つぎはぎだらけの嘘
あの日から、かれんに話しかけても無視されるようになってしまった。
そしてゆなも・・・と思っていたが、ゆなはいつも通り私に話しかけにきていた。
いつも通りの会話。いつも通りの笑顔。
今まで何度も見ていたゆなの笑顔がそのときは酷く怖く感じた。
その笑顔も、その言葉も全部が嘘に見えてしまう。
ゆなが怖い。こんな感情を抱いたのは初めてだ。
それでも、私はゆなに聞かなきゃいけない。かれんから聞いた話のことを。
「ねえ、ゆな」
「なーに?」
「・・・かれんに、私がゆなの悪口をネットで言ってるって嘘ついたのゆな、だよね?」
お願い。本当のことを言って。
もし私に気に食わないところがあったなら言ってくれれば直すから。
私が嫌いになったなら私は大人しく身を引くから。
だからお願い。これだけは嘘をつかないで。
「えー?なにそれ何のことー?」
「お願いゆな。これだけはふざけないで本当のことを言って」
それからの静かな時間はとても長く感じた。
お互い何も言わずに見つめあっていた時間はほんの数分、いや数秒だけだったかもしれない。
まるで何時間もそこにいるような感覚。そしてこの世界に私とゆなしかいないのかと思ってしまうほどの静かな空間を壊したのはゆなだった。
「ごめん!!」
「へ・・・?」
急な謝罪に驚いて変な声が出てしまった。
「かれんにあの嘘をついたのは間違いなく私。・・・でも悪いのはそっち。私は悪くない!」
「どういうこと?」
「あの時、あんたに階段から突き落とされたときにできた怪我のせいで私は夏の大会に出れなかったの」
多分ゆなは夏休みの前にあったことを言っている。
大会というのは部活の大会のことだろう。たしかゆなは運動部だったから。
あのときのことは今でも悪く思ってるし、もし本当にそのせいで大会に出れなくなったなら悪いのは完全に私だ。恨まれても仕方がない。
でも、突き落としたは違うくない?階段で怪我させたことは事実だけど突き落としてはない。
階段を上っていたゆなより二段ほど下から肩を軽く叩いただけだ。引っ張ってもないのにつき突き落とせるわけがない。
それに怪我といっても、脛を打っただけだ。酷くても軽い打撲程度だろう。
そのぐらいの怪我で、大会に出れなくなるか?
「それが許せなくてあんな嘘を?」
「そうだよ。でもあんなに大袈裟な話にするつもりじゃなかった。かれんの中の好感度を少し下げれればいいと思ってただけなのに、話していくうちに歯止めがかからなくなっちゃって・・・本当にごめん」
まだ引っかかることはある。聞きたいこともある。
でも、そんな泣きながら謝られたら許すしかないじゃん。
「もう謝らないで。私のほうこそごめんなさい」
こうして、私はまた破れたところをなかったことにしてしまった。
見なかったことにしてしまった。また、つぎはぎを作ってしまったのだ。
このつぎはぎを作ったことを後悔することになるとも知らずに。