こうパーシヴァル。どれ、(おく)しているのであればそう申告するがよい。今後は騎士団〝王の剣〟が北部の監視場を務めようではないか」


「馬鹿を言え。勇猛(ゆうもう)無謀(むぼう)はまったく違うのだぞメルクトリ。そんなことも分からん体たらくだからこそ、貴様らは南部を任されているのだ。〝王の(さや)〟こそがより優れた騎士団であることは瞭然(りょうぜん)だ」


「ははっ、これは面白い。鞘とは剣を収めるだけの腰巾着(こしぎんちゃく)ではないか。確かにその臆病さは、おうとも鞘と形容するにふさわしいな」


「そうであればよいのだが、どうしようもないなまくら刀の尻ぬぐいを収めるのが我ら鞘の役目だ。剣を自称するガラクタは、放っておくと何をしでかすか分からんからな」


 メルクトリとパーシヴァルがああでもないこうでもないと舌戦(ぜっせん)を繰り広げる中、かたわらのフィイが俺の手を取る。


「アルトくん。バルドレイヤには騎士団が二つあり、騎士団長もまたそれぞれに一人ずついるという認識でよいのだろうか」


「ああ、それで合ってるよ。北部の監視場を務めるパーシヴァルたちが〝王の鞘〟南部を務めるのが〝王の剣〟と所属がそれぞれ分かれている。

 以前の襲撃では犠牲者ゼロでモンスターたちを返り討ちにしたらしい。どちらも猛者(もさ)であることには違いないんだろうけど……仲は見ての通りだな」


 だいの大人二人がいつまでも口論しているというのは、見ていて何とも言えない気持ちになる。


 彼らはどちらの騎士団が優れているかを言い争い、もはや俺たちのことなど眼中にないようだった。……これなら今のうちに行けそうだな。


「フィイ、こっちだ」


 忍び足でこっそりとその場を離れる。


 封鎖区域へと向かう俺たちにパーシヴァルは気づいていない。メルクトリは……


「あのおっさん、もしかしてこのために」


 ちらりと視線が合ったメルクトリは、わずかに口角を緩めていた。


 なるほどあれはパーシヴァルを引き付けるための演技だったらしい。暑苦しい見た目の割に意外と切れ者だな。


〝これより先はキルゾーンが適用されます。HPが0になった瞬間、世界から消滅します。本当に侵入しますか〟


 封鎖区域へと立ち居る直前、警告画面が現れた。これで彼らの主張が事実だったことが分かる。あとはこの危険地帯に入るかどうかだが。


「われのことは心配しないでくれたまえ、覚悟ならできている。都市の人たちの安全を確保するためには先手を打っておくことに越したことはない。それになにより……われはアルトくんを信じている。きっとモンスターたちを倒してくれると」


 フィイは揺るぎない瞳でそう言った。


 そこまで言われちゃあ男として引くわけにはいかない。何より俺は元カンスト勢だ。


 いくら最悪の場合死ぬという条件があっても、この程度のMOBにビビるような腕前じゃない。とっとと片付けて都市戦に臨んでやる。


「行くぞフィイ!」


 警告画面のYesにタッチ。俺たちは封鎖区域へと踏み入った。


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