地震
初投稿です。よろしくお願いします
「今日も暑いな。」
夏の日差しが照りつけるアスファルトの道をそういいながら、天海龍一は自宅へと歩いていた。
ただ、その表情には笑顔が見られ、暑い日差しのなか、歩いているようには見えない。
それもそのはず、龍一にとっては今日はとても嬉しい日であった。
「新しい時代劇のドラマ、どんなのだろうな?やっぱり、刀と刀がぶつかるような
熱い展開があれば嬉しいけど」
そういいつつ歩いていく。
天海龍一は高校1年生。身長175cm、体重70kg。短い黒髪で、その顔は世間一般的にはかっこいいといえる顔だ。体格もでかくも細くもない普通であり、自身もそう思っているが、
剣一を知っている同級生がそれを聞いたら
「どこが普通なんだよ!?」
と声を大にして言っているだろう。
体格は確かに普通だが、その手はすざましい剣たこがあり、身体も本当に高校生か?と思うほど筋肉が
ついている。いわゆる細マッチョというものだが、龍一の場合はそれよりも大きく見える。
なぜ、そんな体格になってしまったかは祖父の影響と自身の性格による。
龍一は5歳の時、両親を交通事故によって亡くなり、祖父母に引き取られた。
祖父の名前は天海 宗玄。天海流18代宗家であり、人間国宝にも選ばれたほどの刀鍛冶でもあった。
天海流は戦国時代に生まれ、剣術や甲冑組討術、当身技等多岐にわたり、まさに戦場で生まれた流派である。
父は当然、その後継ぎとして祖父から厳しく仕込まれていたが、それに反発し、高校卒業後、家を出た。
その後、母と出会い結婚したが、祖父の家には一度も帰らなかった。祖母には連絡し、手紙も送っていたが、実家に帰ることはなかった為、写真でしか祖父母を見たことがなかったのだ.
祖父母を初めて見た時は初めて会えた嬉しさと両親が亡くなった悲しさが混じり合い、祖父母からみても不安定な表情をしていたと言っていたから、そうとうなものだったのだろう
祖父も孫が生まれたと聞き、剣一に天海流の後継者にしようと考えていたが、さすがに両親が亡くなった
直後では難しいと判断し、様子を見ていたが、偶々祖父の剣の練習を見ていたのが龍一の転機のなった。
祖父の剣を振る姿に「かっこいい!」と笑顔で言った時は祖父も涙ながらに
「そうか・・・・ありがとう」
と笑顔で言ってくれていたのを今でも覚えている。その後、祖父から天海流の基礎を学び、めきめきと実力をつけていった。天海流だけではなく、剣道や柔道の教室を足を運び、そこでも実力を身につけていた。当時小学生3年生だった龍一が、中学生の初段持ちを倒してしまった事を考えると相当なものだと
分かるだろう。
中学生になった時に、当然ながら部活は剣道か柔道を選ぶと思うが、なぜか演劇部という文化部を選んだ。顧問の先生は「どうして!」と叫ぶのも無理ないだろうが、これには理由がある。
祖父はよく時代劇を見ていたが、龍一も一緒に見ることが多く、それにより役者というものに
心惹かれてしまった為、演劇部に入ることとなった。
しかし、柔道や剣道の顧問より、なんとか入ってくれないか?と声があった為、助っ人という形で納得
してもらった。だたし、助っ人として試合も出ても、まさに圧勝という形で終わらせていた為、高校入学前に推薦入学が山ほど来ることになってしまうが、それを全て断り、地元の高校に入学した。
そこでも部活は演劇部に入り、中学と同じように柔道部や剣道部については助っ人として入る形になった。今は高校は夏休みに入っており、助っ人として入った柔道の試合の帰りである。
「それにしても今日も試合で勝ったし、また先生から勧誘がくるかな?はぁ・・・」
とため息をしつつ、帰ると家が見えてきた。
祖父の家はそれなりに大きく、道場もある為、敷地だけでもかなり大きい。帰る度にいつもでかいなぁと思いつつ、玄関を抜け、居間の方へ向かい、仏壇の前で手を合わせる。
「ただいま。父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん。」
祖父母はすでにいない。祖母は1年前に病気で、祖父は1カ月前に老衰で亡くなった為、今は親戚や近所の人たちに支えながら一人で暮らしている。
「じいちゃん、今日も勝ったよ。ただ、これで満足せず精進を続けていくけど。」
と笑顔で報告し、仏壇の前から離れる。天海流の全てを龍一に叩き込み、無事に免許皆伝まで育て上げたことで満足しただろうか、最後の祖父の顔はとても嬉しそうな顔をしていた。
「さぁて、ドラマも見たいしお風呂に入ってご飯をたべるか。」
と嬉しそうにお風呂場へ向かっていった。
翌朝、龍一は自宅の道場におり、道着に着替え一所懸命に剣を振っていた。通常こういう場合、木刀か
竹刀で素振りをするものだが龍一が振っていたのは真剣である。この真剣は刀鍛冶でもある祖父が龍一が免許皆伝のお祝いに打ったものであり、特に銘はないがせっかく祖父が打ってくれたなので祖父の名前をとり、「宗玄」と名付けた。
一振りごとに力を込めて振っているが、とても真剣を振っているようには見えないスピードで振っている。このスピードと力があれば人間の体を真っ二つに切れるのではと思わせるほどに。ある程度素振りを終え、道場の外にでると次に用意されている太さ10cmぐらいの丸太の前に立つと、刀を鞘の中に
しまい居合いの構えをとる。一瞬息を出した瞬間、目の前の丸太が真っ二つに切れる。その後、今度は
切れた後の丸太がさらに真っ二つに切れる。単純に居合い抜きにて丸太を切った後、返しに両手を使い丸太の上に振りおろし、切っただけだがその速さが異常だ。まさに目にも止まらぬ速さである。
「よし、こんなものか。」
満足そうな顔をし、刀を鞘に入れ、道場へもどると飾られている神棚に礼をして、自宅へ戻った。
自宅にて朝食を食べ終わると、学校の制服に着替え、家から出た。今日の予定は高校の部活だが、助っ人の方ではなく、演芸部の方だ。秋の文化祭に向けての出し物の内容を決める為である。
「できれば刀の殺陣を入れたアクション物にしたいけど無理だろうなぁ。言うだけ言ってみるかな。」
昨日の時代劇をみた興奮が思い出し、すこしテンションがあがりつつ歩いていると、もう少しで学校に
着く所で地面が揺れることに気付いた。
「地震か!?」
すぐに地面に伏せたが、地震の揺れがどんどん激しくなり、いっこうに止まる気配がない。それどころか
「な!?地面にひびが入って!?」
アスファルトの地面にひびが入り、徐々に大きくなっていく。龍一はそこから離れようとしたが、揺れが
大きくなかなか立つことが出来ない。しかしようやく立てたその瞬間、立っていた地面が抜けてしまい
龍一の身体はひびの中に落ちてしまった。
(くそう。せっかくの人生をこんな形で終わるなんて、ごめんなじいちゃん・・・・。)
自分の身体がどんどん落ちていくのを感じながら、そう思いつつ龍一は意識を手放した。