102(ギルドハウス)
いよいよ拠点をたてます!
「――それでは後はこちらで冒険者の処分をいたしますので――はい、この度はご協力いただきありがとうございました」
バルドレイヤのギルドにてケベルを差し出したところ、あの男はこれまでにも数々の悪質行為を働いていたことが判明。さらに生産場にいた大量の冒険者の証言もあって、彼は先ほどの悪事が暴かれる運びとなった。
バレてしまった以上、もうあの男はこの都市にいられないだろう。追放されるのはもちろんのこと、各都市のギルドにブラックリスト登録されてクエストを受けることもできない。自業自得だ。
もっとも気がかりであったケベルのパーティーメンバーはこの日をもって解放された。彼女たち四人の冒険者は望んでもいないバフ屋をさせられたり生産屋をさせられたりと、散々な扱いだったらしい。いわゆる飼い殺しというやつだ。
それならパーティーを脱退して逃げだせばいいとも思うが、聞いた話によると、勝手に抜けようものなら、悪い噂を流すと脅されたそうだ。
冒険者にとって評判とは生命線だ。それを手玉にとって黙々と利益を生み出していたあいつはまさにゲスという他ない。
今後、彼女たちはギルドに保護され、パーティーへの紹介もされることだろうし問題ないだろう。良い冒険者生活が送れることを願っている。
ケベルから得たドロップアイテムをすべてオークションに流した結果、1Gという大金を得てしまった。
この資金を有効活用して、装備を強化するもよし、強力なバフアイテムを買い揃えるもよし、選択肢はまさに無数。やりたいことは山ほどあるが、これほどの大金があるのなら先にアレを拵えておくか。
「すみません、個人のギルドを設立するにあたって、ギルドハウスを購入したいのですが空きはありますか?」
「お調べいたしますね、少々お待ちください」
ぺこりと頭を下げた後、受付嬢が棚の書類を漁り始めた。
空きがあるといいのだが。
「ねえアルト、ギルドを設立するってどういうこと? わたしたちもうギルドには所属しているんじゃない?」
コトハが首をかしげて言った。
「俺たちが所属しているのは都市のギルドだ。それとは別に個人のギルドを設立できる」
「えっと……その二つって何が違うの?」
「前者はクエストや転職サービスを受けさせてくれたりと福利厚生が充実してる分、それなりに手数料も取られる。反対に後者はすべて自前、その分手数料もかからない」
「ふむ……規約を見たところ、都市と個人のギルドは掛け持ち可能なのか。それなら個人のギルドも持っておいた方が何かと融通が利くかもしれない」
ヘルプ画面を開いているフィイが言った。
「そうだな。とは言っても俺たちがクエストを受けることはほとんどない。実のところ、お目当ては〝ギルドハウス〟を手に入れることなんだ」
「ギルドハウス……おにいちゃんはおうちを建てるんだね、リズすっごくたのしみ!」
リズが俺の手を握りしめる。彼女とスキンシップをとるたびにコトハがムッとするのはなんなのか。
「そろそろ宿屋で生活するのもあれだと思ってな。やっぱり安定した生活基盤が欲しいだろうし、家は持っておくに越したことはない。お前たちだって自分の個室が欲しいだろ? これからは寝室も別々で――」
『……』
あれ、誰も賛同してくれない。ギルドハウスって言った時はみんな目を輝かせてたのに。
「別に部屋は一緒でいいけど、我が家があるのは安心ね」
え、一緒でいいの?
「うむ、われも一緒で構わんが帰る場所があるというのは有難い」
ん、んん?
「ギルドハウスはたのしみだけど、リズもおにいちゃんといっしょのお部屋がいいかな」
なるほど。どうやら俺の苦行というのはこれにて閉幕とはいかないらしい。……それどころかリズまで増えたとなると……この先生き残れるか分からないな。