099
不穏な空気が漂ってますが、決闘は都市戦開催までしません。決闘は毎回、種を変え品を変えといった風にまだまだバリエーション豊富なので、同じパターンは基本やりません。ご期待ください!
「断る。二言は無いさっさと立ち去れ」
ぴしゃりと拒絶されたケベルは、しかし大人しく引き下がってはくれないようで、得意げな面持ちのまま顎に手をやっていた。
「ほう、これはまた随分と嫌われてしまったものですな。こちらはまだ条件の提示すらしていないというのに」
「条件もクソもあるか。何があっても俺はパーティーメンバーを売らない。分かったら疾く消え失せろ」
「おにいちゃん……」
俺の手を取るリズが満面を咲かせる。
繋いだ手から震えが伝わってくるあたり、彼女はおびえていたんだろう。もし俺に見放されたらどうしようと。こんな小さな女の子を怖がらせるなんてひどい話だ。
「散々な言い草ですなあ……まあまあ、まずはこちらでも」
それでもケベルは俺の意見も無視して、インベントリから小袋とアイテムを取り出した。
500mルクスとエンチャントに必要なかなづち……しかもこれは金色か。
通常の銀のかなづちならば物理攻撃力のエンチャント数値は+1~+100。しかし金色なら+1~+500と高い上限値が設けられている。武器をより強くするためには必須のアイテムだ。
その価値は高く、オークションだとひとつにつき100mはくだらない。
「500mと金エンチャ五本……総額1Gで手を打てという話か。安く見られたものだな、それだけでは――いやどれだけ積もうと俺が意見を変えるつもりはない。言ったはずだ、二言はないと」
そう言い放った途端、ケベルの顔つきは驚愕に染まる。
「馬鹿な……正気ですかな。資産価値およそ十億ルクスにものぼる好条件を突っぱねると? まるでトレードの素人、とてもまともな冒険者とは思えません」
「ざれごとだ。貴様は回収できる算段を見越しての申し出だろう。たかが1G程度カタクラフトの特殊ポーションを量産すれば容易に元手が取れる。
たとえば勇猛のポーションは単価1mだが、毎日素材を集めて生産すれば、月でおよそ200~300mは売り上げることができるだろう。その他の特殊ポーション類も含めると、1G以上を稼ぐことなど造作もない。俺がオークションの相場を知らないとでも思ったのか、トレードの素人め」
「ぐ、ぐぐ……」
歯を食いしばりながら唸るケベルには、これまでの余裕などどこにも見えなかった。
いよいよゲスの本性を現してきたな。
「よいでしょう! それならば2.5、いや3Gでどうですかな!? これならばさすがに不釣り合いだとは言わせませんよ!」
「断る」
「なっ――」
この期に及んで交渉を続けるケベルは、真に愚昧だとしか言いようがなかった。
「はなから言っているだろう、リズを売り渡すつもりはまったくないと。第一、貴様はリズと冒険したいのではなく、収入を得ることが目的だろう。幼いからといってあまり彼女を侮辱するなよ。たとえ小さくとも彼女も立派な冒険者だ。飼い殺すような真似はさせん」
「こ、この……大人しく聞いていれば、偽善者風情がべらべらと……っ!」
エセ公爵っぽい見た目の男は、やはりエセだったようで、今ではすっかりその顔に野太い血管を浮き上がらせている。既に気品など感じられない。顔つきも口調も、蛮族のそれである。
「――勝負だ、この私と勝負をしろ!」
そしてケベルは息を巻いて宣告した。
利欲にまみれたゲスであっても、さすがは冒険者の端くれ。気に入らない相手となると叩き潰さねば済まないようだ。
「何だ何だ、小競り合いか?」
「どうやら冒険者同士のいざこざらしいぜ。――片方は有名人のアルトだな」
「ああ、凄腕の新人だ。何でも初見でコロシアムを制覇しちまったんだとか。その腕前でハーレムを築き上げてるらしいぜ」
「また女の子増えてんな……」
俺たちの騒動をかけつけて周りから多くの冒険者が寄ってきた。
非常に納得いかない謂れをされている、やめろ俺は健全だ。ありもしないことを吹き込むんじゃない!
「まあいい……それでお前は決闘がお望みか? 先に忠告しておくが、辞めておいた方がいいぞ。だがどうしてもと言うのなら受けて立とう」
「ふふん、その言葉もまた二言はないであろうな。果たし合いの承諾――しかと聞き届けたぞ、ミストルティンのアルトよ」
こいつ、俺の職業名を……?
単にプロフを確認されただけかもしれないが妙にくさいな。いきなり饒舌になった点もまた怪しい。もしや最初から俺をタイマンに持ち込む算段だった?
500m……5億
1G……10億
2.5G……25億
3G……30億