1+2-3=0と(死)×(未来)÷(神様)の答え
Lvとレベルとステータス。
数字が支配する世界での四則演算。
人の居なくなった世界で、
たった独り、生きていたのは人なのだろうか。
それは心穏やかに過ごしていた。
「……」
薬、Lvだけ見たら過去最高のが完成した。ウレシイ。
「……」
オハヨウ。この辺りの魔物は自分の結界は破れないし、万が一が無いように張った感知結界も静か。アンシンしてグッスリ眠れた。ヨカッタ。
「……」
いつも通り、完璧なフルコース料理。〈調理〉のレベルも上がったし、昨日よりオイシイ。
「……」
そう言えば、ここまで一ヶ所に長く住んだ家は初めてだ。魔法陣や魔導具の点検もしておかないと。まあ、明日でイイカナ。建て替えた方が早いかな。いや、長く使うのもタイセツだ。きっとアイチャクも湧くだろう。
魔物狩りが良い運動になって、スガスガシイ。
お風呂に入って、サッパリした。
天気がイイ。
風がキモチイイ。
泉がウツクシイ。
「……」
……。
プツン……と……糸が切れたようだった。見ていた者はそう言ったかもしれない。見る人など居ないが。
独りは、
感情を削り
精神を砕き
思考を奪い
魂を殺した。
認められたかったそれは、認めてくれる人をなくした。
否定されたくなかったそれは、否定される人をなくした。
さぞや、穏やかに過ごせただろう。
心は凪いだだろう。時が止まるように。
老化を、寿命を無くしたそれは。
人に殺される事無く、独りの時間に殺されたそれは。
まるで寿命を迎えたかのようだった。
それでも世界は続く。
人工物は全て、耐久が0になり、崩れ去った。
魔物は増えて、穏やかになり、Lvの平均は下がった。
魔力濃度に対して魔物の発生が追い付かなかった地域のダンジョンは、魔物の増加と共に消失した。
属性は混ざり、火山は、湖は、浮島は、谷は、丘や、湿原や、平原や、盆地に。
それは、この世界の原初の姿だった。
この5千年余りはリセットされた。
唐突に、褐色の肌の人が現れた。
神様の召喚である。
「#おお。新たな大地。感謝します。神よ」
「#さあ、皆!この世界には魔物が有る!魔物が有る。混乱している暇は無い。滅んだ地球に代わり、私達はここで繁栄しなくてはならない!」【#演説】
「「#ゥオオオオオオオッ!」」
死んでも世界は続く。
人は人で。
壁の内に巣を築き。
食べる為、生きる為に狩りをして。
増えて、殖えて。
そして、殺し合う。
人はどれだけの月日が経とうと、あるいは文明に限らず、人であった。
答え合わせ
人こそがこの神様が支配する世界の主役。
一時でも100年に100人を実行していた以上、その時間感覚は数十億年単位だっただろう。たかが、5千年。
それでも神様はまた失敗した、と思いそして学んだ。
次に同じような存在が現れたら、もっと念入りに神様に依存させよう。
次こそ人が、滅ばないよう、繁栄するよう。
神様はこれまでの失敗を元に世界の調整を進めていく。
このLvの世界では、効率の良いLv上げ等無い。
剣を持ってLvを上げるとする。
ただただ愚直に剣を振るっても良い。
知識を学び、技術を学び、剣を振るっても良い。
師に仕えても良い。
それらは等しくそれぞれの努力で、その人それぞれに向いた方法が有るだけだった。
レベルとLvは違い、
愚直な者は剣のレベルのみ高く。
学ぶ者は〈記憶〉や〈器用〉も高いだろう。
師は弟子に何をもたらすのか、弟子は師に将来を賭ける。
仮に【特殊な能力】を持つとして、それを得るのに何を犠牲にした。故郷だろうか。家族……?
それとも、成長を早めてそれ以外を望まなかったか。
それとも、始めから力を望んでゆっくり成長したのか。
【特殊な能力】は誰にでも与えられる機会があって、万能ではない。
このLvの世界で、魔女と呼ばれた存在は隔絶したLvを持っていた。【固有能力】のおかげは有るかもしれない。
だが、途方も無い時間を使った。
疲労に耐えて、疲労は絶えた。
痛みを痛いと感じなくなった。
味覚を無くした。
日々、薬を作り、道具を作り、魔物を狩って、魔法を考えた。
全ては自分の為に、知識を求め、技術を磨き、努力した。
だから、神罰は下らなかった。
本来、それが討伐される謂われは無い。
スタンピードも魔女が故意に起こしたと言うよりは、依り代を殺されて怒り狂ったそれから魔物が逃げただけである。
人の方こそ、魔女の品を奪い合い、依り代を聖女と利用し、聖女が死ねばやはり残った魔女の品を利用する。
それは人に反撃をしただけだった。
一方的に討伐隊を向けてきた相手に。
それでも人が死んでいく状況に神託をおろしたが、神様にとっては、
魔女の品で、
高Lvな冒険者を多く助けて、
疫病を討伐して、
魔物を大量に狩って、
人の繁栄に最も貢献したそれに国単位で討伐隊を向けた時点で、半分見捨てていた。
何事も無ければ平和に生産物を生み続ける筈のそれに神罰を下せば、人は自らの行いを正当化させてしまう。魔女のように、Lvの高い人は、長寿な人は、恐れられ剣を向けられる。第二、第三の魔女狩りが始まる。
だから、神様は次を見据えて再び人の絶滅を見届けた。
神様にとって人は、例えば世界と言う水面に踊る光。儚く瞬き移り変わる、あまりに短い間に強烈に目につく光。