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みなさまの応援のおかげで100話突破しました、ありがとうございます!そろそろヒロインさんのイラストも進めねばと思いつつも色塗りが長いです。一日36時間くらいあれば挿絵ももっと挟みたいんですけど時間が足りない……。
「聞いたところ――アルトという冒険者は決闘の際、どんな条件も呑むらしい。それがたとえ自分に不利な内容であっても。さて今回もそうであってくれるとよいのだが」
こいつ、やはり事前に下調べを済ませている。これまでの話はすべて演技で、真の目的は俺を捻じ伏せること。そして自分にとって最も有利な条件で戦う腹なのだろう。
とすると恐らく俺に突きつけてくる要求は、ワンショット制かあるいは縛りプレイの――。
「……ごたくはいい。さっさと決闘申請をしてきたらどうだ。どのような内容でも俺は構わん」
「どのような、か……聞いたな皆の衆、アルトはどんな決闘でも受けて立つそうだ!」
ケベルが勝ち誇ったかのように大声をあげる。
それにつられて『オオオ!』と賛同する冒険者たち。この演出すらもケベルの用意したものかどうかは知らないが、なるほど、外堀りを埋める手筈も万端なようだ。
「ねえアルト、大丈夫なのあえて不利な条件なんて呑んで」
と、ここでコトハが耳打ちしてきた。不安を隠せないのか、表情がくもっている。
「大丈夫、これまでも不利な場面なんていくらでもあったろ」
「で、でも……それでもしアルトが負けちゃったら……」
「コトハ、お前はひとつ誤解をしている。――俺は決して楽観主義者じゃない。勝てる戦いじゃなければ承諾しないよ」
コトハはまだ何か言いたげにジッと見つめていたが、やがて仕方ないと言いたげに息を吐いた。
「ほんとにもう、アルトはまったく……」って聞こえてますよーコトハさーん。俺なにかやらかしたかな。
「これはこれは、まだ対戦相手すら見ていないのに勝てる戦いとは面白い。対人において無敗と噂のアルトは、この日、初の敗北を喫するだろう」
ケベルが嬉々として手の内を明かした。
その言い方からして、どうやら決闘相手が奴ではないようだ。やはり俺の見立て通り、ケベルは初めから俺とやり合うつもりで話を持ち掛け、さらに決闘専用の傭兵を雇っていたというわけか。ここまで計算高いと素直に感心する。
「ひ、卑怯者め、そうまでして勝ちたいというのか!」
沈黙していたフィイが声を荒げた。
「ふん、何とでも言え。良いと受けて立ったのはそこの彼だ。おじけづいてやっぱりやめたいと言うのなら話は別だが……これだけの観衆の前で啖呵を切った挙句、逃げ出すというのは……これ以上ない恥さらしになるであろうな」
「卑劣な! 初めからそう仕向けることが目的だったのだろう。許せぬ、断じて――」
激昂するフィイの頭に手を添える。
すると彼女はうぐぐ、と唸りつつも下がってくれた。
「俺のために怒ってくれてありがとうフィイ。だけど大丈夫だから安心してくれ。――さあケベル、切り札を用意しているのだろう。ならばさっさとそいつを招いてはどうか。そう心配せずとも俺は逃げも隠れもしない」
俺の宣誓に合わせて、ケベルが口角を吊り上げる。欲望にまみれたいやらしい笑みだ。
「であればお望み通り見せてあげましょう。こちらがあなたの対戦相手を務める――ハイランダーのルドラさんですぞ!」
あれ……いまルドラって言ったか? その名前どこかで聞いたことのあるような……。
「彼の対人戦績は圧倒的な百十九勝一敗。ほぼ負けなしといった間違いのない猛者! バルドレイヤには数多くの冒険者が滞在しているが、彼ほどの実力者は一握りでしょうな。更にルールは武器をひとつのみに制限する〝ザ・ワン〟、もちろんここで指定する武器は剣。これであなたの弓と魔法は封じたも同然です。さあ早く構えなさい、これより生意気な新米冒険者の祝うべき敗北会の幕開けと――」
ケベルの饒舌はそこで止まった。
いよいよ現れた決闘代理役の冒険者、ルドラの様子がおかしいと気づいたのである。
「……」
ルドラは俺をまじまじと見つめながら、真っ青な顔色で全身をみっともなく震わせている。とても有利な戦いと思い込む戦士の顔つきではない。既に戦意喪失している。
やっぱりこいつ、アレだな。俺がバルドレイヤに来た初日にやっつけたあのハイランダーか。たとえ剣でのタイマンだとしても脅威じゃない。
や ら れ や く