009(湿地帯)
まだ街には帰りません、もうちょっと爽快イベントがあります
森を進んだ先の湿地帯。ここのモンスターはいやらしい状態異常攻撃を仕掛けてくることで有名だ。
体高が等身大ほどはある巨大蜘蛛アラクネ、歩く腐った人面樹ヨードル、ひんやりとした見た目のブルースライムなどなど、多数の毒属性モンスターが蔓延っている。
「さあ始めるぞコトハ!」
剣を高く衝き上げて、スキル〝挑発〟を発動させる。辺りのモンスターは一斉に俺へと向き直った。
〝挑発〟は短時間、モンスターのヘイトをスキル使用者に集中させることができる。
つまり俺はこれから馬鹿げた数のモンスターどもに追いかけ回される。なぜそんな真似をするかというと効率よくモンスターをかき集めるためだ。
俺がモンスターを引き付けて、コトハがそれらを一網打尽にするという作戦だ。
「ねえアルトいくら何でもこれは多すぎじゃないのかしら……」
だが肝心のコトハはモンスターの大群を見て半泣きになっていた。生意気な性格だけど実は怖がりなのか。
「コトハはスキルを撃つ準備をしてくれ。タゲは俺が集めてるから!」
「む、むり――こんなの絶対にむりだって!」
コトハはいつもの高飛車な態度も捨て去って、ぷるぷると体を震わせている。
正直、このレベリングが成功するかどうかは彼女の働き次第だ。モンスターの大軍勢はいよいよコトハの眼前。未だビビっている彼女を見るに、この危険な賭けは失敗に終わるかと思えたのだが……
「メ、メメ――メテオウェーブ!」
彼女が振り降ろした剣先から、衝撃波が放たれた。
ファイターの初級スキルである通称メテオは、大気を裂くようにモンスターの群を撃ち破る。まごうことなき一網打尽だ。
流石は全ポイントを筋力に振った脳筋。この火力は馬鹿げているとしか言いようがない。
「やればできるじゃないか。その調子で次も頼むぞ」
「うそ……これまだ続くの? もうおうちに帰りたいんだけど……」
「コトハ、いま入った経験値を見てくれ、さっきの一回でLvが5もあがったんだ。これを繰り返せば間違いなく最高のレベリングになる」
「レベリングとかそんなことより、こんなの少しでもミスったら終わりじゃない。ねえねえ、もしモンスターに襲われたらわたしはどうなるの」
今にも泣き出しそうなグズった声でコトハが抗議する。
俺はかつてない笑顔を浮かべて言った。
「骨は拾ってやるから安心しろ☆」
「ううぅ……ううううううううぅぅ!」
涙目になって睨んでくるコトハ。やりすぎたかもしれないのであとで一応謝っておこう。
ひたすらモンスターをかき集めてはコトハにぶつける作業を繰り返す。
その度に鳴る悲鳴と破砕音、そしてLvアップを報せるシステム音声。経験値のうまさはセスタスの森の比ではなく、おおよそ分間3Lv上がっていた。
そうして俺たちは新米冒険者とは思えない速度でレベリングしていき――気づいた時には、Lvが60を突破。はたして一か八かのレベリングは、大成功に終わったのであった。